70大学!42展覧会!台北で見た大大卒業制作展。ナニコレ!?建築ランドスケープ系卒業制作展に見た、台湾の「教育」パワー。
前回のレポートでも少し触れた「松山文創園区」で開催されていた日本では見たことない規模の大大卒業制作展。期間は約1ヶ月半、ジャンルは音楽から服飾、建築、デザインまで、参加大学数は70!展覧会数42! いろんな国へ行ってきたけど、こんな規模ははじめて。
規模だけではなく、大学って社会に対してこうあるべきだよね!というある種の理想が見えた現場のレポートです。
最初は何も知らず、ふらっと入ってみた
最初は何も知らず、倉庫の中では何をやってるのかな?とチラ見するつもりで入ったのです。ところが。
ん? なんだ、この雰囲気。。
受付の脇の行燈がお出迎え。この段階で、あぁ、建築ランドスケープ系の卒業設計の展覧会なんだなと、やんわり認識。
その奥の壁には、似顔絵ポートレートが飾ってあって。あっ!これって出展者なのか。44人もの顔がある。
その脇では、その大学での教育コンセプトが。中央の「Cultural Landscape」。いいなぁ。「文化的景観」と訳されるけど、その背後には地下鉄内の風景の写真があることからもわかるように、日常のありふれた風景までをも射程にしているってこと。まさにグランドレベルの視点で、とても共感が持てる〜
おぉ、こっちにも大きく!!この時点で、日本とも西欧とも異なる建築ランドスケープ系の息吹を感じるわけです。これまでレポしてきたような、まちのつくられかたのいろんなシーンと教育とが頭のなかでつながりはじめて、ゾクゾクしてきます。
作品は、こんな風にブースごとに展示されていて。見はじめると、これがまたレベル高いんですよね。
中国語は読めないけど、迫力満点なものも多くて。
でも、なんとか漢字を読み取っていくと、どの作品も、台湾の都市部から山間部まで、あらゆる問題に真正面から取り組んでいることがわかってきて、面白い。
一つひとつ見ていると、力作ばかりだから、なかなか前に進まなくて。ヤバい...これって 44人全員のレベルが高いのでは!?!? しかも、この展示会場で、ひとつの大学だよな〜と呟きながら。
さらに、ん? 作品集は、日本でも大学ごとによく見るけど、隣に並んでるこれって、もしや。
オリジナルグッズ!じゃん。マスキングテープ! すごい。普通に可愛いから買いたくなってしまう。オリジナルグッズをつくって売る、卒業制作展。自分の作品をぎりぎりまでつくって、ポンと展示する日本のそれとは、もはや全然違います。
さらに振り返ったら、DIYコーナーが。植物の勉強をしながら、小さな植木鉢に植物をこさえて持って帰れるという楽しいコーナー。ここは明日からみたい。
ん? へ? ゴミ?
いや、ゴミは展示物なのか!? あっ、これって展示されてるんだわ! 学生たちがこれまで格闘してきた大学の日常の風景を、そのまま持ち込んだ展示に感動。普段学んでいる大学の現場を知らない人に伝えるために、こんなものもつくっているわけです。
とどめは、会場奥で何やら作業をしている学生たち。何してるの?って聞いたら、明日からが本番だから、会場デザイン用の植物をアレンジしてるのさーって。とにかく、何から何までウェルカムモードなんです。すごいなこの人たちは。
けど、それは序章にすぎなかった
そして次の日も来てみました。もちろん例のDIYカフェ群を散策してからのコチラへ。どうやら、この日がメインの日。昨日訪ねた倉庫の横にも、切妻屋根の倉庫が連なっていて、こちらにも入ってみたのですね。そして、冒頭から震えたのです。
こっちの倉庫も
あっちの倉庫も
どの倉庫も、エントランスは、ウェルカムに設えられていて。どこにもあるメインテーマが添えられてる。面白いなぁ。大学ごとのカラー、価値観をきちんと打ち出しているんですよね。同じ建築ランドスケープだとしても、それぞれにウリがあるってこと。
二日目で最も驚いたのがコレ!各倉庫には、数十という力作が展示されていて、すべての作品の前には、お酒やお菓子などのプレゼントの山ができてるんですよ!!! 友達とか、おそらく昔世話になったであろう先生のような方が、かけつけているんですよね。
で、このとき、ハッ!と思い立ちダッシュで外へ出たわけです。
メインの看板を見て、ガーーーーン!!! これを見て、はじめて全体を認識したのです。この展覧会には、なんと11もの建築ランドスケープ系の大学が参加しているじゃないですか。いやっ、同じようなものは日本にもあるじゃん、て言われそうですが、日本であるのは、各大学の優秀者が集められた合同展覧会ですよね。
台北のこれは全く違います。日本のように大学から選ばれし者が集まって合同展をやるのではなく、11の大学が集まり、(たぶん)全員が出展しているんですよ! 11大学で建築ランドスケープを学ぶ全学生は、1つの倉庫を40人と見積もっても、6つの倉庫で240人。この大学数、この人数で、この作品のクオリティ。すごすぎます。
(日本の建築系大学で例えると、東大、早稲田、東工大、横国、首都大などとの主要大学の建築学科の学生たちの全卒業制作が、展示されているということですからね。)
そして、数百の作品に共通してあるのが「名刺」。この大学の学生たちはシールまで添えて、同じデザインで統一。卒展の場は、まさにリクルーティングの場でもあるということです。自分を売り込むという姿勢がきちんとある。
ん? 何か気になりませんでした? もう一度、上↑に戻ってみてください。格好いい写真があったでしょ? 格好良すぎて、この人たち独立した建築家なのかな?って思ってしまうくらいのポートレート。この大学は、これをフォーマットとして揃えて、全学生を撮っていました。
別の大学では、ポートレートの下に「人文」「都市」とあって。何かな?と。
こちらでは「都市」「自然」、「人文」「都市」と。
これあきらかに完全異分野コラボで卒制にトライしているってことなんですよね。日本では早稲田大学などは、卒制がグループ設計になっていたりしますが、ここまで分野を横断した形でのトライは、はじめて見たかも。ヤバいなぁ。こういことが、台湾国内の文化政策やまちづくりなどの議論ひとつすることにも、つながっているように感じてきてしまうわけです。
もちろんグッズも各大学ごとに、魅力的につくられていて、
どれも個性的。どの大学のグッズコーナーでも、マスキングテープは定番みたい。日本のランスケ系の人にお土産もゲット。
そして、最後の倉庫に入ってみたら...
すごい熱気の中、
講評会が開かれていました。この日は7人の講師が朝の9時から19時まで、10時間ぶっ続けで、クリティックしていくという熱の入れよう。いやはや、またもや情報量が多すぎて、ノックダウン寸前です。。
つまるところ、感動したのは2つの点
ひとつは、これまでレポートしてきた台北の豊かなグランドレベルの背景には、(日本は到底及ばない)建築デザインやランドスケープデザインに関するかなりレベルの高い教育が行われていたということ。さらに学科の設定としてレンジが広くかつ、「建築」「ランドスケープ」「まちづくり」「都市計画」という境界が融解しているところに、ある種の理想も見えるわけです。
日本では、上記のような分野は切り分けられていますからね。しかし、そうではない“目”を持つことが、豊かなグランドレベルをつくることには欠かせないことを、彼らは教えてくれます。
もうひとつは、大学が社会にひらくということ。本来大学で行われている教育とは、何らかの形で市民との関係をどこかで持っているはずです。無関係なものはあるはずがない。だから、大学も学生たちも、最後の成果を、持てなしのこころいっぱいに、展示全体を市民に楽しんでもらうようにつくる。そして、その大学の姿勢に、「松山文創園区」という市民が気軽に足を運べる文化施設の存在が合わさることで、互いの交流が実現していると。
すごいなーと感心しまくりつつ、メインの看板を改めて見る。
今回のレポートはたった2日間のできごとですからね。このイベントは1ヶ月半続いています。今回のものを含めて、70大学!42展覧会! 音楽からファッション、デザインまで。コレ級のものが立て続けに行われていくのかと思うと、ワクワクするというか、ぞっとするというか。
これまでのレポートにも見られた建物を活用するという「文化政策」と、そして今回のような文化やデザインに関する「教育」が、台北の面白さを底上げしていることは、確実です。
いや〜、台北は果てしなく面白い。
まだまだレポートは続きますが、今日はこの辺で。
次回は、圓山駅前の花博の会場跡地の活用が、大変な事態になっていたというレポートを書く予定です。思い出すだけで、今すぐ行きたいなってしまいますね。ではでは!
大西正紀(おおにしまさき)
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