見出し画像

第十三章 立場ではなく、役割が人を育てる

前章では1 ON 1で事業部の課題を聞き出し、その課題をクリアする言動を部下に促していく、そのことで人をまとめていく役割に興味を持てるよう導いていくと述べました。

このアプローチの土台にある考え方に触れていきます。1 ON 1 ではともすると、一般的には部下が目標を定めて、その目標と現状とのギャップを埋めるための取り組みを約束する手法を用いる上司もいます。

多くの企業は、この目標を与える「山登り型」で導こうとしています。しかし、そもそも目標があって、課題に主体的に取り組める人材は、自然とキャリアアップを志向してくれる可能性が高いです。

でも、ただ、このような人材は全体の2割程度であり、そこまで企業が支援しなくてもキャリアアップを志向します。

では役職者になりたがらない社員に、どのようにアプローチすれば目指そうという気持ちを呼び起こせるのでしょうか。私は山登り型ではなく、クランボルツが提唱した「川下り型」を推奨しています。どういうことでしょうか。

山登り型は、前述の通り目的地を決めて、必要な準備物を明確にしてから頂上を目指します。しかし、そもそも役職者を志向していない社員は目標が定まりにくい特性があります。かつての私がそうでした。そのため、山登り型に対して川下り型は、川の流れは岩にぶつかり、どちらに流れるかは意図できないものの、その時々に出会える景色を楽しみながらゴールへと向かうものです。

つまり、何につながるかは分からないけど、目の前のことに全力をつくせるような働きがけが適しています。「何につながるかは分からないけど、全力を尽くせる」人材なら、元々優秀な人ですね、今の若者は損得が判断基準ですからという反論をいただきそうですね。私も同感です。

どうなるか分からないけど、全力を尽くせる人材なら、そもそも働きがける必要もありません。そのため、多くの人には残念ながらそのように全力を尽くす「仕組み」が必要になります。

まずは、次代の役職者候補として社歴も経験も熟してきた人材の中で、ムードメーカーを見つけます。第一章で触れましたが、リーダーシップの源泉は「対人影響力」なので、ムードを作れる人はリーダーになれる可能性を秘めています。

ただし、まだ可能性でしかありません。そこである役割を与えます。そのムードメーカーには、定例会議の最後に必ず今の事業部の状況が良い状況にあるのか悪い状況にあるのか発信する機会を設けます。

第三章でリーダーのあなたがやるべきことであると説明した内容です。例えるなら、スポーツでいうとハーフタイム時の監督の言葉のようなイメージです。これまで職場のムードを作ってくれていた人材に、職場の風土に関わる発信をしてもらいます。

もしあなたがそのムードメーカーが何を発信するか心配ならば、事前にすり合わせるか、最後に自分もまだまだ会議で発信する方法もあります。ただ、風土メーカーとして尽力することになった社員は、風土を作るための発信をするには、事業部自体がどこに向かおうとしていて、大事にしたい軸は何なのか、メンバーと共通認識を図っておく必要があることに気づき始めます。

第三章の内容を受けて、あなた自身が事業部の風土作りに成功しているのであれば、リーダーとして影響力を持ち始めた部下に、ムードメーカーも風土メーカーも役割を委譲することは可能です。

しかし、事業部としてのビジョンや、どんな判断軸、行動基準を大事にするかは、上司のあなたしか決められません。事業部としてどの「道」を歩むのかは役職者であるあなたが選択できるのです。

あなたが大きな方向性を指し示した事業部の中で、部下がメンバーに発信するうちに、部下自身で事業部全体がどの「道」を歩むのか、方向性を決めることに興味を持つ人が出始めます。そんなにうまくいきますか?と疑問に思われるかもしれません。

風土に関する発信を定例化すると、人はメンバーによりよく伝えるためにはどうしたら良いかと主体的に学習を始めます。なぜなら伝わらないことに対する苦悩を抱え始め、それを糧に成長していくからです。

風土に関する発信を行い、そのために苦悩を抱え、成長を繰り返していくうちに、自然と役職者に必要な器が磨かれていきます。

よく立場が人を育てるという人がいますが、私の認識では以下のような表現になります。
「役割が人を育てる。そして人は役割を果たしているうちにその人に相応しい立場が与えられる」
このことに気がついていれば、役職以外のことでも、人に役割を与えることで劇的に成長する人が現れ始めます。

いかがでしたでしょうか。この章のまとめとしては、第一章から十二章まで述べた考え方を集約しています。まずは第一章から第十章までの内容で、上司のあなた自身の言動を変えていきます。

その内容を受けて、十一章、十二章では「役職者に興味を持つ」ことに特化した1 on 1 と役割の与え方について述べました。そして、本章で実際に役職候補者にあなたの役割を委譲することで部下が役職に興味を持つ道筋を立てることができました。

上司としてのあなたの信念が言語化され、部下に役割を与えられれば、リーダーは輩出できます。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リーダ―育成・事業部再生コンサルタント

本間 正道
twitterID:@masamichihon

Email:playbook.consultant@gmail.com

著書『リーダーになりたがる部下が増える13の方法』

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

よろしければサポートをお願いいたします。御恩は忘れません。頂いたサポートは、多くの人材が再び輝く日本にしていくための活動に充てさせていただきます。