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ビールでコミュニケーションを起こす!?「喫茶ランドリー」の「補助線のデザイン」のヒミツを解説!


コロナ禍の「喫茶ランドリー」レポートを書いてから約3ヶ月が経ちました。

メディアはコロナ一色ですが、その後の喫茶ランドリーも変わることなく11〜18時で営業をしています。喫茶周辺の住宅街も、日常のざわめきを少しずつ取り戻しはじめ、最近では地域の方だけではなく、遠方からのお客さんも少しずつですが戻ってきているように思います。

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合わせて、先日はアコースティックライブやアクセサリーづくりワークショップなどが開催されたりと、イベントごとに使われるシーンも復活してきました。本当に嬉しいことです。

さて。

どんな「お店」をつくるにしても、「場」をつくるにしても、さまざまなポイントで「デザイン」のジャッジが必要になります。でも、そのジャッジって、デザインをするひとそれぞれだと思います。機能性?効率性?かっこよさ?かわいさ?映えるかどうか?

喫茶ランドリーをはじめとしたグランドレベルがつくる空間は、すべてのデザインのジャッジの基準を「お客さんや働くスタッフの“やりたい”が、いかに実現しやすくなるか」「そこにコミュニケーションが発生するか」に起点を置くようにしています。

それを分かりやすく説明するために、いつも使っているのが「補助線のデザイン」という言葉です。

たとえば白い紙を渡し、「自由に描いていいよ」と言われても少し戸惑いますよね。でも、何らかの補助線が引かれていると、人はそこを拠り所に、より楽しめる、能動的になれる。

つまり、その「補助線のデザイン」によって、その先に起きる人の行為や光景は大きく左右されるのです。だからこそ、緩やかで意図的な補助線によって、人にあえてエラーをおこしつつも、その先にコミュニケーションを発生させることを、常に意識しようというわけです。

ん〜?「補助線のデザイン」これだけでは、よくわからないですよね。そこで、今回は、「補助線のデイン」について、「喫茶ランドリー」に設置したクラフトビールを通して考えていこうと思います。

「クラフトビールの置き方」と「コミュニケーション」

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2018年1月に喫茶ランドリーが誕生して、半年ほど経った頃、クラフトビールを提供することにしました。届いたのはキリンのタップマルシェのサーバー。4つのタップ(注ぎ口)があるものです。普通のお店では、キッチンの内側に向けて設置して終わるのですが、私たちはそれらをゼロから考えていきます。何事もゼロから。

これは、どこにどう置くのが良いのだろうか?

スーパーミニマムにつくられたキッチンには、もはや置き場に余裕がないので、位置は自然とレジが置かれたテーブルの端っこに。通常であれば、スタッフが立つ内側に向けて設置して、オーダーを受けるとスタッフがキッチン内でグラスに注ぎ、お客さんへ配膳しますよね。

でも、オープン間もない頃に書いたこのnoteにもある通り、喫茶ランドリーは基本スタッフがワンオペと決めるところからはじまっています。さらに、極力スタッフのタスクを増やさずに、何事においても、お客さんを信じてゆだねる。それが、お客さんと対等な人間的コミュニケーションができる素地となるからです。


だったら、こうするか??

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と、クルッとお客さん側に向けて4つの注ぎ口を向けてみました。

え! そんなお店はじめてかも... と居合わせたキリンの営業担当のお兄さん。でも、その頃には、私たちのお店の在り方を理解してくださっていたので、このお店ならありえるな?と、苦笑いをされていました。

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一方でスタッフたちは、これだったら、グラスを渡してあげればいいだけだ!と盛り上がっています。

「でも、何杯も呑む人が出てきちゃわない?」

「勝手に2杯目注がれてもなぁ... いや、でも大丈夫かな?」

「喫茶ランドリーのお客さんだしね。」

「もしそういう人がいたら、声をかければいいだけだよね。」

「そうだね。それでやってみよう!」

他にもいろんな、コレ起きたらどうする?的なことが、思い浮かぶのですが、すべては、そのとき話せばどうにかなる!

そんな流れで、こんな感じ ↓ ↓ ↓ で、クラフトビールの販売がはじまりまったのでした。

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こんなことで、何が起きるの?

すると、やはり面白い方向に転がっていくのです。

レジ越しに注文が入ると、スタッフがお客さんに、「ハイ!どうぞ!」とグラスを渡す。

「当店は、自分で注いでいただくようになっています!」

「え!ホントですか?! 」とお客さんの少し驚いた反応。

「手前に倒すとビールが、奥に倒すと泡が出まーす。」

はじめてのお客さんは、ちょっと少し鼓動が高まり、緊張しはじめます。

「こうかな?」といいながら注ぎはじめる。半分くらいのひとはグラスを倒すのがヘタだったりして、泡だらけになってしまうこともあります。

するとスタッフは「泡をすすって、もう一度たっぷり入れてください」「ほら!泡すすって、すすって!」(この台詞は週に何度も耳にします。)

たっぷり入れきったところで、「上手じゃないですか〜!」

「わーい!」と、小さな拍手が起きることもしばしば。

つまり、ここで分かるのは、ビールを注ぐという行為ひとつ、「補助線のデザイン」をきちんと設計すれば、ちょっとした会話のきっかけをも生み出すことができるということです。それもわざとらしさひとつもなく、非常に自然な感じで起こさせることができる。

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ビールを注ぐ行為を会話につなげるデザイン

もう少し、ここで試みた「補助線のデザイン」を、くだいて分析していきましょう。

そのために、私たちがどんな「場」をつくるときにも大切にしてる3つのウェアを説明しなくてはいけません。「補助線のデザイン」には、下記のような3つの要素があると考えているのです。

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ハードウェアとソフトウェアって、皆さんも聞いたことがありますよね。

ハードウェアは良くハコなんて、言われることがありますが、私たちの感覚では、ハコを含めた視覚に入ってくる全ての情報です。

ソフトウェアはサービス・機能と捉えられがちですが、これも私たちとしてはちょっと違っていて、どちらかというと「何が許されるかということ」

そして、3つめのオルグウェアが完全な肝で、かつ日本ではほぼないがしろにされてきた部分のデザインでもあります。ソフトとハードの間を取り持ち、そこに居る人々の心のスイッチを入れるもの。コミュニケーションのデザイン、もしくは組織化するためのデザインとも言えます。良質なオルグウェアがないと、その「場」は全く人間的に機能していきません。

今回喫茶ランドリーにおいて自然なコミュニケーションのきっかけをつくるためのクラフトビール設置方法の「補助線のデザイン」を、この3つのウェアに分類して考えていくとこういうことなります。

1】ハードウェア:お客さんと対面するレジカウンターにビールサーバーを設置するも、あえて注ぎ口をお客さんサイド向けることとした。あなたが注ぐんですよ!と言わんばかりに注ぎ口がお客さんに語りかけている光景を店内につくる。スタッフとサーバーとの距離の設計も大切です。

【2】ソフトウェア:レジでの注文を受けたら、金額をいただくと同時に、クラフトビール専用のグラスをお渡しし、お客さん自身がグラスを持ってビールを注いでいただくこととした。(料金は都内一安い一律550円とし、サーバーの前で選べるように)

【3】オルグウェア:お客さんがうまくビールが注げるように、入れ方のコツを言葉で伝え、また上手くいかないこと(アクシデント)が起きてもコミュニケーションでサポートし続けることとした。

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一杯のビールを注ぐことが、ひとつの会話のきっかけに

これには、当初想定したようなリスクをいくつも取らなくてはいけません。でも、それによってお客さんとスタッフが自然に会話をはじめられる、わずか数秒の時間を獲得できる。そのことには無限の価値がある!と私たちは考えています。

ベビーカーを押して入ってきて、こんなゆったりビールを飲むのは久しぶりだと涙目になるママさんもいれば、純粋にビールの種類を楽しんで選んで、近くにこんな場所があったなんて!?と興奮するカップルも。

外国の方との英語のやりとりに困っていたスタッフを助けてくれた日本人の方が、外国の方と仲良くなってビールをおごり合っていたり。手術明けにようやく飲めるよ、としみじみ一杯やるおじさんも。

ビールを飲むという行為は、一様に見えたとしても、ゴクっと呑むその人の気持ちや心持ちは千差万別です。そして、その行為の裏には、さまざまなストーリーがあるもの。

そういうことに触れられたり、感じられるのも、ビールを介したお客さんとの日常のささいなコミュニケーションがあるからなんですね。

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コロナの状況でも、お店は休まず変わらず開け続けてきました。

「喫茶ランドリー」は、まちに暮らす、あまねく人々の日常生活の中に、できるだけニュートラルに存在し続けていたかったから。おそらく、これからどんな非常時にさらされても、この姿勢は変わらないことでしょう。

今の社会は、誰もが精神的な行き詰まりを抱えているものです。でも、そのほとんどは可視化されていません。(今回のコロナでその状況は深刻化していくかもしれません。)

そのような日常の中でも、ふらっと立ち寄っていただいて、一言二言お話をして、ホッと一杯のクラフトビールを飲んで、またね!と帰って行く。そんなささやかな日常の嬉しさが、今もこれからも、多くの人の生きる原動力になるのは確かなことだと思います。

だから、人と人とがいつもの日常で出会える「まちの1階」を、ビールを介して気軽に人と出会えるような場所を、少しでもたくさんつくる手助けをこれからも続けていければと考えています。

というわけで、今回は喫茶ランドリーのクラフトビールと「補助線のデザイン」のお話でした。実は「補助線のデザイン」って、私たちの身の回りにたくさんあるものなんです。だから、ちょっと意識してまわりを見渡してみてください。きっと、これはもしや?というものがあるはず。

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「喫茶ランドリー」は、無数の「補助線のデザイン」を引くことを意識してつくった、グランドレベル最初のプロジェクトです。いらしたことがない方、この機会にぜひ一度遊びにきてくださいね!

もちろん、そのときはクラフトビールをまずは一杯!

それでは、今日はこの辺で。

●喫茶ランドリーグループ
http://kissalaundry.com/

●喫茶ランドリー 森下・両国本店
http://kissalaundry.com/honten/

1階づくりはまちづくり!

※ このnoteは、キリンと開催する「 #また乾杯しよう 」投稿コンテストの参考作品として、主催者の依頼により書いたものです。
※ ごくたまに、行ったのに話しかけられなかったという謎の感想をお見かけすることがございます。しかし「喫茶ランドリー」は、コミュニティカフェでも、スナックでもありません。普通の街にある喫茶店です。悪しからず。


▼ 参考図書『マイパブリックとグランドレベル〜今日からはじめるまちづkり〜』(晶文社/著:田中元子):1階づくりの考え方の基本をまとめた一冊です!


大西正紀(おおにしまさき)

*喫茶ランドリーの話、グランドレベルの話、まだまだ聞きたい方は、気軽にメッセージをください!

http://glevel.jp/
http://kissalaundry.com

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ハード・ソフト・コミュニケーションを一体でデザインする「1階づくり」を軸に、さまざまな「建築」「施設」「まち」をスーパーアクティブに再生する株式会社グランドレベルのディレクター兼アーキテクト兼編集者。日々、グランドレベル、ベンチ、幸福について研究を行う。喫茶ランドリーオーナー。

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コメント (2)
いきなりコメント失礼いたします。初めてのお店でもこうやってコミュニケーションが取れるのがいいですね~♪素敵です。全盲の友達と遊びに行ったら、わいわい説明しながら楽しめそうです。
いえいえ、コメントありがとうございます。
ぜひぜひ全盲の方といらしてください。きっと楽しいと思います!!
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