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読みたくなる仕掛けを考える——2019年度安乎中学校読書ワークショップ(2/2)

僕は今年度(2019年度)洲本市教育委員会様と共同で、市内の中学生を相手にキャリア支援ワークショップを設計・実施するお仕事をさせていただいています。その中で今回は、最後の回である2020年2月に安乎(あいが)中学校で開催した読書ワークショップについて、その内容をご報告します。

なお以前のワークショップの内容、および、そもそもなぜこのワークショップを実施しているのかについては、以前のnoteをお読みいただければ幸いです。

「チームで力を合わせてストーリーを完成させよ!」

今回のワークショップでは、芥川龍之介「杜子春」を取り上げました。これまでずっと宮沢賢治だったのに、ここで芥川を取り上げた理由は、のちほどご説明します。そしてワークショップは以下のステップで進めました。

①アイスブレイク(ゲーム)
今回はワークの初めに、教室全体を使ったゲーム(「一番近い仲間を探せ!」)をしました。このゲームの結果がチーム分けにつながっており、ワークには先生方にも入っていただくことから、生徒さんと先生と、そしてファシリテーターの大学生の皆さんとでゲームをしていただきました。

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②グループに分かれて、課題文を読むワーク
ゲーム終了後、ひとりひとつ、封筒を受け取ります。そして6人でひとグループになるように分かれて、テーブルにつきます。封筒の中には、タイトルもページ番号もない、6人全員が違うテキストが入っています。これは後程参加者にも知らされますが、実は「杜子春」を6分割したテキストです。

③インタビューワーク
各自手持ちのテキストを読み終えたのち、2人ひと組でペアになって、お互いどんな文章を読んだかのインタビューを行います。インタビューの結果をワークシートに埋めていく形で、どんなストーリーだったか、読んで何を思ったかについて尋ねていき、文字に起こしていきます。なおこのワークショップでは、最初から最後まで、自分の手元にあるテキストは、他の誰にも見せてはいけないことになっています。

④シートの並び替えワーク
それぞれインタビューした内容をまとめたのちに、グループで、6分割されたテキストが、もともとどういう順番だったかを話し合い、ワークシートを並べ替えます。このときにグループでは、全体としてどういう作品だったかの共有が始まります。

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⑤グループ発表
このワークショップでは、最後に、この作品全体がどういう作品だったのか(=どういうストーリーで、誰が出てきて、どういったメッセージが込められていて、誰に向けられた作品か、などなど)について、各グループなりに考えたことを発表してもらいます。このワークショップではタイトルも伏せてあるので、グループによってはタイトルを独自に考えて発表してくれたところもありました。(ただ「杜子春」という名前が作中に出てきているので、タイトルくらいは知っている生徒がタイトルをばらしてしまう、ということはありましたが…)

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読みたくなる仕掛けを考えたい

さきに紹介した以前のnoteでは、読書教育をワークショップとして行うことの意味について、次のように書いていました。

読書会や今回のような読書ワークショップとは、複数人でひとつの作品を読む行為です。僕たちは読書を個人的な活動だと思いがちですが、ものを読むにあたって補助となる物事は、読者ひとりでは獲得できません。それは例えば、過去の経験、読むときの空間・環境、そして事前の知識やその時点での読者の感性そのものまでもです。つまり僕たちは、例えひとりで読書をしているときであっても、決してひとりで本を読んではいないのです。

この「読書行為の逆説的な構造」を最大限に生かそうというのが、僕の読書ワークショップを設計するときの考え方です。一緒に感想を共有すれば、誰かは絶対に自分が面白いと思わなかったところを、面白いといいます。そこはひとりだとずっと読み飛ばしたままだったかもしれません。また、分からないところを共有するときに、誰かがあげたことについて、自分も実はよく分かっていなかったと気づくことがあります。さらに、自分では普通だと思っている感想でも、ひとからすれば新鮮で面白いものであることがあります。自分の良さ / 面白さを発見してくれるのは、往々にして自分以外のひとなのです。

こうした考え方に沿って、前回はいかに色んな切り口で「読み込んでいくか」ということを、ワーク内に仕掛けていこうとしました。ところが、事前に読んできてもらっていた文章が、どれだけ短いものを用意しても、今の中学生にとっては長いと感じたり、辛いと感じたりしていたようです。もちろん「教育」の一環なので、読んでこさせることは可能ですが、そもそもこのワークショップ自体が、今後の読書生活の基礎を作るということを大きな目的の一つとしている以上、無理をさせて嫌な思い出を作ってしまっては逆効果であり、特別講義としては本末転倒です。

そこで今回は、事前に読んでくる必要はなく、当日に「極めて限られた一部分を」全員が同じ時間に読む、という方針を取りました。それにより参加する生徒たちの基礎状態が均一になり、かつインタビューをすることで全員が全く同じように参加できたことで、ワークショップを通じて生徒により体験できたことが違うということにほとんどならずに済むことができました。

このワークショップでは、最後の最後まで、全文を読まないまま終わります。このワークショップを通して本当のストーリーが気になったならば、是非とも自力で挑戦してほしいと思ったからです。そして実際の事後アンケートでは、多くの生徒が、読んでみたい / 読むと答えてくれました。

今回、ワーク中に読むテキストの長さは、これまでのどの作品よりも短く、しかし全体のテキストはこれまでで一番長いものです。それでいて丁度良く切り分けられる作品として、芥川龍之介「杜子春」を選んだというわけです。今回はあまり文学的な理由でなくて申し訳ありませんが、ワークショップの目的に合わせてぴったりの作品を探すことは、結構難しいのです。その意味で、今回の機会を与えてくれた芥川龍之介にはとても感謝しております。

そして今回も「中学生の読み方、あなどるべからず」と思いました。「杜子春」について、まだ全文を読んでいないにもかかわらず、どういうひとに向けた文章だったのか、作者は何を思って書いたのか、たくましい想像力で考えてくれました。もちろん、発表の仕方、考えのまとめ方など、まだまだ課題もたくさんあります。けれども、こういう機会をきっかけに、ひとつの作品をより深く読み込むこと、他者と考えや思いを共有すること、自分の考えに論理的道筋をつけること、そういったことを少しずつ意識づけてくれるようになれば、このワークショップを企画した意味があります。


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以前も書いたように、これは読書教育であり国語教育ですが、より大きな位置づけでいえば、キャリア教育であり、地域づくりの一環でもあります。来年度は、そうした目的と現場をもっと体系立てながら、安乎中学校の皆さんによりよいワークショップが提供できるように、新たな企画を考えていきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


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このワークショップは洲本市教育委員会様の委託を受けて常盤が設計したものです。ワークショップの実施やご相談がおありの方・学校関係者様・行政関係者様はお気軽にご連絡ください。
masanoritokiwa0127@gmail.com

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