新作落語台本・脚本募集に間に合わなかった金次郎
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新作落語台本・脚本募集に間に合わなかった金次郎

noteでつながったさかうえかおるさんと新作落語台本・脚本募集の授賞式で並びましょうと励まし合いつつ、わたしは締切に間に合わず、2か月遅れて完成。昨年の応募作「ららら日本語誘拐事件」より登場人物も場面転換も絞って、落語らしくなったかも。

公開するにあたり、さかうえさんに読んでいただいたところ、的確すぎる指摘をいただき、反映させました。

今井雅子作「禁じられた金次郎」

金次郎「すみません。誰かいますか?」
ジョン金「おう、新入り金次郎か?」
金次郎「あっ、あなたも金次郎」
ジョン金「ここにいるのは、みんな金次郎だ。アイアム、ジョン金次郎。ここのエブリバディからはジョン金と呼ばれている」
金次郎「ジョン金さん。ジョン万と呼ばれたジョン万次郎みたいですね」
ジョン金「エグザクトリー。新入り金次郎、若いのによく勉強しているじゃないか。ウェルカムトゥ『金次郎パニッシュルーム』。金次郎始末部屋にようこそ」
金次郎「し、始末部屋⁉︎ やっぱり、僕たち、始末されちゃうんですか」
ジョン金「まあそうビクビクするな。俺たちは何も悪いことをしていない。世の中ってもんは、すぐに手のひらを返しやがる。俺たちはそのとばっちりを食らったんだ」
金次郎「とばっちり、ですか」
ジョン金「そうだ。『歩きスマホが危険ってことは、あれも危険ですよね?』『あれを認めてしまうと、歩きスマホも認めてしまうことになりますね』『あれのせいで事故が起きてしまっては困りますね』てなわけで、金次郎禁止令なんてものが出され、全国津々浦々の金次郎が撤去され、ここに集められた」
金次郎「はー。背中に薪を背負って、歩きながら本を読みふける姿が問題になってしまったんですね」
ジョン金「新入り、今、薪と言ったな?」
金次郎「はい」
ジョン金「ショーミーユアバック。背中にしょってるものを見せてみな。ほう、やはり君は薪派だね」
金次郎「マキハって何ですか」
ジョン金「薪派と柴派の二大派閥があってな。ざっくり分けると、太いのが薪で、細いのが柴。柴のほうが手が込んでるから、柴派連中が幅をきかせているんだ」
金次郎「じゃあ僕、弱小派閥なんですね」
ジョン金「心配するな。俺も薪派だ。少数派だが、切れ者が揃っている。あそこで高級グルメ本を読み耽っているのが、すきやばし金次郎。股旅物の時代小説を一人語りしてるのが、木枯らし金次郎。人情話で泣かせているのが浅田金次郎。南極探検の冒険譚を涙ながら語っているのが、タロウ金ジロウ」
金次郎「いろんな金次郎さんがいらっしゃるんですね」
ジョン金「ああ、金次郎にも多様性の波が押し寄せている」
金次郎「あそこでかたまっている金次郎さんたちは、変わってますね。背中に鹿を背負ってたり、本のかわりにお好み焼きを広げてたり」
ジョン金「あれは、ご当地金次郎だ。郷土色を出そうとして、金次郎色が薄まってしまった。いい形になってないのを本人たちも自覚していて、似た者同士でアンラッキーを慰めあっている」
金次郎「あちらの金次郎さんは、お行儀良く正座して本を読んでいるのに、撤去されちゃったんですか」
ジョン金「あれは尻に熊の皮を敷いたのがいけなかった。動物愛護団体から訴えられた」
金次郎「どこからでも攻撃されちゃうんですね」
ジョン金「もっと怖いのは男女同権ってやつだ」
金次郎「金次郎は男しかいませんからね」
ジョン金「名前も見た目も男だが、中身まで男だと、どうして言いきれる?」
金次郎「どういうことですか」
ジョン金「今のはジェンダー事情に詳しいジェンダー金次郎、人呼んでジェン金の受け売りだ。ジェン金は、見た目は男だが心は女で、恋愛対象は女だ。世の中は男と女にきれいに分かれるもんじゃないってことだな」
金次郎「なるほど」
ジョン金「ここからが問題だ。俺は、とんでもないことに気づいちまったんだ。ここにいる俺たち金次郎全員がノーボールだってことにな」
金次郎「ノーボールですか!?」
ジョン金「俺たち銅像にはタマがついてない。つまり金次郎は生物学上は男じゃなかったってことだ」
金次郎「うわーほんとだ」
ジョン金「俺もここのエブリバディもアイデンティティークライシスに陥った。だが、辞書に詳しい字引きん次郎が答えを出してくれた。最近の改訂で男の解釈が広がり、生殖機能が備わっていることが絶対条件ではなくなったらしい」
金次郎「何事も知識で解決できるんですね」
ジョン金「ザッツライト。例の疫病も俺たちの叡智を集めれば、収まるかもしれない。少なくとも、ここの連中の計算では、3日あればマスク2枚を全国津々浦々に配りきれることになっている」
金次郎「すごい。たった3日ですか!」
ジョン金「まあ狭苦しい所だが、ここにいると退屈はしない。知性と想像力があれば、どこまでも自由だ。今は辛抱のときだが、いずれまた、俺たちの時代がやって来る」
金次郎「ありがとうございます。ジョン金さん。ここに放り込まれたときは、自分の存在意義を見失っていましたが、今は本を読んだときのように目の前の霧が晴れました」
石原「(駆け寄り)ジョン金の兄貴、ヤバイっすよ」
ジョン金「どうした? 石原の金次郎?」
金次郎「金次郎なのにジーパン!」
石原「無線を傍聴してたら、金次郎の銅像を溶かして銅にするって物騒な計画が」
ジョン金「なんだって! よし、金次郎、全員集合! 緊急対策会議だ!」

ジョン金「いやー、エブリバディ、よく戦った。ナイスファイト。金次郎の団結力を見せつけたな。国が送り込んだ作業部隊を撃退してやったぞ」
金次郎「相手の戦法の裏をかくのはお手のものです。なにせ本を読んでますから!」
ジョン金「ザッツライト。古今東西の戦術書に戦記物語、占い、催眠術、人を動かす魔法の言葉、ビジネス英会話、おもてなしの作法。膨大な知識を武器に、あの手この手で作業部隊を味方につけた。あっぱれ。グッジョブ」
金次郎「薄暗かった金次郎始末部屋が、改修工事で御殿のような立派な建物になりましたね。耐震構造でデザインも秀逸。誇らしげに掲げられた金次郎ミュージアムの看板」
ジョン金「いつの間にやらファンクラブまで結成されているじゃないか。すっかり世論を味方につけちまった」
金次郎「なにせ本を読んでいますか。やっと僕たち金次郎の時代が来ましたね、ジョン金次郎先輩」
ジョン金「何寝ぼけたこと言ってんだ新入り。俺たち金次郎には、冷暖房のついた御殿なんてものは必要ないんだ。雨にも負けず、風にも負けず、町に立って、本を開く。それが俺たち金次郎の使命なんだよ」
金次郎「そうでした。金次郎の本分を忘れて、浮かれてしまった自分が情けないです」
ジョン金「新入り、あと一歩だ。ここまで来たら、国もほうってはおけない。やはり金次郎を禁じたのは間違いだった。汚名返上、名誉挽回。そうなってこそ、やっと俺たちの時代を取り戻せる! 元いた場所に呼び戻してもらえるぞ!」
金次郎「そうですね! ジョン金次郎先輩!」石原「(駆け寄り)ジョン金の兄貴、明日発売のブンシュンのゲラが手に入ったっすよ」
ジョン金「センテンススプリンカバズーカ! さすが仕事が早いな石原の金次郎。見せてみろ。ほう、このたびの金次郎騒動を受けて、国と有識者は、金次郎の読書効果を確認。そこで緊急のお触れを出すことになった」
石原「ジョン金の兄貴の言った通りっすね! 無罪放免、釈放っす!」
金次郎「僕たち金次郎が金次郎でいられる時代が、ついに来るんですね! 街角で薪を背負って本を読む姿を見て、皆さんのお手本にしてもらえるんですね!」
ジョン金「あれ? おかしいな」
石原「どうしたんすか兄貴?」
ジョン金「『金次郎禁止令を撤回する』とお触れには書かれていないらしい」
石原「はあ?」
金次郎「じゃあ一体なんて書かれてるんですか?」
ジョン金「国民は、本を歩きながら読むように」

おつきあいいただける方は「ららら日本語誘拐事件」「鳴り物入り」もどうぞ。



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脚本家・今井雅子(Clubhouse朗読 #膝枕リレー)

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ありがとうございます。故郷堺のハニワ課長ぬりえをどうぞ。ドキドキ❤︎
🎤Clubhouseにて「膝枕」オトナの朗読リレー中✏︎saita連載小説「漂うわたし」✏︎オーディション発「私じゃダメですか?」脚本公開✏︎おじゃる丸✏︎嘘八百シリーズ🖥https://lit.link/masakoimai