残すものはきちんと残す国、台湾.高さ500mのビル「台北101」の麓に保存されていた謎の住宅群「四四南村」は、“台湾のはじまり”でした.
さて、公園ネタが続いたところで、台北レポートへ戻りましょう。今回はここ「台北101」です。MRTの台北101世貿駅を降り、地上へ出ると、ドドン!
「台北101」をバックに「けんちく体操」。一人じゃ表現しづらいところを、箱が折り重なるような特徴をなんとか表現しようとしている良い体操。そう、この建物は101階建て。ドバイの「ブルジュ・ハリファ」が2007年に竣工するまでは、世界一高いビルでした。
ちなみに「ブルジュ・ハリファ」ってのは、ドバイの中心部に建つこれ。ここでも「けんちく体操」。体感温度50度を優に越える中、何度も取り直すことでキマッタのがこの体操。シンメトリーのようでそうでないところはねじれで表現。
さて、それはさておき。
駅からそのタワー「台北101」を背に歩いて行きます。
すると突然、公園のような場所が広がります。向こうに見える屋根群、その手前に屋根群と同じ形状の芝生の山が。
スタタタっと、その山を駆け上ると、全体が見渡せます。カワイイ屋根がたくさん。
ここは「四四南村」と呼ばれるその昔は集落だったところ。台湾は、第二次大戦後、大陸の内戦に敗れた国民政府が渡ったときにはじまったわけですが、そのとき一気に来た数百万の兵士や親族たちが住みはじめたのがここで。これまでの台北レポで紹介してきたものと同じように、日本統治時代に建てられたものが改修されて使われてきたのだそう。それが今では、文化遺産保全地区に指定されていると。
おっ!向こうにマーケットを発見。このマーケットが目的で来たわけですが。
台北の若い子たちによる手作り系のショップが多くて賑わってるけど、ネタもデザインもレベルはイマイチ。いわゆる竹下通り的な雰囲気です。旅行者としては、やっぱりそこでこそあるものを見たい、触れたい、食べたい。台北に来てから毎日感動ばかりだったのに、ついにダメなところが出てきたななぁ。そりゃ台北も良いものばかりではないよな、と思いつつ。
5月下旬とはいえ、晴天のこの日は暑かった。これはゆったりカフェタイムでしょう!と。
建物の中に入ってみたら、あの屋根群の下には、いろんなお店があって。
中でもこの「好,丘」ってお店は、台湾がぎゅーっと濃縮された食材と雑貨を中心としたお店。インテリアデザインとしても最高可愛い。食材も面白いものがたくさんあったので、お土産買うにも抜群でした。
さらに隣にカフェがあるのだけど、ここはベーグルが売りで。見たことのないような台湾的な食材を使ったようなものもあったり。その向こうに
カフェスペースが。おぉ、なかなかいいじゃない!ってことだったんだけど、満席。20分くらいしたら空くというので、予約してもう少し施設内をブラブラすることに。
「四四南村」は、特にメインエントランスがあるとうわけではなく、さらっと、こういう町並みが広がっています。しかし、それほど使い方として密度がないというか。まぁ、とりあえず残しているのね、という感じに見えたんですね。ところが.......
時間をつぶすべく、次はある建物に。入るとそこはギャラリーでした。
へぇ、ギュウギュウですね。結構な密度で暮らしていたんだなと。
無造作に雀卓が展示されていて。カジュアルに折りたたみできる、よーく見ると意外と洗練されたデザイン。
小籠包を蒸す小さな屋台が、なんとも可愛くて。その横には、台湾の雑貨たちも並べられていたり。
当時の暮らしがそこかしこに再現されています。浮かぶ箸。日常生活の品々が、一つひとつリアルに置かれています。そんな展示の中に入れる、その体感のリアリティーってやっぱり、すごくいい。日本じゃ絶対に禁止ですよね。
そしてまた食べ物。どうやら、この料理がメインの展示物のよう。この料理や食のスタイルについて説明されています。
見上げれば、腸詰め!!!
こういうのがずっと続きます。ついついこうやって写真を撮りたくなる。
謎の鍋? しかし、ここまで食べ物が多いのはなんでなんだ!?と。
そして、ギャラリーの入り口まで戻ってきて、改めてメインポスターを見る。
なぜ食に光りをあてるのか......、いや、このポスターでも展示でも、そこに映し出されているのは生活です。しかも、アノニマスな台北の暮らしというわけではなく、この場所にこういう生活、こういう料理、こういう文化があったってことを伝えようとしてる!
あっそうか!! そういうことか!! 今我々が「ザ台湾」と思って触れているものの一部は、二次大戦後にまさに“この場所”で育まれ、生まれてきたものなんだ!!!!!
この場所は“台湾のはじまり”
先ほども言ったように、蒋介石率いる国民政府が中国から台湾へ移ったわけですが、その軍隊は、中国のさまざまな省の出身者で構成されていたそうです。そんな多種多様な数百万の人たちが、当時、この場所にかなりの密度で暮らしはじめ、あらゆる文化がミックスしていったと想像するだけで、なんともエキサイティングです!
その暮らしの先に、今の台湾を象徴するような食や遊び、衣服や言語といったものごとが形成されていったってわけです! つまり、この場所は“台湾のはじまり”でもあったのです!
もしかするとこの数日間、台北で見てきたものの起源も、実はこの場所にあるのでは? そう考えていくと、この保存されたエリアの価値をより一層大きく感じずにはいられませんでした。あえて施設内の密度を低く保ち、日常の風景として存在させていることも、良く思えてきます。
いや〜、すばらしい。。。
興奮冷めぬまま、カフェに戻ると。
これもなかなかいいカフェで。座敷にママさんたちがいるかと思えば、傍らにいけすかないクリエイティブ系のおっさんたちがいたり、にぎにぎと。
メインのランチセットはこんな感じ。冒頭に見かけたベーグルとメインのチキンも抜群に美味しい。そして、ふとテーブルの縁に目をやったら。
ん?
忘れられない思い出の味を再現しました
ここの軍属集落の雰囲気を伝承しています
先ほどの展示しかり、このカフェのコンセプトも、“過去の歴史と今をつなぐこと”ってことなのか!!
そこで外を眺めれば、現代の若人が、食からものづくりまで今の時代につくりだしたものを売っている。若い彼らも絶対にこの場所の意味を理解しています。この光景を目にしたとき、過去と今がバシッとつながったように思いました。
そうだよな。ハードとしての建物を残す、あるいは残した建物を活用、リノベーションするという単純な話よりも、たとえば、
1)ハードとしての資産をデザインとして、どう活かすか
2)プログラムとしての文化的役割を、どう継承させるか
3)まちに対してどんな面構えで来場者を迎えるか、というグランドレベル力
といったようなことのなかで、「残すということと新しく加えるということ」のバランスを作り込んでいくことこそが、大切なんだとまた思い知らされました。今回の「四四南村」では、とにかく「食」に着目し、それを中心にエリア全体がきちんとディレクションされています。
これまでのレポートでも紹介した「花博会場跡地」「松山文創園区」「華山1914創意園区」なども、結局は同じことだと思います。どう考えても、台湾には、歴史的価値のあるハードを魅力的に使いこなしていくという、ある戦略パターンがある。国策から民間事業者までの全てのベクトルが同じ方向を向いている。そのことから、日本は学ぶべきことが随分とありそうです。
台北の中心に500mのタワー、その麓に文化的価値のある集落が保存活用され「四四南村」、そしてその隣にあったのはアディダスによるバスケットコートでした。これらが接するように存在してこそ、人間のための都市!やはり台北は最高です。
というわけで、今日は「四四南村」の話でした。
次回は、台北か広島かマルシェの話をしたいと思います。
1階づくりはまちづくり!
それでは!
大西正紀(おおにしまさき)
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