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双子の星

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宮澤賢治の「双子の星」のストーリーを共に、イラストレーターの乃淡雅子が独自に挿絵を描きおろしながら、新たな文と絵の作品世界を再構築していこうとする試みです。
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双子の星 05

双子の星 05

私共の世界が旱(ひでり)の時、
瘠せてしまった夜鷹やほととぎすなどが、それをだまって見上げて、
残念そうに咽喉(のど)をくびくびさせているのを時々見ることがあるではありませんか。
どんな鳥でもとてもあそこまでは行けません。

けれども、天の大烏(おおがらす)の星や蠍(さそり)の星や兎の星ならもちろんすぐ行けます。

「ポウセさんまずここへ滝をこしらえましょうか。」
「ええ、こしらえましょう。僕石を

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双子の星 04

双子の星 04

そしてポウセ童子は、白い貝殻の沓をはき、二人は連れだって空の銀の芝原(しばはら)を仲よく歌いながら行きました。

「お日さまの、お通りみちを はき浄(きよ)め、ひかりをちらせ あまの白雲。  お日さまの、お通りみちの 石かけを深くうずめよ、あまの青雲。」

そしてもういつか空の泉に来ました。
この泉は霽(は)れた晩には、下からはっきり見えます。天の川の西の岸から、よほど離れた処に、青い小さな星で円

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双子の星 03

双子の星 03

ある朝、お日様がカツカツカツと厳にお身体からだをゆすぶって、東から昇っておいでになった時、チュンセ童子は銀笛を下に置いてポウセ童子に申しました。

「ポウセさん。もういいでしょう。お日様もお昇りになったし、雲もまっ白に光っています。今日は西の野原の泉へ行きませんか。」

ポウセ童子が、まだ夢中で、半分眼めをつぶったまま、銀笛を吹いていますので、チュンセ童子はお宮から下りて、沓(くつ)をはいて、ポウ

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双子の星 02

双子の星 02

このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向い合っています。

夜は二人とも、きっとお宮に帰って、きちんと座り、空の星めぐりの歌に合せて、一晩銀笛(ぎんてき)を吹ふくのです。

それがこの双子のお星様の役目でした。

つづく

双子の星 01

双子の星 01

天の川の西の岸に
すぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。

あれはチュンセ童子とポウセ童子という
双子のお星さまの住んでいる小さな水精のお宮です。

つづく