企画という恋がおわるとき(出張いまいまさこカフェ8杯目)
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企画という恋がおわるとき(出張いまいまさこカフェ8杯目)

2006年9月から4年にわたって季刊フリーペーパー「buku」に連載していたエッセイ「出張いまいまさこカフェ」の8杯目。

《鴻上尚史さんの書かれた舞台『恋愛戯曲』に「恋のはじまりには、理由はない。だけど、恋の終わりには理由がある」という名台詞があるが、企画という恋も情熱にまかせて走り出し、さまざまな理由(事情)で終止符が打たれる》

フタマタナンカモ アリマスネ。

企画という恋がおわるとき 今井雅子

パソコンの動作が日に日に遅くなり、一行変換するのに一分。鈍行列車が停車する各停で油を売るような状態で、いつまで経っても目的地にたどり着けない。商売上がったりで、ついに買い替えた。

なかなか目的地に着けないといえば、映画のホンづくり。放映日から逆算して決定稿を上げるテレビは終点が定まっているが、資金集めやキャスティングが脚本から出発する映画の場合は、交渉が難航するうちに撮影・公開という終点が遠くへ遠くへと移動し、ついに消えてしまうことも珍しくない。

わが戸棚に並んだ脚本の背表紙を見ると、半数ほどがその憂き目に遇っている。脚本を製本するのは作品の本気度を測る尺度のひとつ。「刷りますよ」とプロデューサーが言えば、それを持って出資先やキャストを当たるということだから、実現に向けて大きく前進することになる。

なのに、棚の一段を占める「印刷止まり」コレクション!

「検討稿」「準備稿」「準備稿2」と名を替え表紙の色を替え口説く役者に合わせて主人公の設定まで替えた労作シリーズも。自分のホンで口説けなかったわけだから、余計に悔しい。印刷にかけられる前に散った企画を含めると、数えきれない。もしかしたら、ボツ脚本の生産量では日本一なのではと思うほど。惚れっぽくて、声をかけられると、つい乗ってしまう。

鴻上尚史さんの書かれた舞台『恋愛戯曲』に「恋のはじまりには、理由はない。だけど、恋の終わりには理由がある」という名台詞があるが、企画という恋も情熱にまかせて走り出し、さまざまな理由(事情)で終止符が打たれる。原作者に脚本を気に入っていただけず失恋に終わるケース。脚本が書けたところで「すみません、原作者に映画化の話が通ってませんでした」というトホホな片思い。原作のブームが一段落すると「旬を過ぎた」という理由で打ち切られる。企画にもモテ期があり、婚期がある。

この企画を続けても先はない、と「別れの予感」がよぎるときの胸の痛みも恋愛に似ている。自分からサヨナラする意気地はなく、ここまで来たんだからという意地はあり……。「結婚できる見込みのない今の彼と別れるべきでしょうか」なんて人生相談に、ドキッとなる。

わたしの脚本では出口が見えず、別れ話を切り出されることもある。自分の力不足は悔しいけれど、いい脚本家と出会って、愛せる作品となって世に出てほしいと願う。元カレが自分よりいい女と幸せになってくれないと、「なんでわたしじゃダメだったの?」と未練が残ってしまう。 

恋愛と同じく、のめりこんだ企画ほど破局の痛手は大きい。大失恋を味わうたび、もうこりごりという気持ちになる。なのに、気がつけば、次の恋をはじめている。

写真脚注)はじめて映画祭の審査員を務めます。SKIP CITY国際Dシネマ映画祭(7/19〜27)にて。www.skipcity-dcf.jp

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中国語に恋して

掲載号の特集は阿部力さん(『花より団子ファイナル』美作あきら役)とタナダユキ監督(『百万円と苦虫女』)。

阿部力さんといえば、「テレビで中国語」で一方的に親しみを覚えていたときに宅間孝行さん作・演出・主演の舞台に出演されていて、楽屋に宅間さんを訪ねたときに「アーブーリー!」とお名前を呼びかけたものの中国語が続かず、「我看、我看(わたし見てます、わたし見てます)」と壊れたレコード状態になっていたら、「テレビで中国語ですね?ありがとうございます!」と爽やかに返していただいた。

中国語を習い始めて、今年で10年。響きも文法も美しく、日本語とはまた違う色気と奥行きがある。もっと自在に使いこなしたいけれど、忘れる力が覚える力を上回り、情熱的には盛り上がれない。「そんなに長くやってるんですか!(その割に……)」と驚かれる初々しさを留めながら、たどたどしい恋が続いている。

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脚本家・今井雅子(Clubhouse朗読 #膝枕リレー)

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