藤本が脚本に見えて─流しのMCフジモト「悩める脚本家をヨイショする」の巻
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藤本が脚本に見えて─流しのMCフジモト「悩める脚本家をヨイショする」の巻

ツイートから生まれたシリーズ第2作

流しのMCフジモト 両手にキャバ嬢の巻」がClubhouseで初演された翌日、Twitterで前夜の興奮を分かち合っていた。

当時はバックチャンネル(という名のメッセージ機能。通称「紙ヒコーキ」「イカ」)がなかったので、Twitterを飛び交う感想は分量も熱量も今より勝っていた。打ち上げの名残が続いているようなホワホワした高揚感の中で、こんなツイートをした。

「藤本」と「脚本」は似ている。

「声真似名人藤本幸利さん、名字も寄せてる⁉︎」と投げかけたところ、藤本さんが乗ってきた。ツイートの往復をセリフでつなげてみると、

藤本「どうも、脚本幸利です」
今井「違和感がない」
藤本「(笑)」
今井「脚本に最も近い名字、藤本。ライバルは勝本、脇本。ちなみに今朝、戸籍『謄本』も『脚本』に見間違えました」
藤本「最近、脚本のことばかり考えてそうなので、少し“脚本”の事は考えずにゆっくりされた方がいいかと。脚本幸利より」
今井「お気遣いありがとうございます。やっぱり脚本のことを思い詰めているみたいで、藤本幸利が脚本幸利に見えて仕方ありません」
藤本「なんでも思い詰めるのはよくないですよ。今日は美しい花でも花束愛でながらお紅茶でも飲みながらゆっくりして下さいね。脚本脚利より」
今井「考えないようにしようとすればするほど思い詰めてしまうみたいです。揺れる花やたゆたう紅茶を愛でても頭の中はそのことばかり。とうとう藤本幸利が脚本脚利に見えてきてしまいました」
藤本「一途に思い詰める今井さんが健気で素敵です♪」
今井「この流れだと次は藤本幸利が脚本脚本に見えるはずね♪と一途に思い詰めていました」
藤本「健気です」
今井「『それは病気じゃないよ。健気だよ』。いつか使えそうなセリフ。イケボで脳内ボイスメモに保存」
藤本「“病”と表現したくなかったのですが、これなら使えそうですね口を開けて笑っている顔何気に健気で陽気な雅子さん」
今井「違和感がない」

このやりとりが原作になって、流しのMC第2弾「悩める脚本家をヨイショする」の巻が生まれ、同時にシリーズ化が決定した。「病気じゃなくて健気」もちゃっかりいただいた。

登場人物は二人だけ。
フジモト    流しのMC
マダムマサコ       悩める脚本家

今井雅子作 流しのMCフジモト「悩める脚本家をヨイショする」の巻

フジモトN「私は流しのMCフジモト。MCとはマスターオブセレモニー、つまり司会のこと。だが、今日、私がこのムダにイイ声を使う相手は、たった一人。依頼内容は、悩める脚本家マダムマサコをヨイショして、イイ気持ちにさせること。ヨイショで原稿がはかどる。そんなおめでたい話があるのだろうか。床面積に対して物が多過ぎる部屋。依頼人は片付けられない性分らしい。足の踏み場を探しながら、初対面のマダムマサコに近づく」

フジモト「はじめましてマサコさん。わたくし、こういう者です」
マサコ「名刺をどうも。脚本(キャクホン)さん」
フジモト「いえ、脚(あし)に本(ホン)と書いて『脚本』ではなく、藤(ふじ)に本(ホン)と書いて『藤本』です」
マサコ「失礼しましたフジモトさん。でも、『藤本』と『脚本』って似てますね」
フジモト「似てますか?」
マサコ「似てない? (ドーンと落ち込み)やっぱり私、世間の感覚とズレているのね。だから書けないのね」
フジモト「(ブツブツ)しまった。マダムマサコがドーンと落ち込んでしまった。(ヨイショモードで)いやー似てますよねー。わたくし、常々そう思っていたんですが、なかなか気づいてもらえなくて。名刺を見て、名前の文字面(づら)に注目するなんて、さすが脚本家さんですね!」
マサコ「良かった。脚本のことばかり思い詰めているから『藤本』が『脚本』に見えたのかと思ったけど、フジモトさんも思ってたんですね。『藤本』と『脚本』が似てるって」
フジモト「はいっ! わたくしMCフジモト、声真似が得意でして、何かにつけ、真似するのが大好きなんです! それで芸名も脚本に寄せちゃいました!」
マサコ「良かった。『藤本』が『脚本』に見えても、心配いらないんですね」
フジモト「もちろんです。それだけ一途に脚本のことを考えているって、健気で素敵です」
マサコ「ありがとう。フジモトさんって、ほめるの上手。あれ? どうしよう。『藤本幸利』が『脚本脚利』(キャクホンキャクトシ)に見えてきちゃった」
フジモト「キャクホンキャクトシ、ですか」
マサコ「藤本の『藤』と脚本の『脚』(キャク)は似てるけど、幸利の『幸』(ユキ)の字、『幸せ』と脚本の『脚』(キャク)は全然違う」
フジモト「確かに全然違いますよね」
マサコ「(ドーンと落ち込み)やっぱり私、世間の感覚とズレているのね。だから書けないのね」
フジモト「(ブツブツ)しまった。マダムマサコがドーンと落ち込んでしまった。(ヨイショモードで)そんなことないですよ!幸利の『幸せ』と脚本の『脚』(キャク)って、よく見ると似てますよ!」
マサコ「似てる? どこが?」
フジモト「どこが? (ブツブツ)どこが似てるだろう。似ているところを探さなくては……(ハッと気づいて)あった! マサコさん、脚本の『脚』(キャク)の字の真ん中を見てください」
マサコ「脚本の『脚』(キャク)の真ん中?」
フジモト「よーく見てください。幸利の『幸せ』に似てませんか?」
マサコ「脚本の『脚』(キャク)の真ん中と、幸利の『幸せ』。あ、『土』(つち)がおんなじ!」
フジモト「そうです。どちらも『土』がついているんです!」
マサコ「やだ、不吉」
フジモト「え? 不吉、ですか」
マサコ「相撲で『土がつく』って負けることじゃない?」
フジモト「あ! 確かに」
マサコ「これって暗示よね? 私、世間に負けるのね。そうじゃない、弱い私自身に負けるのね。どっちにしても負けるのね」
フジモト「(ブツブツ)どうしてそうなる? (ヨイショモードで)いやー、さすが脚本家。その豊かな教養とたくましすぎる想像力があれば何でも書けますよ!」
マサコ「ほんと?」
フジモト「藤本幸利、いえ脚本脚利(キャクホンキャクトシ)、マダムマサコの脚本愛に感服しました! 『藤本幸利』と書いて『脚本幸利』(キャクホンキャクトシ)、いいですよねー。キャクホンアシトシ、こっちのほうがいいかも。いっそ名刺作り直しちゃおうかな」
マサコ「良かった。こんなに脚本のことを思い詰めちゃうって、私、どこかおかしいんじゃないか、何かの病気なんじゃないかって心配だったんです」
フジモト「マサコさん、それは病気なんかじゃありませんよ。健気です」
マサコ「病気じゃなくて健気」
フジモト「でも、あまり根詰めちゃダメですよ。健気はほどほどに。健やかな気と書いて『健気』ですから」
マサコ「健やかな気と書いて『健気』」
フジモト「『藤本』と書いて『脚本』。『藤本幸利』と書いて『脚本幸利』(キャクホンアシトシ)。『病気』と書いて『健気』」
マサコ「『病気』と書いて『健気』? やっぱり病気なのね私」
フジモト「しまった! ついうっかりして、馬脚を現してしまった!」
マサコ「(吹っ切れた声で)フジモトさん。それを言うなら、馬脚じゃなくて、馬・脚・本(バ・キャク・ホン)を現す、でしょ」
フジモト「バ・キャク・ホン。なるほど。あれ? マサコさん、なんだか、お声もお顔も明るくなってません?」
マサコ「ありがとうフジモトさん。おかげで書けそうな気がしてきた」
フジモト「良かったです。ご満足いただけましたでしょうか」
マサコ「大・満・足」
フジモト「それで、ギャラなんですが……」
マサコ「カラダで支払わせて」
フジモト「(身構えて)カラダで?」
マサコ「フジモトさんがカラダを張ってくれたから、私もカラダを張って、今の話、脚本にしてあげる」
フジモト「は?」
マサコ「マダムマサコが藤本幸利主演ドラマの脚本をあて書きしてあげるって言ってるの」
フジモト「え、いや……」
マサコ「フジモトさんったら、ぽかんとしちゃって。感激で言葉にならないのね」

フジモトN「晴れやかなマダムマサコと引き換えに、私は、スッキリしない気持ちでマダムマサコの部屋を後にした。間もなくマダムマサコから、あの日の会話を文字起こししただけの脚本が送られてきた。それから一年。ドラマ化の連絡は、まだない」

めんどくさいマサコ

4月29日に初演された「悩める脚本家をヨイショするの巻」。藤本さんから生まれたMCフジモトの依頼人は、原稿が書けなくて悩んでいる脚本家マダムマサコ。会話の原作は藤本さんとのツイート。足の踏み場のない床はわたしの仕事場がモデル。noteの最初の記事のタイトル画像に「だいぶ床が見えてきた(当社比)」仕事場の写真を使っている。

マサコのキャラクターは、わたしとは別人のつもりだけど、わたしが書けなくなって、お金でタイコモチを雇って、遠慮なくめんどくさくなるとしたらと妄想を膨らませた。

声で演じてもらうと、マダムマサコは、とことんめんどくさい女だった。反面教師にして、そっと背中を向けて他人のフリをしたい。

9月23日の2本立て再演では、徳田祐介さんがマダムマサコを演じてくれた。久しぶりのマサコは、やはりめんどくさい女だった。書くものも相当こじれてそうな気がする。友だちもいないのではないだろうか。そんな心配をかき立てるマサコ。声とともに命を吹き込まれてしまった人騒がせなヒロイン。

桜井ういよさんが作ってくれたアイコンたち。マダムマサコのシルエット、やはり原稿に集中できる人とは思えない。

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第1作の舞台はキャバクラ、第2作の舞台は脚本家の仕事場だったが、MCフジモトがやっていることはホストに近い。

一人でホストクラブに行けないマダムマサコに同伴したフジモトがホストたちとモノマネ対決になり、マダムマサコが大盤振る舞いしたシャンパン代をなぜかフジモトが支払わされる……。

そんな新作も、そのうちに。




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脚本家・今井雅子(Clubhouse朗読 #膝枕リレー)

目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。

ありがとうございます。ほくほくのたこ焼きどうぞ❤︎
🎤Clubhouseにて「膝枕」オトナの朗読リレー中✏︎saita連載小説「漂うわたし」✏︎オーディション発「私じゃダメですか?」脚本公開✏︎おじゃる丸✏︎嘘八百シリーズ🖥https://lit.link/masakoimai