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リリとロロ 「羽化」 ②


この怠けた身体を動かそう。


躯体から再度、より強靭なものにしなければならない。


calicoからリリ・シャロンへ。

単なる前身バンド、単なる引き継ぎ作業ではない。

何度でも始められるなら、僕が女性だった場合、どんなバンドを組みたいかを念頭に置いて音楽に向き合うことにした。

ただ、calicoの意志を完全に消去するわけではない。

これは幼虫からサナギへの変態。

一度ドロドロに身体が溶けてしまい、心身共に防御の姿勢を取れない期間だったからこそ、今、殻を破る瞬間になるのかもしれない。

一年半前、あたまがおかしくなって自分がドロドロになるイメージを日記として残してあった。

身体が関節を無視してばらばらになっていく。

昆虫標本のように意思を持たず曲げられる様相ではなく、道路で踏み潰されて轍を赤黒く染める鳥の死骸のように。

やがて肉片は点描のように散乱し、かつて脳味噌だった部分は飼い主が捨て置いた犬の糞を入れた袋のようにコンクリートにへばりつく。

2023年3月29日 正木諧「バシロサウルスと汚い犬」より


この状態からよく硬化し、身を保つことができたと思う。

何度でもチャンスはあった。

背中に入ったこの亀裂は、やがて大きな歪みを生み出し、大きく形を変えて全く別の生き物になる。

その勝算と衝動で僕は動き始めたのだった。


自由は辺り一面にある。

これは三人の女性に託した夢の話ではない。

僕自身が「強い女性」になるための物語であり、誰でもない僕を一人だと認めるための人格だ。


改めて言うが、これは性自認に関する話ではなく、社会的なプロパガンダではない。

ただ、男性として生まれた僕がいかにして女性を描き、女性の道を辿るかの一つの作品として"リリ・シャロン"が存在するかを記した、母子手帳のようなものだ。


正木諧 「羽化」 2


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