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リリとロロ

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リリ・シャロンという自由について。
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#日記

リリとロロ 「サブリナロマンス」

リリとロロ 「サブリナロマンス」

新生活のロロ

連なる山々を越え、ノイジーな車輪の音は風景に溶けていった。

一つ咳を漏らせば全員が吐き出しそうな空気は、ドアの開く小気味良い音と共に放たれた。

私はいま、都会に来ている。

そう再認識するように心音に身を委ねる。

片田舎から数時間、都会特有の秘匿性に静かな憧れを抱き、私は社会人へとなろうとしている。

暖房から急激な冷気に晒されてかじかんだ手を銀蝿のように擦り合わせて、私は彼

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リリとロロ 「羽化」について

リリとロロ 「羽化」について

アヤミハビル(ヨナグニサン)という日本最大の蛾がいる。

蝶はストローのような口器で花の蜜を吸うことが多いのは知れ渡っているが、この蛾は大きく羽根の先端が蛇のようになっているにも関わらず、口が退化していて一週間程度で餓死する。(カイコガなどもこれに当てはまる)

飢餓というのは人類の歴史を見ても最も凄惨で、人間の荒んだ心を膨張させる事実であると思う。

飛躍して言えば古来より飢えを凌ぐために銭を稼

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リリとロロ 「羽化」 ②

リリとロロ 「羽化」 ②

この怠けた身体を動かそう。

躯体から再度、より強靭なものにしなければならない。

calicoからリリ・シャロンへ。

単なる前身バンド、単なる引き継ぎ作業ではない。

何度でも始められるなら、僕が女性だった場合、どんなバンドを組みたいかを念頭に置いて音楽に向き合うことにした。

ただ、calicoの意志を完全に消去するわけではない。

これは幼虫からサナギへの変態。

一度ドロドロに身体が溶け

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リリとロロ 「羽化」 ①

リリとロロ 「羽化」 ①

正木諧のロロ

放たれた空砲が鼓膜を痺れさせるような感覚。

サナギが音を立てて羽化するように、それは徐々に、そして突然に訪れた、脳を掻くような高く乾いた振動だった。

まだ朝靄の滲む空にぬるく溶けるように眠りにつく、自堕落な生活に身を委ねていた。

ただ生活を死なないために続け、時折来る痙攣に怯えながら社会的に放棄された自分を遠くから見つめる。

「ここから飛び降りれば」

「この紐で気管を塞げ

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