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サンタのトラウマ

ゲームを欲しがっていた息子にしぶしぶ夫がゲーム機を買ったのは、4年ほど前だっただろうか。
4万円近くした。ゲームを買うことには最後までわたしは反対だったから、怒りが収まらなかった。しかもまだクリスマスが終わっていない。
クリスマスどーすんのよ。
ゲーム買ったからクリスマスはナシでもいいんだ。
でもサンタは良い子にはクリスマスプレゼントをあげないといけないし、クリスマスまでにこっそり買って押し入れの奥の方に隠しておかなければならない。
子供が喜ぶプレゼントを用意しなくてはいけないし、ゲームを買ったことはサンタには関係のないことのはずで、だからわたしは息子に何を買っていいものか、途方に暮れてしまった。
ぬいぐるみが好きな息子。でもぬいぐるみは山ほどある。ゲーム関係はもう嫌。
ラジコンは?去年買ったけど、一度しか動かさなかった。
おもちゃ売り場の前で行ったり来たりを繰り返し、時間切れになって盛大にため息をつき、本屋の前をふと通り抜けようとした。
クリスマス用に化学の絵本や図鑑が並んでいた。
これならいいかも。ちょっとは見てくれるかもしれない。
わたしは本を買い、ラッピングをして押し入れの奥に仕舞い込んで、ほっとした。
クリスマスが近づくにつれ、じわじわと後悔の波が押し寄せてきた。もしかしてとんでもなく間違ったものを選んでしまったような気持ちが襲う。
買い直そうか、いや、でも何を?
押し入れの奥に潜んだプレゼントが無言の圧力を放ち、サンタのエゴを炙ってくる。
クリスマスの朝、プレゼントを開けた息子は無言で本をベッドの上に置いた。

今年はカミングアウトし、わたしはやっとお役御免になった。心ってこんなに軽いものだったかしら。

「あのとき、俺、ほんまに死ぬほど嫌やった」
息子が真剣な顔で言う。もちろんあのプレゼントのことだろう。わたしは毅然として息子を見る。
「あれは仕方ない、だから今年は欲しいものあげるやん」
息子はまだ言い足りないようだ。
「だってさ。期待してたのに」
わかってる。でも期待を背負うサンタの身にもなってみろ。
わたしだってあの朝、死ぬほど後悔した。年に一度のわくわくする瞬間を壊してしまったと思った。
もうサンタなんて一生ごめんこうむる。だいたいコソコソ隠し事は苦手なんだ。
でもまあよかったじゃないか。あんなプレゼントを選んだのが本当にサンタじゃなくてさ。
わたしはサンタに向いていなかったのだ。ただそれだけのこと。
さよなら、サンタ。もうやらない。

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