見出し画像

禁じられた膝─膝枕図書館

膝枕界の合言葉「膝は熱いうちに打て!」。

1人膝枕リレー153日目、「膝マメのコバ」こと小羽勝也さん(膝番号13)がnote公開当日の夜に膝開き(初演)。replayは下に↓


始まりは『ジュリアス・ヒーザー』

その大喜利は、2021年5月31日から続いている膝枕リレーの歩みをまとめたHizastoryの公開を知らせるツイートの引用リツイートから始まった。

シェイクスヒザ作『ジュリアス・ヒーザー』。

関西で活躍する役者で朝ドラ「カムカムエヴリバディ」京ことば指導の堀部由加里さん(膝番号14)が「言ってみただけ」とつぶやいた文学駄洒落に、言葉遊び好きな膝枕erたちが膝を乗り出した。

わたしの元ツイートにも「ヒザロクリフ文字」「膝は一日にしてならず」と膝駄洒落が入っているが、膝枕erたちは「隙あらば膝」を合言葉に、日々のツイートに膝を入れている。

わたしは「シェイクスヒザ」に誘われて、「じゃじゃ膝ならし」「ヒザ王」「真夏の夜の膝」とタイトル駄洒落を思いつき、すかさずツイート。

すると、古今東西文学作品タイトル膝入れが乱れ打ち、大喜利となった。ツリーを見ていくと、駄洒落タイトルが飛び交っている。そこで出たもの、新たに思いついたものをnoteの下書きに放り込み、熟成させること2か月あまり。

「膝入れタイトルずらずら」が活かされる膝枕外伝ということで、図書館を舞台にした話を考えた。

「膝枕図書館」。

図書館を訪れる人物は、やまねたけしさんの外伝「薫の受難」に登場する膝枕開発者の薫。

かつてもてはやされたものが一転追いやられるという手のひら返し設定は、新作落語「禁じられた金次郎」に通じる。

✔︎スケジュール/聴き逃し→Clubhouse「膝枕リレー」club
✔︎舞台裏まとめ→「膝枕リレー」楽屋
✔︎原稿まとめ→短編小説「膝枕」と派生作品
✔︎作品一覧(膝番頭・河崎卓也さん作)
✔︎膝語辞典→Hizapedia    
✔︎膝歴史→Hizastory
✔︎膝番号一覧・早膝言葉→別冊Hizapedia

今井雅子作「膝枕図書館」

休日の朝。独り身で恋人もなく、打ち込める仕事もなくした薫は、図書館へ向かった。

とくに読みたい本があったわけでも、調べたいことがあったわけでもない。何かしていないと、物思いに沈んで抜け出せなくなるのだ。もっと何か打つ手はなかったのか、と。

入社し、あの部署に配属されたときは、間違った場所に来てしまったと思った。会社選びから間違っていたのだと後悔した。それが今では、あの会社で過ごした日々が恋しくてしょうがない。

あの会社で働いている自分が好きだった。いや、好きになったのだ。自分のことも、会社のことも、そこで生まれる商品のことも。仕事ぶりを認められて自己肯定感が上がったといえばそれまでだが、誰かに必要とされる手ごたえと喜びを薫は生まれて初めて味わった。

薫を求めたのは、薫が手がけた商品たちだった。薫が勤めていた会社「膝枕カンパニー」は、その名の通り「膝枕」を製造販売していた。

もう二度と帰れない。だからこそ、想いが募る。

「カエリタイ アナタノトコロニ カエリタイ」

薫に何度もメッセージを送ってきた箱入り娘膝枕もこんな気持ちだったのだろうか。

薫が入社した年、膝枕カンパニーの放つ「膝枕」シリーズがヒット商品に躍り出た。人気に火をつけたのはSNSだ。誰も触れたことのないヴァージンスノー膝が自慢の「箱入り娘膝枕」に溺れたマメな男のつぶやきがバズり、注文が殺到した。

人工知能を内蔵した膝枕型ロボットの予測不能なリアクションは、動画チャンネルでウケた。売れない作家が膝枕に溺れた体験を綴った半自伝小説「膝枕」が朗読作品として人気を呼び、二次創作が次々と生まれた。そのうち『108回目の膝ポーズ』はナオキ賞にノミネートされた。

家族の一員として膝枕を溺愛するユーザーのニーズに応え、膝枕専用膝かけ、膝枕専用座布団、膝枕専用膝クリームといった新商品が次々と生まれた。膝枕とのペアルックは生産が追いつかず、膝枕と食事できるレストランは予約が取れない人気店になった。

膝枕占い。膝枕チャンネル。膝枕博覧会。膝枕マナー講座。膝枕婚活。膝枕列車。膝枕キャバクラ。膝枕カフェ。膝枕ダービー。膝枕弁当。膝枕パン……。流行りに乗って、何にでも膝枕がついた。

折しも未知のウイルスによる感染爆発に見舞われ、人々は行動の自由を制限されていた。触れ合いに飢え、暇を持て余した人たちにとって、生身の人間の膝そっくりな膝枕商品は、心の隙間を埋めるのに打ってつけだった。

疫病への不安を和らげ、精神の健康を保つ効果も認められ、膝枕の購入に助成金を出す企業や自治体も現れた。一家に一台。一人一台。またたく間に膝枕は生活の一部となった。

国を挙げての膝枕ブーム。膝関連株の株価が軒並み上昇し、疫病で暴落した日経平均を押し上げた。膝枕特需で息を吹き返し、倒産を免れた会社も少なからずあった。

その年の流行語大賞に「膝枕」がノミネートされ、その年の漢字ひと文字に「膝」が選ばれた。年の暮れの寄席では「膝浜」が人気で、大晦日にはボーカロイド膝枕たちによる「紅白膝合戦」の後、「ゆく膝くる膝」が裏番組ながら20%近い視聴率を獲得した。

年が明け、疫病は終息したが、国民の生活は元には戻らなかった。学業や労働を忘れ、膝枕に沈み込んだまま起き上がれなくなった「膝枕廃人」が国じゅうにあふれた。交通機関はストップし、物流は止まり、治安は乱れた。膝枕による経済的損失は13兆円に上ると試算された。

このままでは、国が滅びる。

流行りに乗って「膝枕内閣」と自称していた政府は手のひらを返し、首相と膝枕が膝を突き合わせたポスター13万枚を回収した。

膝枕禁止法が緊急可決され、膝枕の製造、所持、使用が禁じられた。バレンタインデーを当て込んだ膝枕型チョコレートは店という店から引き上げられ、メーカーに返品され、溶かし直された。

膝枕商品だけでなく、膝枕について描写された出版物や映像作品も発売禁止処分となった。

膝枕カンパニーは倒産。薫は失業した。

再就職先を見つけなくてはならないのだが、そんな気持ちにはなれない。体に力が入らない。だから、図書館で時間をつぶす。

以前は新商品開発のヒントを求めて、棚に並ぶ本の背表紙を眺めていた。実際、図書館で得たひらめきが商品につながったこともあった。「白雪姫膝枕」「灰かぶり姫膝枕」「眠れる森の美女膝枕」など昔話のヒロインをモチーフにしたプリンセス膝枕シリーズは累計出荷数13万人を超える大ヒット企画となった。

13万人。

社内でも世間でも膝枕を数える数詞は「台」だったが、薫は「1台、2台、3台」ではなく「ひとり、ふたり、3人」と数える。薫にとって膝枕はモノではなく、人格を持った存在なのだ。

膝枕たちを生み出し、育て、世に送り出す。その仕事を失った今、本のタイトルを見ても空しくなるだけだった。

幸せそうなタイトルを見るとみじめになり、前向きなタイトルを見ると卑屈になった。小説も啓発本も読む気になれない。

古典の棚に向かったのは、今という時代から離れたかったからだった。

見るともなく棚を眺めて、あるタイトルに目を留めた。

『膝枕草子(ひざまくらのそうし)』

言わずと知れた清少納言の『枕草子』に膝入れした古典膝枕だ。本屋からは引き上げられたが、図書館にはまだ残っていたのか。その隣には『源氏膝語(ひざがたり)』があった。さらに、その隣には『徒然膝(つれづれひざ)』。

はやる気持ちを抑え、薫は他の棚に目を移す。

「井原久伊鶴(いはらひさいかく)の『好色一代膝』と『好色五人膝』。十返膝一九(じっぺんひざいっく)の『東海道中膝枕』。まさか、もう一度会えるとは」

ページをめくり、中を見る。墨で塗り潰された箇所もなく、全文を読めるようになっている。

「枕芭蕉の『奥の細膝』。谷日崎(たにひざき)潤一郎の『細膝(ささめひざ)』。《小枝のようなか細い膝で懸命にあなたを支えます。守ってあげたい膝枕》から生まれた『細膝(ほそひざ)繁盛記』」。

あれも読みたい。これも読みたい。全部家に連れて帰りたい。

昔話の棚も圧巻だった。

「『浦膝太郎』『カチカチ膝』『膝とりじいさん』『膝咲かじいさん』『膝地蔵』『三年寝た膝』『泣いた赤膝』」

無事を確かめるようにタイトルを一つ一つ読み上げながら、薫は胸が高鳴った。

「街角で凍えながら膝枕を見る少女が、おばあちゃんの膝枕に頭を預けたまま天国に召される児童労働の深い闇を描いた名作『マクラ売りの少女』。ヒサップ物語の『膝とキリギリス』『金の膝と銀の膝』『王様の膝はロバの膝』。他にも『ジャックと豆ヒザ』『親ゆび膝』『不思議の膝のアリス』『ヒザビアンナイト』『赤毛のヒザ』『若膝物語』。世界名作膝シリーズがこんなに!」

「シェイクスヒザの人気シリーズ『ジュリアス・ヒーザー』『じゃじゃ膝ならし』『マクラとジュリエット』『真夏の夜の膝』『ヒザ王』『枕違いの悲劇』。こっちにはドフトヒザスキーの『ワーニャ伯父さんの膝枕』。チェーヒザホフの『枕の園』」

「ちょっと待って! 何この膝入れ現代文学のラインナップ! 三股をかけた単身赴任夫が島流しに遭う『膝の流刑地』。膝蹴りの女王とMっ気のある主人公の掛け合いのテンポ感が最高な枕川賞受賞作『膝蹴られたい背中』。膝枕erたちの熱狂ぶりを描いた『ヒザマクラーズ・ハイ』。青春膝枕小説の金字塔『桐島、膝枕やめるってよ』」

「膝映画も揃ってる! 体脂肪40パーセント、やみつきの沈み込みを約束するぽっちゃり膝枕がヒロイン。体当たりの演技が評価され、アカデミー賞最重量女優賞に輝いた『バウンド・オブ・ミュージック』。箱入り娘膝枕の視点から描いた『“ウエスト”・サイドストーリー』。『ヒザの魔法使い』原題は『Hizard of Oz』。ダンシング膝枕が踊り狂う『マクラッシュ・ダンス』。陶芸家が自分の焼いた膝枕に溺れていく『ヒザーポッターと秘密の膝』。それから『膝とともに去りぬ』『愛と青春の膝立ち』『マディソン郡の膝』『プラダを着た枕』『膝の王子様』『膝の惑星』『膝との遭遇』『バック・トゥー・ザ・ヒーザー』『ヒザー・ウォーズ』『ヒザンチャの男』『マイ・ヒザ・レディー』『マクラ座の怪人』『マクラン・ルージュ』『リトル・kneeメイド』」

「実用書もこんなに!『置かれた場所で膝枕』『人生がときめく片づけの枕』『人は膝枕が9割』『頭のいい説明すぐできる膝』『東大生の膝枕』『年収一億円の人がやってる7つの膝枕』『英語ペラペラ膝枕学習法』『人生で大切なことはすべて膝から教わった』」

ふと背後から視線を感じ、薫が振り向くと、緑の作業エプロンを着けた男が立っていた。図書館の人らしい。

「こんにちは」と挨拶してみたが、図書館の人は何も言わず、ジトっと薫を見ている。その視線は、薫が両手に抱えている膝枕本に向けられている。

「すみません。貸し出し点数超えちゃってます? うれしくなってしまって、つい。こんなところにあったんですね」

黙っているのが落ち着かず、薫が話し続けると、

「お客様には見えるんですね?」

図書館の人が不意に口を開いた。

「見えるって? 何言ってるんですか?」
「お待ちしていました。どうぞこちらへ。特別室にご案内します」

図書館の人に案内され、ついて行く。突き当たりの扉まで来ると、図書館の人が鍵を開け、灯りをつけた。眩しい白が目に飛び込む。薫は息をのみ、次の瞬間、歓喜の声を上げた。

「枕!」

電灯の灯りを反射して白く輝く無数の丸は、膝枕たちの膝頭だった。

「みんな、ここにいたんだ!」

薫は駆け寄り、膝をそっとさする。だが、反応はない。バッテリーが切れている。ここに納められてから随分時間が経っているのかもしれない。

と、奥のほうでガタガタと音がする。

近づくと、激しく体を揺さぶっている膝枕がいた。この膝枕はまだ動けるらしい。お姫様だっこの格好で膝枕を取り出し、型番を確かめる。

「RHCP241201。ペッパーちゃん!」

薫が呼びかけると、ペッパーちゃんの膝が大きく弾んだ。

「喜んでくれてるの? ちょっとペッパーちゃん弾みすぎ」

床に置くと、飛び上がらんばかりの勢いでペッパーちゃんが弾んだ。

「可愛い! もう我慢できない!」

薫は思わずペッパーちゃんの膝に飛び込む。だが、ペッパーちゃんは膝をぎゅっと閉じ、拒絶するかのように身をこわばらせている。さっきまでの歓迎ぶりはどうしたのだろう。

「ペッパーちゃん、久しぶりの再会で緊張してる?」

ペッパーちゃんは首を振るように膝頭を左右に振る。

カチャリとドアの鍵がかけられる音がした。

薫は膝枕たちとの再会に夢中になって、図書館の人の存在を忘れていたが、薫の様子をあのジトッとした視線で見ていたらしい。そして、鍵をかけた。

「部屋に閉じ込められた?」

プシューッと排気音を立て、ペッパーちゃんの膝頭が強烈な刺激臭のガスを放った。唐辛子に含まれるカプサイシンだ。膝枕に溺れて火事や災害に気づかず逃げ遅れる事故が相次いだため、膝枕が危険を察知したときに匂いで警告する機能をつけることになった。薫はその開発チームの一員だった。

型番がRHCPの4文字で始まるのは、レッドホットチリペッパーの頭文字を取っている。ペッパーちゃんのあだ名はそこからついた。

そうか。ペッパーちゃん、さっきあんなに弾んでいたのは、こっちに来ちゃダメと知らせてくれていたのか。

発禁処分になった膝枕文学作品と膝枕たちが集められた図書館。ここは、禁じられた膝の始末部屋だったのだ。その網にまんまと引っかかってしまった。

それにしてもすごい匂いだ。

逃げなくては。その前に、起き上がらなくては。

頭ではわかっているのだが、体はどんどん膝枕に沈み込んでいく。膝枕に頭を預けてしまってからでは引き返せない。警告を出すタイミングをもっと早くしなくては。もう一度膝枕カンパニーに戻って、膝枕を作れるようになったら、改良版を提案しようと薫は思うが、そんな日は来るのだろうか。ここから出られる気がしない。その前に、起き上がれる気がしない。

夢か現かサイレンの音が近づいてきた。

メモしたものの入らなかったものや外したもの

『羊の沈黙』ならぬ『ヒサコの沈黙』

『お膝しぶりね』(小枕ルミ子)

膝枕獏

『忠臣膝』『黄金の膝』

CHICAGOかと思ったら『HISACO』。

『日佐(ひざ)日記』『膝科(ひざしな)日記』

clubhouse朗読をreplayで

note公開日に小羽勝也さんが膝開き

2022.2.13 やまねたけしさん(蔵書増量版)

2022.4.15 徳田祐介さん×山口三重子さん(129膝目デビュー)※セットkneeストは後ろに

2022.4.17 小羽勝也さん(膝番号13)

2022.5.6 ひろさん

2022.5.22 鈴蘭さん

2022.6.3 高坂奈々恵さん 膝番号134でデビュー(はじめての歌つき‼︎)

2022.6.3 ひろさん(京都の日常言葉で)

2022.7.13 徳田祐介さん×山口三重子さん(2022.4.15版)YouTubeに公開

2022.8.23 鈴蘭さん

2023.2.13 鈴蘭さん

2023.4.30 こもにゃんさん

2024.2.16 鈴蘭さん(膝枕図書館に登場する外伝7つの朗読の前に膝枕図書館を考察・解説)


膝駄洒落セットニー(knee)スト

2022.4.15の朗読:徳田祐介×ピアノ:山口三重子のセットリストならぬセットニースト。山口三重子さんの駄洒落オンパレード。「膝枕レコード館」が生まれそう。膝枕図書館にCDコーナーがあるのかも。

ムソルグスキーのマクラン会の絵
ヒザリウスのマクランディア交詩曲(シベリウス フィンランディア)
ルロイ マクラダーソンのマクライター(ルロイアンダーソン タイプライター)
チャゲ&膝スカのセイ イエス
汽車(今は山中今は膝)
膝枕キャラバン(膝枕キャバクラ)
第ニーラジオ体操
ハレルヤ
ファンファーレ
1月1日
お正月
ショパンの膝のソナタ2番 第3楽章(ピアノソナタ葬送行進曲)
You don’t know what is Love
白雪姫膝枕
眠れる森の美女膝枕
インディアンのかぞえ歌
ニーホン昔組曲
細膝繁盛記
もしもしかめと浦島太郎交詩曲
不思議の膝のアリス
ヒザビアンナイト
マクラとジュリエット
黒い瞳
ドレミの歌、サウンドオブミュージック
ウエスト サイドストーリーからアメリカ
フラッシュダンス
風と共に去りぬ
ハリーポッターと秘密の膝
スターウオーズ
マイフェアレディ
天国と地獄
ある膝の愛の歌
未知との遭遇
SOSモールス信号
禁じられた遊膝
ショパンの膝のソナタ2番 第3楽章(ピアノソナタ葬送行進曲)
ムソルグスキーのマクラン会の絵

イマジン


目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。