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Interview Vol.4 やまだあきこ(acco/atelier fruto)

口数が多いわけではないものの、芯の強さを感じることばをひとつひとつ丁寧に口にする女性。凛とした美しさが印象的なやまだあきこさんは、accoの名義で創作活動を行うアーティストです。あきこさんが絵を描くきっかけになったのは、生後わずか2ヶ月だった次男を亡くしたこと。その後、自らの心の中にある「どうありたいか」という思いを、絵という手段で表現するようになりました。絵を描くことで自らの中に見出した「希望」、家族やパートナーの存在、そして、新たな挑戦についてお話を伺い知ました。

(取材日:2018年9月11日、10月2日 取材者:鯨井啓子)

絵を描くことで見出した、「希望」

―ご経歴を教えてください
こどもの頃から絵を描くのが好きで、大学は美術大学に進みました。卒業後は仕事としてパソコンを利用して絵を描いたり、デザインをしたりしていましたが、自らの創作活動はあくまで趣味の範囲のもの。時々友達と個展をする程度でした。2008年に長女を授かったことをきっかけに、美容師の夫と結婚しました。その後、7回妊娠をして、3度の流産を経験。息子をひとり亡くし、今は3人のこどもの母です。絵を再び本格的に描き始めるきっかけになったのは、2014年に生後2か月だった次男を亡くしたことでした。

―絵を描き始めた経緯を教えてください
次男を亡くしたことで、それまで当たり前だと思ってありがたいとも思わなかった日常が、次の日の自分には絶対に手に入れられない大切なものだったとわかりました。次の日、もう家族が揃うことがなくなるなんて思ってもみませんでしたから。今までぬるく、甘く生きていたなあということを思い知らされました。この経験から、今まで我慢してきたり、押し殺したりしてきた感情をどうにも無視できなくなって、精神的にも肉体的にも不安定になりました。心の拠り所がほしいと考えていたその頃、縁あってアートセラピーの講座を受けたんです。絵を描いているときに、自分の内側からあふれ出すものがあるのを感じて、これは自分にとって立ち直るきっかけになるなと身体で実感しました。その時私の中に芽生えたのは「希望」でした。だからこそ、この「希望」を絶やさないように続けて行こうと思い、意識的に絵を描く時間を持つようになったんです。

―絵を描くときの発想の源を教えてください
こういうふうになりたい、こういう世界が見たいと感じる気持ちを絵に描いています。抽象的な絵でも、こういう世界を見たいなという思いを。具体的な絵では、あたたかなまなざしで赤ちゃんを抱っこしたかったな。家族の未来はこうあってほしいな。というような思いを。そんな、自分の中に理想としてあるイメージを、絵という形で具現化しています。

「どうありたいか」を描き出す

―絵を描くときに大切にしていることはなんですか?
大切にしているのは、自分が「どうありたいか」を深めていくことです。私は受け手の存在を想定するということよりも、自分の中にあるイメージを外に出していくということを重視した絵の描き方をしています。絵を描いているときは、自分の中にいるもうひとりの自分と常に対話している感じ。描き始めからあまり完成を意識し過ぎずに、自分自身が「どうありたいか」の純度を上げることに集中しています。途中で「この絵どうなっちゃうんだろう!?」と思うこともあるのですが、もうひとりの自分が「大丈夫だよ」と言ってくれたりする。そんなプロセスを通じて自分の思いが整理できて、安心や安らぎ、癒しを得ることができています。また、仕上がった作品を自分で見たときに、嬉しくなったり、あったかい気持ちになったりと、心が動くものが描けるとよかったなと思います。

―やりがいを感じるのはどんなときですか?
絵を描き切った時にそれを眺めることで私自身が得るのは満足、そして達成感です。そしてその絵が誰かに届いたと感じられたときに、やりがいが生まれていくように思います。私の絵に感動してくださった方は、私が絵に込めた思いと響き合ってくださったんだなと思うんです。例えば、その絵を自分の家に飾りたいと言ってくださる。そして、その絵がその方の暮らしの中にあるようになって、毎日が明るくなったと言ってもらえたら、描いてよかったなと思う。やりがいというと、そこまで行ったときに得られるものなのかなと思います。

―活動を通して伝えたいことは、どんなことですか?
絵を通じて伝えたいのは「希望」です。私自身が絵を描くことによって自らを再生していく希望を見出すことができたので、見る人にもそんな思いが伝わって、共有で来たら嬉しいです。絵を描き始めてから、私と同様に家族を亡くした経験のある方とつながる機会も増えました。写真は亡くなった方の姿かたちを表すものですが、絵はまた別の役割として、自分だけにわかる、その子の思い、存在を重ねられるものになり得ると思います。私もそんな絵をいくつか飾っていますが、ふと気持ちが折れそうなときに眺めることで大丈夫だ、という気持ちになれます。絵って自分が日々見ているようで、実はずっとそこにいて暮らしている人たちのことを見つめてくれているもの。絵という「希望」が生活の中にあることで、暮らしものものが豊かになるということも伝えていきたいと思っています。

「自分らしさ」を支える、家族の存在

―atelier frutoについて教えてください
最近作った自宅を利用したアトリエで、私のアーティスト名義accoの創作拠点です。自らの創作活動に加え、夫の営むヘアサロンfruto hair(フルート ヘア)のパートナーのような存在にしていきたいという思いから、atelier fruto(アトリエ フルート)と名付けました。私が心身のバランスを崩してしまうまで、夫は仕事が忙しくて帰宅も遅く、家事や育児は全部私の仕事でした。そんな状況を作っているお店になかなかいい印象が持てず、素直に手伝えない時期もあったんです。その後、家の状況の変化に合わせて夫の家事の比重を増やしてもらうことで、今度は店のバランスが崩れてしまうこともありました。それなら、私のできる方法で店に関わって行こうと行動し始めたらすごく楽しくなった。そこから、夫婦それぞれのいいところを活かして協力していく仕事の形をつくりたいと思い、アトリエを開設するに至りました。アトリエでは自らの創作やワークショップに加えて、fruto hairに関わるデザインも行っていく予定です。

―あきこさんにとって、絵を描く活動は自分らしいものですか?
はい。いろいろやってみましたが、絵を描くということがいちばんそのままの私でいられる活動だなと思います。そして、そんな活動をできているのは、夫や家族の存在も大きいです。以前は良き母、良妻の像を自分で勝手に作っていて、そこに向かって突っ走っていたところがありました。けれど、そんな無理をしなくても、楽しいことをしているママ、妻の姿を見せることの方が、家族の平和の実現には早道だったと気づいたんです。子どもたちにとっても、感情を抑えて怒らないようにしているよりも、喜怒哀楽を一緒に表現してくれる母親の方が楽しいみたいで。夫も、感情を抑え込んで無理をしているよりも、衝突もあるけどなんでも話している今の関係の方が、気持ちを溜め込んでいるよりもいいと思ってくれているようです。

―今後の展望を教えてください
絵を描いている過程を見もらう機会を増やしたいと思い、ライブパフォーマンスを積極的にしていこうと思っています。絵を描くプロセスは、自問自答、葛藤の繰り返しです。完成した絵は晴れ晴れとした印象でも、それを描くプロセスでは悶々としている時間も長い。それって、今までの人生にどこか似ているなと感じるようになりました。辛いときでも、自分の感性を信じて絵を描き続けること。それは、人生の中の厳しい時間とも重なるものがあると思うんです。いい絵が仕上がることを信じながらも、これでいいのか、この先どうなるのかと不安になることもある。私は今までどうなるのかわからないものを見せるのが好きではなかったのですが、そこが面白いところでもあるので、見てもらうことで新しい世界が広がるんじゃないかなと思えるようになってきました。イベントなどでもライブパフォーマンスは行って行く予定ですが、今はインスタライブなどいろいろな方法でやりたいことが表現できるので、自分でどんどん発信して行く機会を作って行きたいと思っています。

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