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shift innovation #35 (QUINTBRIDGE hack 2)

今回、QUINTBRIDGEで開催された「『アイデアが実り続ける場のデザイン』新たな商品やサービスの創造に大切な視点とは」というテーマのイベントに参加しました。


登壇者は、株式会社MIMIGURI デザインストラテジストの小田裕和氏であり、co-net代表、株式会社MIKKE社外取締役などもされておられ、「インスピレーションを孵化させる、場や道具のデザイン」をテーマに、事業開発から組織開発まで、幅広いプロジェクトのコンサルテーションやファシリテーションに取り組んでおられるようです。


【QUINTBRIDGE hack 1のまとめ】

前回、今までとは異なる新たなアイデアを導出するためには、「哲学アプローチ」や「脳科学アプローチ」に基づく「アブダクション」を活用する必要があることを説明しました。

アブダクション
(イノベーティブな)アブダクションとは、「事象」に対して、非常識な「法則(問い)」を適用することにより、今までとは異なる新たな「仮説」を形成するというものです。

哲学アプローチ
事象に対して二項対立となる事象が生じるような問いを立てると共に事象の真偽、事象の原因、実現する方法を問い続けることによって、今までとは異なる新たなアイデアを導出します。

脳科学アプローチ
事象に対して二項対立となる事象(問い)を強く意識し、ワーキングメモリに負荷をかけ、手詰まりの状態にすることにより、問題空間が切り替えられ、非関連情報がワーキングメモリ内に流入することによって、今までとは異なる新たなアイデアを導出します。


【今回の概要】

今回は、前回説明した哲学アプローチや脳科学アプローチに基づく「アブダクション」の思考プロセスを構造的に捉えた「フレームワーク」について説明することとします。


【フレームワークアプローチ】

イノベーティブなアブダクションのフレームワークの構成要素として、「転移」「反転」「類推」があり、「転移」とは、捉えた事象に対して、今までとは異なる課題を捉えることをいいます。「反転」とは、異なる視点で捉えた課題を今までとは異なる視点で捉え直すことをいいます。そして、「類推」とは、捉え直した事象に関連するものへと具象化させることをいいます。

事象に対してイノベーティブな「アブダクション」をする上で、このフレームワークにおける構成要素がない場合、事象に対して今までとは異なる課題を、今までとは異なる視点で捉えることができないため、今までとは異なる新たなアイデアを導出することは困難であると考えます。

そこで、イノベーティブなアブダクションのフレームワークの構成要素である「転移」「反転」「類推」に関して、説明することとします。

転移(リフレーム)
「転移」とは、捉えた事象に対して、今までとは異なる課題を捉えることをいいます。「転移」において必要となる視点とは、事象に対して、「時間軸」や「空間軸」で捉えることとなります。

例えば、「赤ちゃんの検診のため定期的に病院へ行くのは大変である」という事象を捉えた場合、「日本」では「検診を受診するものである」という固定観念に基づく視点であり、今までと同じ視点となります。

一方で、今までとは異なる課題を捉える上で、今までの視点を「空間軸」で捉えた場合、「日本」に対して「途上国」などを捉えることとなり、「時間軸」で捉えた場合、「現在」に対して「過去」「未来」を捉えることとなるなど、今までとは異なる視点で捉えることとなります。

反転(リバース)
「反転」とは、捉えた課題を今までとは異なる視点で捉え直すことをいいます。「反転」において必要なる視点とは、異なる視点で捉えた課題に対して、「意味軸」で捉えることとなります。

例えば、「日本」を今までとは異なる視点で捉えた「途上国」に対して、「意味軸」で捉え直した場合、「検診は受診するものである」に対して「検診を受診しない」へ意味を転換することにより、今までとは異なる視点で捉え直すこととなります。

これらの「転移」「反転」に関して、「途上国」を想起したことにより、「検診を受診しない」を想起したものであるのか、「検診を受診しない」を想起したことにより、「途上国」を想起したものであるのかは定かではないものの、概ね「転移」と「反転」は同時に想起したものではないかと考えます。

類推(アナロジー)
「類推」とは、捉え直した事象を関連するものへと具象化させることをいいます。「類推」において必要となることとは、捉え直した事象に対して、連想し続けることとなります。

例えば、「途上国では定期的に検診を受診していない」に対して、「途上国」から「不衛生」、「不衛生」から「免疫力」を連想したことにより、「不衛生な中でも健康に育っているので免疫力が高い」という事象を想起することとなります。

そして、「不衛生な中でも健康に育っているので免疫力が高い」に対して、「免疫力」から「予防接種」、「予防接種」から「常在菌」を連想したことにより、「もし常在菌の入った錠剤を飲むことにより、赤ちゃんの免疫力を高めることができれば、検診を受診する必要がなくなる」ということを類推することとなります。

これらのように、捉え直した事象に対して、連想し続けることにより、「検診を受診しない」から「免疫力を高めるための常在菌が入った錠剤」を類推することとなりました。

これらのことから、「転移」「反転」「類推」というイノベーティブなアブダクションのフレームワークに基づき、「赤ちゃんの検診のため定期的に病院へ行くのは大変である」という事象に対して、「途上国の赤ちゃんは定期的に検診を受診しない」という法則(問い)を適用することにより、「赤ちゃんの免疫力を高めることができれば、検診を受診する必要がなくなる」という仮説を形成することによって、「検診」というサービスから「免疫力を高めるための常在菌が入った『錠剤』」というプロダクト(アイデア)へ遷移することとなりました。(妄想)


【フレームワークアプローチの新たな事例】

フレームワークアプローチの新たな事例として、コンサルティングファームである「Takram」の「shenu:Hydrolemic System」の事例を活用し、「転移」「反転」「類推」のフレームワークに基づきイノベーティブなアブダクションについて説明することとします。

「Takram」により考案された「shenu:Hydrolemic System」は、人体が必要とする水分を極限まで抑えるためにつくられた人工臓器を含む一連のプロダクト群となります。

国際現代芸術展「dOCUMENTA(13)」における「荒廃した未来の世界における水筒」というテーマに基づき、現状の延長上にはない新たなアイデアを導出することとなったようです。

はじめに、「荒廃した未来の世界における水筒」というテーマにより、「水質汚染等により供給可能な水が極端に限られている」というように、体内に水分を補給することが困難である究極的な状況を想起することとなります。

究極的な状況を想起したことにより、「人間が一日に排泄・排出する水分を極限まで少なくできれば、そもそも人体が必要とする水分を少なくできる」というように、体内に水分を補給するのではなく、体外へ水分を排出しないと視点を変えることとなります。

視点を変えたことにより、「カンガルーの腎臓は体の中の尿を濾過した水分を循環させる」というように、体外へ水分を排出しない方法としてカンガルーの腎臓を類推することとなります。

カンガルーの腎臓を類推したことにより、「水筒を作るのではなく、人間の体を水筒と捉え、生存に必要な人工臓器を作る」というように、「水筒」というプロダクトから「人工臓器」というプロダクトへ遷移することとなりました。(推察)

転移(リフレーム)
「水筒」を「空間軸」で捉えることにより、「水筒」に関連するものとして、「水筒」の中に入っている「水」、「水」を飲む「口」、「水筒」と「口」をつなぐ「手」など、視点を拡大することによって、視点が「水筒」から「人間」へ「転移」することとなります。

反転(リバース)
「人間」を「意味軸」で捉えることにより、究極的状況において「『人間』の体内に適切な水分を維持する」という目的に基づき、「体内へ水分を補給する」から「体内から水分を排出しない」へ、同じ目的に基づき異なる意味へと「反転」することとなります。

類推(アナロジー)
「体内から水分を排出しない」を捉えたことにより、体内の尿を濾過し水分を循環させる腎臓を備えるカンガルーを想起するなど、「排出しない」から「循環させる」、「循環させる(臓器)」から「カンガルー」を想起することによって、「体内から水分を排出しない人工臓器」を「類推」することとなります。

これらのことから、「転移」「反転」「類推」というイノベーティブなアブダクションのフレームワークに基づき、現在、「水質汚染等により供給可能な水が極端に限られている」という事象に対して、「人間が一日に排泄・排出する水分を極限まで少なくできれば、そもそも人体が必要とする水分を少なくできる」という法則(問い)を適用することにより、「カンガルーの腎臓は体の中の尿を濾過し水分を循環させる」という仮説を形成することによって、「水筒」というプロダクトから「体内から水分を排出せず循環させるない『人工臓器』」というプロダクト(アイデア)へ遷移することとなりました。(推察)


【フレームワークアプローチにおける重要となる視座】

捉えた事象に対して、今までとは異なる新たなアイデアを導出する上で、「転移」「反転」「類推」するためには、事象を捉える視座が重要となり、より高い視座で事象を捉える必要があります。

新たな事例の場合であれば、「転移」における「空間軸」の捉え方として、「水筒」だけを捉えた場合、「水筒」の筒の素材、「水筒」の筒の大きさ、「水筒」の蓋の形状など、既に水筒メーカーで検討し尽くしているアイデアを導出することとなります。

そこで、「水筒」という視点だけではなく、「水筒」の中の「水」、「水」を飲む「人間」など、視座を高めることにより、今まで捉えていた枠(固定観念)から強制的に外れることによって、今までとは異なる新たなアイデアを導出することができる可能性が高まることとなります。

また、「反転」における「意味軸」の捉え方として、「体内に水分を補給する」と捉えた場合、「『水筒』を使用し体内に水分を補給する」、「『水筒』以外の素材を使用し直接体内に水分を補給する」など、想定される範囲のアイデアが検討されることとなります。

そこで、「人間」の体内に適切な水分を維持するという上位の目的を捉えるなど、視座を高めることにより、今まで捉えていた枠(固定観念)から強制的に外れることによって、今までとは異なる新たなアイデアを導出することができる可能性が高まることとなります。

そして、「類推」においても、「空間軸」「意味軸」における視座が高くない場合、想起することができる事象(情報)が限定されることから、「水筒」というプロダクトから「体内から水分を排出しない『人工臓器』」というプロダクト(アイデア)へ遷移することができないことからも、より高い視座で事象を捉えることが重要であると考えます。


【まとめ】

「哲学アプローチ」や「脳科学アプローチ」に基づく「アブダクション」の思考プロセスを構造的に捉えた「フレームワーク」について説明しました。

転移(リフレーム)
「転移」とは、捉えた事象に対して、今までとは異なる課題を捉えることをいい、「転移」において必要となる視点とは、事象に対して、「時間軸」や「空間軸」で捉えることとなります。

反転(リバース)
「反転」とは、異なる視点で捉えた課題を今までとは異なる視点で捉え直すことをいい、「反転」において必要なる視点とは、異なる視点で捉えた事象に対して、「意味軸」で捉えることとなります。

類推(アナロジー)
「類推」とは、捉え直した事象に関連するものへと具象化させることをいい、「類推」において必要となることとは、捉え直した事象に対して、連想し続けることとなります。

視座
「転移」「反転」「類推」するためには、事象を捉える視座が重要となり、より高い視座で事象を捉えることによって、今まで捉えていた枠(固定観念)から強制的に外れることができることとなります。

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