あて書きを誘う声─流しのMCフジモト「両手にキャバ嬢」の巻
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あて書きを誘う声─流しのMCフジモト「両手にキャバ嬢」の巻

「ええ声の無駄遣い」の人

「流しのMCフジモト」はClubhouseで親しくしている藤本幸利さんにあて書きした短編脚本タイトル(のちにシリーズ名に)。

藤本さんは『嘘八百 京町ロワイヤル』に通販番組のナレーター役で出演されているのだが、知り合ったのはClubhouseで、声だけのつながり。毎日のようにしゃべっているので、半年前に知り合ったばかりで、まだ会っていないのが不思議な感じ。

藤本さんの特長は、ええ声を惜しげもなくモノマネで駆使するサービス精神と探究心。モットーは「ええ声の無駄遣い」‼︎

そんな藤本さんが「これまでに呼ばれた忘れられない現場」のエピソードをClubhouseで披露していた。結構トホホな話なのだけど、藤本さんが話すと、なんだか楽しそうで、情けなさもチャーミングだった。これ実話人情コメディーやん。

藤本さんを主役にドラマを書きたくなり、すぐにプロットを送った。

キャバ嬢のトップ争いに巻き込まれるアナウンサー。なぜか弱みを握られていて、おまけに妻がこっそり働いてることを知り、最後は妻も含めた女たちに詰め寄られるが、彼は極度のM男で「もっと言って」となり、「なんでこんな男と結婚したん?」と呆れられる妻。だが、「そんないじめたらんといて」とアナウンサーをかばう妻。愛を再確認した夫妻は仕事をほっぽり出し、手を取り合って店を飛び出しハッピーエンド。

そこから脚本を膨らませ、4月5日に初稿を書き、少し加筆して4月14日に2稿、4月16日にエロボおじさんのルームで初演を迎えた。

プロットでは「アナウンサー」となっているが、「流しのMC」が韻を踏んでいて気に入ったので、「流しのMCフジモト」とタイトルをつけた。

音声劇脚本なので、「」に入っていない文は、地の文ではなく、足音やドアの音などの効果音を指定する「ト書き」。効果音を入れない場合は「間を取る」でOK。

登場人物は
フジモト   流しのMC
支配人    キャバクラ支配人
黒服     キャバクラ黒服
アケミ    キャバ嬢
ユリコ    キャバ嬢 フジモトの妻

今井雅子作 流しのMCフジモト「両手にキャバ嬢」の巻

藤本N「私は流しのMCフジモト。今日の仕事場はキャバクラ。新年会の司会を頼まれた。店の名前は、勇ましい猫と書いて、勇猫(ユーニャン)。しびれるネーミングだ」

重厚なドアを開ける。

黒服たち「(口々に)おはようございます」

藤本N「重厚なドアを開けると、黒服たちが私を出迎える」

藤本M「しまった。黒のスーツを着てきてしまった。これでは、MCが黒服に紛れてしまう」

偉そうな足音が近づく。

黒服たち「(口々に)おはようございます支配人」
藤本M「(ブツブツ)支配人さんだ。(支配人に)おはようございます。本日はお声がけいただき……」
支配人「(遮り)ちょっと新入り、バックヤード手伝って」
藤本「(ブツブツ)え? 黒服と間違えられてる? (支配人に)違います! わたくし、本日の新年会のMCの……」
支配人「MCって何?」
藤本「マスターオブセレモニー。つまり、司会です」
支配人「あんた司会?」
藤本「はい! 藤本です!」
支配人「プロフィール写真と顔違うよ」
藤本「あ……あれはちょっと古い写真でして」
支配人「本当に司会?」
藤本「はい。(司会口調で)本日は、キャバクラ勇猫の新年会にようこそおいでくださいました。皆様、盛り上がって参りましょう!」
支配人「確かに、サンプルで聴いた声によく似ている」
藤本「はい! 本人です!」
支配人「だが微妙に違う」
藤本「は?」
支配人「あんた、ものまね芸人だな」
藤本「違います!」
支配人「何かものまねやってみろ」
藤本「え?」
支配人「猫の鳴き真似はできるか?」
藤本「猫、ですか」
支配人「できないのか? あんたプロなんだろ?」
藤本「できます! やります! (猫の鳴き真似)」
支配人「ふむ。さかりのついた猫は?」
藤本「(さかりのついた猫の鳴き真似)」
支配人「ふむ。プロの意地、見せて来たな。では、お腹の空いたユーニャン」
藤本「ユーニャン?」
支配人「うちの猫だ」
藤本「(ブツブツ)飼い猫の名前だったのか。ユーニャンって、どんな猫だよ」
支配人「できないのか? プロの限界か?」
藤本「できます! やります! (迷いながらの鳴き真似)」
支配人「その悩ましい鳴き声。そっくりだ!」
藤本「(!)そっくり、ですか」
支配人「まるで生き写しだ。見せてくれたな。プロのものまね芸人の意地」
藤本「ありがとうござい……(ハッ)違います! わたくし、ものまねが得意なMCでして」
支配人「だから、ものまね芸人でしょ? MCのMは、ものまねのMじゃないの?」
藤本「違います!」

ハイヒールの足音が近づいて、

キャバ嬢アケミ「支配人、この方、本物の司会者さんだと思います」
支配人「アケミ、そうなのか?」
キャバ嬢アケミ「私、ラジオでこの人の声、聴いたことあります」
支配人「さすが一度聞いた客の声は忘れない耳接待の女王。アケミが言うなら間違いないな」
藤本「わかっていただけて良かったです」
支配人「このところ芸人の売り込みが多くてね。疑って悪かった。ハジモトさん」
藤本「フジモトです」
支配人「その衣装じゃあ華がないな。アケミ、ハジモトさんに衣装見立ててあげて」
アケミ「ハジモト様、こちらへ」
藤本「フジモトです。失礼いたします」

立ち去る足音。
衣装部屋のドアが開き、閉まる。

アケミ「こちら、衣装部屋です」
藤本「アケミさん、でしたっけ。助かりました。私のラジオ、聞いてくださっていたんですね」
アケミ「聞いたことないですけど」
藤本「え?」
アケミ「(耳元でささやく)貸しができちゃいましたね、フジモトさん」
藤本「アケミさん、顔、近いです」
アケミ「綺麗な形の耳たぶ」
藤本「はい?」
アケミ「噛んでいい?」
藤本「あ……はい。あ、いや、ダメです」
アケミ「うちの年間MVP、司会が選ぶのよね」
藤本「はぁ」
アケミ「今年は私とユリって子の一騎打ちになりそうなんだけど、私に勝たせて」
藤本「はい?」
アケミ「あの子にだけは勝たせたくないの」
藤本「そういう取引は……」
アケミ「誰も見てない。誰も知らない」
藤本「でも、ダメです……うわっ。耳たぶ、なめないでください!」
アケミ「噛むほうが好き?」
藤本「どちらかといえば……じゃなくて!」
アケミ「ねぇフジモトさん。私、こんなにドキドキしてる」
藤本「アケミさん、ちょ、ちょ、手、離してください!」

ドアがバンっと開いて、

ユリ「アケミ、何やってんの?」
アケミ「ユリ!」
藤本「! ユリコ!」
ユリ「あんた何やってんのこんなとこで!」
藤本「ユリコこそキャバクラで何やってんだ!」
ユリ「何って、見ての通り仕事だけど」
藤本「俺も、見ての通り仕事だよ」
ユリ「新入りの黒服って、あんたのこと?」
藤本「違うよMCだよ。新年会の」
ユリ「黒服にしか見えない」
藤本「だから衣装を借りようと思って」
アケミ「ちょっと待って。ユリと司会者さん、知り合い?」
ユリ「……ダンナ」
アケミ「ダンナ?」
藤本「別居中、ですが」
アケミ「一応ダンナってわけ?」
ユリ「人の一応ダンナと、何してたの?」
藤本「ないないない、何もない!」
ユリ「MVPを獲らせて欲しいって、そそのかしてたんでしょ。色仕掛けで」
アケミ「そんなことするわけ……」
ユリ「この人の鼻の下が、こーんなに伸びてる」
藤本「伸びてない伸びてない」
ユリ「伸びてるのは鼻の下だけ?」
藤本「ユリコ、そんなことより」
ユリ「(遮り)アケミより私を選んでよ」
アケミ「もう冷めきってるんでしょ?」
ユリ「私が勝ったら、賞金の100万円、山分けしてあげる」
藤本「いいの?」
ユリ「一応、まだ夫婦だから」
藤本「賞金100万を山分けして50万……」
アケミ「ちょっと、何グラっと傾いてんのよ?」 
藤本「え、だって、50万……」
アケミ「耳たぶなめてあげたのに」
ユリ「そんなことしてたの?」
アケミ「じゃあ私も山分けで」
藤本「どっちが勝っても50万……」
ユリ「私が勝ったら、もう10万のせる!」
藤本「ユリが勝ったら60万……」
アケミ「フジモトさん、今日の司会のギャラ、聞いてます?」
藤本「いえ、聞いてませんけど」
アケミ「50万」
藤本「50万!」
アケミ「私を勝たせてくれたら、50万と50万で100万」
藤本「100万!」
アケミ「耳たぶも噛んであげる」
藤本「耳たぶ……♡」
アケミ「でも、ユリを勝たせるなら、支配人に言いつける。この人、ユリのダンナだって。ダンナだから妻を勝たせたんだって」
ユリ「姑息」
アケミ「どっちが?」
藤本「ユリ、ここはアケミさんに勝っていただこう」
ユリ「アケミに勝たせるのだけはイヤ!」
藤本「でも、50万と50万で合わせて100万……」
ユリ「100万と私のプライドとどっちが大事?」
アケミ「(ささやいて)耳たぶ」
藤本「耳たぶ」
支配人(外から)「アケミ、いつまで衣装探してるの? お客さん来ちゃうよ。お出迎えしないと」
アケミ「支配人来ちゃった」

ドアが開いて、

支配人「ちょっと、ユリまで衣装部屋で油売ってちゃダメじゃない」
アケミ「支配人、この司会者さん、ほんとは」
ユリ「アケミ、言わないで!」
藤本「お願いします!」
アケミ「ものまね芸人です」
ユリ・藤本「え?」
支配人「あれ? さっき、この人の声、ラジオで聞いたって」
アケミ「あれ勘違いでした。この人のものまね芸、テレビで見たんです」
支配人「そうなの?」
アケミ「猫がカリカリ食べ過ぎて吐きそう」
藤本「(ものまねする)」
アケミ「『先生』としゃべるヤギ」
藤本「(ものまねする)」
アケミ「巨大ロボットが近づいて来る」
藤本「(ものまねする)」
アケミ「何言ってるかわからないデスメタルの曲紹介」
藤本「(ものまねする)」
ユリ「あんた、何腕上げてんのよ?」
藤本「ユリが出て行って、淋しかったから」
ユリ「淋しかったから?」
藤本「家の中がしーんとしてたから、いろんな鳴き声や音を出して、にぎやかにしてた」
ユリ「やだ。キュンキュンさせないでよ」
藤本「キュンキュン、した?」
ユリ「私、バカだった。ユキちゃん仕事なくて、生活きつくて、このままじゃどこにも行けないと思ってた。お金があれば自由になれると思って、キャバ嬢になったけど、ユキちゃんのその声があれば、どこだって行けるじゃない」
藤本「そうだよ。ジャングルだって、雪山だって、どこにだってユリコを連れて行ける」
ユリ「ユキちゃん」
藤本「ユリコ……」
支配人「アケミ、この二人、どうなってるの?」
アケミ「お似合いですよねー」
ユリ「行こう」
藤本「え? でも……」
ユリ「新年会なんか」
藤本「いいのか? MVP獲れたら100万。俺のギャラと合わせて150万」
ユリ「その七色の声でいくらでも稼げばいいじゃない」
藤本「そうだよな! あ、でも、(未練がましく)耳たぶ……」
ユリ「私が噛んであげる」
藤本「うん♡」

藤本N「こうして俺とユリコは手を取り合ってキャバクラ勇猫(ユーニャン)から立ち去った。あれからひと月。仕事は、まだない」

シリーズ化、再演、MCフジモトは続く。

あらかじめ決まった役者さんが演じることを想定して書くことを「あて書き」と言う。あて書きはキャラクターを投影しやすいので、書きやすい。すでにできているキャラクター(とくに原作もの)に当てはめたり寄せたりすることが多いが、MCフジモトの場合はキャラクターそのものが藤本さんから始まっている。ユニバーサル・オーディション「ルーツ」や「漁師のリカコさん脚本塾」風に言えば、「引き出し書き」でもある。

自分から生まれた役を他でもない自分が演じる。フィクションとドキュメンタリーが混じり合う。あて書きするほうは楽しい。されるほうは、うれしい。MCフジモトが初主演作だった藤本さんからは、初演の翌日、

とにかく僕は昨日と言う日が幸せ過ぎて眠れませんでした。

と興奮さめやらぬ感想が届いた。

それからもTwitterで感想を交わしているうちにMCフジモトが悩める脚本家をヨイショするという次のエピソードを思いつき、すぐさま初稿を書いた。

2作目は4月29日に初演された。ひと月のうちにシリーズ化。放送作品では考えられないスピード感がClubhouseの醍醐味だ。MCフジモトは熟成させるより思いつきを刺身で食べるのが向いている。

と思っていたのだが、9月23日、Clubhouseの第22回エロボおじさんルームで「流しのMCフジモト」が2本立てで再演されて、驚いた。

「テンポが良くなって面白くなってる!」

ホンはそのままなのだけど、演者のスキルが上がっていた。Clubhouseで連日朗読したりセッションで読み合わせしたり。7月にやったクラハ劇「頭のいい説明すぐできるコツ」での猛練習も演技力に磨きをかけた様子。

初演のときにはなかった役名アイコンも。

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聴くとまた書きたくなってしまうMCフジモト。再演の翌日にシリーズ第3作を一気に書き上げた。書いたら演ってくれる役者がいる。まるで座付作家ではないか。

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脚本家・今井雅子(Clubhouse朗読 #膝枕リレー)

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🎤Clubhouseにて「膝枕」オトナの朗読リレー中✏︎saita連載小説「漂うわたし」✏︎オーディション発「私じゃダメですか?」脚本公開✏︎おじゃる丸✏︎嘘八百シリーズ🖥https://lit.link/masakoimai