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計画しているとうまくいくから「計画」の有難みがない ~私は、計画の大切さとプロジェクトリカバリーの難しさを、失敗体験から学んだ~

今回は、私が問題プロジェクトのリカバリーに入ったときの実話です。

それは途方もない予算規模の大型プロジェクトでした。
契約が完了した時点で、このプロジェクトに許された開発期間はかなり厳しいものでした。このような状況下では、計画軽視の人々が幅を利かせます。

「計画なんて、悠長なことをやっている暇はない」
「計画完了を待たなくても手を付けられるところはいくらでもあるだろう」

このプロジェクトはまさにこうしてスタートしました。

技術者は、情報の欠片さえあれば作業に着手できます。経験豊富な技術者であればなおさらです。
このとき、目指すゴールはまだ明確ではありませんでした。重要な仕様のいくつかはまだ固まっていませんでした。事前に行ったフィージビリティスタディ(実現可能か否かを判断するための事前調査)は場当たり的で、それだけでは仕様決定には不十分だったからです。
ところが、技術者たちはフルスロットルでアクセルを踏み込み、作業を開始しました。仕様が固まったころには、出発点はるか彼方に遠ざかっていました。

そして事件は起こります。

「なんだっ、今さらこの仕様は?」
「これじゃ、これまでやった作業はすべて水の泡だ!」

この時点で、プロジェクト開始から半年以上の期間と、数十億円の予算が消えて無くなりました。

状況を見かねた幹部からの指示で、私たちはプロジェクトリカバリーに着手しました。
プロジェクトリカバリーは「ゴールを逸脱したプロジェクトを立て直して既定路線に戻すこと」と思われがちですが、実は正しくありません。プロジェクトリカバリーとは、正しくは「ゴールを逸脱した混乱状態のプロジェクトを定常状態に引き戻すこと」です。これがリカバリーチームの仕事です。

リカバリーチームの仕事:
現状すら把握できていない混乱状況を整理し、見える化し、コントロール可能な状況に戻す

プロジェクトマネジメントチームの仕事:
リカバリーチームの活躍によりコントロール可能となった状況下で、ゴール達成に向けた計画を立て、実行に移す

私たちは早速、現状の整理と見える化に取り組みました。作業の洗い出しにはじまり、必要な工数を積み上げ、作業の依存関係に細心の注意を払いながらスケジュールを立て、現実的な計画を立てるところまでが当面のスコープでした。
この時点で計画はまだゴールを達成できていませんが、計画を見える化できたことでコントロールは取り戻せるはずです。
ここまでいけば、私たちはプロジェクトマネジメントチームにバトンを渡してミッション完了となります。

ところが、先の見えない鎮火作業に躍起になっていたプロジェクトマネジメントチームは非協力的でした。目の前の作業に追い立てられているチームメンバーも計画どころではありませんでした。
あの手この手と工夫してはみたものの、結果的に、私たちはリカバリーを断念せざるをえませんでした。

私たちが志なかばで断念した計画はマネジメントチームに引き継がれることなく放置され、プロジェクトチームと費やした時間の多くは無駄になり、プロジェクトは元の木阿弥となったかに見えました。
しかし幸いにして、私たちのマネジメント精神や計画手法はマネジメントチームのごくわずかのメンバーに細々と受け継がれました。これが功を奏して、プロジェクトは破滅的な状況を免れたと聞いています。

残念なのは、このような失敗はこれが初めてではなかったという点です。
この組織では、数年前にも同じような不幸な出来事が発生していました。そのときの反省が、今回も活かされなかったわけです。計画の大切さは、通り一遍のレッスンズ・ラーンドでは継承されないということです。

私たちはその後、この組織の構成員のひとりひとりに計画の大切さを働き掛けました。ボトムアップアプローチは時間がかかります。スピード重視の現代社会において、時間と手間のかかるアプローチは幹部の協力を得られないのが普通ですが、この時だけは違っていました。
幹部の後押しのお陰で、時間はかかりましたが、未来に向かうための地固めは完了しました。

反省点を整理します。

・ 問題が発生してからでは計画は遅すぎる。計画文化の定着には時間がかかるので、普段からの取り組みが大切。
・ プロジェクトリカバリーには「計画にかけられる時間」と「計画の目に見える成果」のバランスが大切。成果を出しながら状況を立て直すための工夫に徹底的に頭を使うべき。
・ プロジェクトリカバリーに着手する前に、プロジェクト関係者はもとより幹部とも腹を割って話し、当事者意識を醸成しておくことが大切。

私は、この時の反省点を糧に、今も計画力強化に取り組んでいます。


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