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shift innovation #21 (INFOBAHN hack )

今回、株式会社インフォバーン 京都支社長 井登友一氏の”サービスデザイン思考「モノづくりから、コトづくりへ」をこえて”の出版記念の講演に参加してきました。

講演のはじめに井登氏より、講演の内容は、著書の内容そのものではなく、サービスデザインにまつわる周辺の話をしますということで、講演をお聞かせいただきました。

ここでは、お聞きした内容を書き留めた際、自身の考えも書き留めていたため、井登氏のお話と自身の考えが混在した内容となりますので、ご了承ください。

井登氏のお話では、「モノづくりからコトづくりへ」というのは、すでに浸透しているものであることから、モノに価値がなくなってしまったのかという問いにはじまり、その意味や価値を問い直す必要がある、それは、「ユーザー中心で良いのか」「人間中心で良いのか」、その先はどうあるべきであるのかなど、様々な問いにより考えさせる始まりとなりました。


【パイン&ギルモア「経験経済」(経験経済から変革経済)】

「モノづくりからコトづくりへ」というトレンドの中で、経験価値に関するパイン&ギルモアの「経験経済」の話も踏まえ、「あえて一手間かけ愛情を持つことができる価値(モノ・コト)」に関するお話がありました。

「経験経済」の著書の中には、「コモディティ」「プロダクト」「サービス」「経験」、その上位概念に「変革」があり、「変革経済」として、「会社で疲れた後にジムで負荷のあるトレーニングをする」、「会社を辞めて収入がなくなるにも拘らずMBAへ学びに行く」など、自己を変革させる事例があったことを思い出しました。

そして、先日、テクニクスのイベントに参加した際、昔レコードを使っていた人はもちろん、若者の間にも復活の兆しがあり、様々な年齢層の方が参加していましたが、今であれば、ボタンひとつ押せば好きな音楽がいつでもどこでも聞くことができるものを、あえて一手間かけて音楽を聴くということも、愛着を持つことができるものであると考えます。

レコードの場合は、あえて一手間というものを作り込んだものではないですが、今までの行動を変える必要があるという意味において、「変革経済」への遷移の経過として、レコードも復活しているのではないかと思いました。(浅い理解ですが)

これに関して、現在のデジタル化により、例えば、レコメンド機能によって、思考することなく、様々なことができてしまうこと、踊らされていること、つまりは、主体性が失われることに対して、意識的であるのか無意識的であるのか、主体的に行動したいという表れのひとつではないのかとも思いました。

なお、「経験経済」の著書が出版された当時、在籍する会社で「変革経済」に関する新たな事業ができないか考えていましたが、「変革経済はそうあるものではないのではないか」「経験経済の先にある変革経済は、今後、広がりがあるものなのか」など、考えていたことを思い出しました。


【高級鮨屋の経験】

そして、銀座の鮨屋のお話では、鮨屋に入るとメニューなどがないカウンターで、職人に飲み物を聞かれた時、緊張しながら職人に返事をしたとのお話があり、今の時代、お店に入り気持ち良いサービスを受けることが当たり前のことである中で、緊張しながらサービスを受けたものの、改めて銀座の鮨屋でお寿司を食べたいとのお話をお聞きした時、以前、京都大学の山内裕教授の講演をお聞きした時のことを思い出しました。

山内裕教授の講演をお聞きした後、メールにより感想を述べさせていただいた内容となります。

サービスにおける価値共創に関して、高級鮨屋に行った際、二郎さんがタブレットを差し出し、注文をとられると、もうその鮨屋には行こうとは思わないように、顧客は高級鮨屋に対するイメージに応じた顧客を演じ、鮨屋も高級鮨屋というイメージに応じた店舗の造りをはじめ、接客なども含め、イメージに応じた職人を演じている、つまり、お店とお客がお互いの役割を演じることにより、価値共創が成立しているのではないかと思いました。
その中で、高級鮨屋であれば、お作法があるように、粋なふるまいの応戦を楽しむというのが、先生のおっしゃられた闘いであり、それが文化というレベルで継承されることにより、次世代の二郎さんとなる方も、その役割を演じる中で、お互いが楽しむことができる、つまり、満足することができるのではないかと思いました。
よって、このような粋なふるまいの応戦ができない顧客から見ると、試されている、テストされていると感じるのかもしれませんが、このような寿司文化を継承するために、二郎さんは顧客を育てているのではないかもと思いました。(よい解釈として)
このことからしますと、例えば、スポーツジムで体を鍛えたい人が、トレーナーから厳しい指導を受けるというのは、周りから見ますと、どうして苦痛を伴う経験をあえてするのかと思うかもしれませんが、当の本人は苦痛という経験を、自己を変革させることができる良い経験であると捉えますと、このような考えができる顧客こそが、高級鮨屋に行く資格がある顧客ではないかと思いました。(余談) 2019/06/21


【ロベルト・ベルガンティ「意味のイノベーション」】

サービス・ドミナント・ロジックのお話の中で、企業は価値を提供するだけである中で、顧客のコンテクストに応じた価値を共に創るものであるということにおいて、異なるコンテクストへ上手く転換した事例として、ロベルト・ベルガンティの著書「突破するデザイン」にある「意味のイノベーション」より、ヤンキーキャンドルのお話がありました。

ヤンキーキャンドルは、斜陽しているキャンドル業界において、従前の「明かりを灯すためのキャンドル」から「心を癒すためのキャンドル」へ、異なるコンテクストへ転換したことにより、キャンドル自体の目的・意味が変わることによって、新たな価値を創造したものであり、つまりは、視点を変える、コンテクストを変えるなど、リフレーミングしたことによって、市場を拡大させることができたようです。

このように、市場を拡大させるなど、無消費者を受け入れる上で、モノに対して新たに物語らせることによって、未来の当たり前を創る、つまりは、生活様式を変えるような、文化を変えるような価値を創造する必要があるというようなお話がありました。


【ユーザー脱中心発想】

経済産業省のサービスデザインの概念の一つである「人間中心」に関して、「ユーザー中心」「人間中心」という概念がありますが、その先にある「地球中心」という概念が、今後、重要になるのではないかと感じました。

そして、今、環境問題への対応など、厳しい状況にある中で、脱炭素社会を目指した行動をする、例えば、企業であれば、自然エネルギーによる発電というレイヤー、個人であれば、省エネできる機器使用というレイヤー、エアコンの温度設定というレイヤーなど、従前のように利便性、効率性を重視した行動から、今後は、少し大変ではあるが、少し費用はかかるが、地球環境のための行動をする必要があるという兆しにあります。

そうしますと、冒頭のお話の中で「あえて一手間かけ愛情を持つことができる価値(モノ・コト)」に関して、例えば、「ボタンひとつ押すことで音楽を楽しむのではなく、レコード針をレコードに乗せて雰囲気を楽しみながら音楽を聴く」「タブレットの画面を操作して寿司を注文するのではなく、高級鮨屋で緊張を味わいながらお寿司を食べる」「快適な空間で仕事をするのではなく、少し暑いけれどもエアコンの温度設定を高くすることにより、地球に良いことをする」など、これらの行動も「経験経済」から「変革経済」へ遷移するというパイン&ギルモアの「経験経済」における自己変革という概念に当てはめると、「あえて一手間かけ愛情を持つことができる価値(モノ・コト)」ということに対して、全てが腑に落ちた感じがしました。


【まとめ】

サービスデザインにおいて、今後、「変革経済」が社会に浸透する兆しがある中で、その目的が、「自己のため」「他者のため」「社会のため」の比重によって、自己変革に対するコミットメントへの強さも変わってくるものと考えられますので、「変革経済」が社会に浸透することによって、より良い社会を構築するためには、「利己」と「利他」、また「経済的価値」と「社会的価値」のバランスを、環境に応じて最適となる社会へ誘導することも必要ではないかと感じました。

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