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関係人口とはなにか

こんにちは、地域おこし協力隊OBで地方議員を務めている中村です。
先日、滋賀県大津市にある全国市町村国際文化研修所(通称:ジャイアム)で「関係人口」に関する研修を受けてきました。

「関係人口」は最近のまちづくりの分野で言及されることが増えていますが、比較的新しい用語です。そのため、交流人口との違いがそもそも明確でなかったり、観光客のこと?っといったようにあやふやな理解もまだまだ多く見られます。今日は関係人口について簡単に定義をまとめたいと思います。

1.定義〜「関係人口」とは誰のこと?〜

2021年4月に出版された関係人口の学術書『関係人口の社会学』では「特定の地域に継続的に関心を持ち、関わるよそ者(p.77)」とされています。ここで注意が必要なのは定住人口でも交流人口(観光客)でもなく、そして企業でもボランティアでもない、新たな地域外の主体の概念、という点です。

定住人口とはその地域で暮らしを営む住民のこと、交流人口とはその地域の商業施設でお金を使う地域外の消費者です。関係人口とはそのどちらの存在でもなく、かといって営利企業でもありません。注意が必要なのは、厳密にいうとボランティアでもない、という点です。

たとえば、災害復興のボランティアで地域によそ者が集まって、修繕作業などを手伝ったりします。この場合のボランティアは無報酬の社会奉仕という目的で集まりますが、復興が成されたらそれ以上の関係はありません。関係人口は、より長期的なスパンで地域づくりに参入する地域外の住民、というくくりになります。

2.関係人口の事例紹介

ここからは具体的な例から関係人口について考えていきたいと思います。全国で色々な試みがされていますので、ぜひあなたの地域でも取組みの参考にしてください。

○たなコトアカデミー@和歌山県田辺市
移住交流の雑誌sotokotoで有名な指出一正さんが主催するファンづくりのセミナーです。講座は全5回ですが、そのうち4回を東京で開催し、実際に地域づくりの現場となる和歌山県田辺市には一度訪れるのみです。

都内で開催されるセミナーでは、担い手不足に苦しむ田辺市でどのような町づくりの試みができるのかをワークショップ形式で議論します。最終的なプロジェクトとしては、渋谷の国連大学の前でファーマーズマーケットを開き、田辺の特産品である柑橘類の販売をおこなっています。

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○WhyKumano@和歌山県那智勝浦町
コロナ禍では宿泊業が全国的に低迷しましたが、那智勝浦町のゲストハウスWhyKumanoでは全国に先駆けてオンライン宿泊をおこないました。参加者は20時にチェックインし、ゲストハウスオーナーはゲストが泊まる予定だった宿泊棟の様子を画面共有で紹介します。そしてオンラインの飲み会を通じて那智勝浦の魅力を語り合います。翌朝のチェックアウト時間に再度オンラインで集合をして、オーナーからのお礼のメッセージと町の風景をまとめた動画を見ます。参加費は後に使えるワンドリンクチケット付きで一人1000円です。

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○ゆざわりんごプロジェクト@秋田県湯沢市
豪雪被害を受けたりんごの活用法をオンラインで考え、ビール作りを行うプロジェクトです。メンバーの大半が湯沢を訪問したことがなく、ほぼオンラインでプロジェクトが成立しました。

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○ビルトザリガニ@栃木県宇都宮市
宇都宮市の釜川エリアにあるゴールドコレクションビルというテナントビルの改修事業です。もともと内装はきれいな状態でしたが、それをあえて壁を剥がしてスケルトンの状態にまで減築しています。むき出しの壁は入居者が自由にDIYで変えて良いなど、あえて自由に表現をする余地を「関わりしろ」として残しています。メンバーはアーティストやデザイナーが主ですが、コロナ禍で県外移動が出来なかったことにより、県内の関係人口が集まる場所ともなりました。

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○縁ハンスプロジェクト@北海道上士幌町
ふるさと納税を通じた関係人口の創出事業です。人口5,000人の上士幌町はふるさと納税の規模は年間15億円を集めるやり手の自治体です。その中で「クラウドファンディング型ふるさと納税」を行い、寄附者を対象に都内で交流イベントを実施しています。クラファンを通じて、都市部で返礼品のPRを行い副業化したい人をアドバイザーとして募集し、町内企業とのマッチングを行政が行います。

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3.関係人口の要点〜失敗例をいくつか〜

関係人口は地域外に住みながら、地域づくりに参入してくれる有り難い存在です。しかしボランティア(無償の労働力)ではないということは、関係人口として参加する人たちにも一定のメリットが必要ということです。この場合のメリットとは金銭以外のもの、たとえば「やりがい」や「地域に貢献しているという満足感」など精神的なものも含みます。以下では関係人口づくりをする上での失敗例についても見ていきたいと思います。

○「スタッフ募集」から出た不満

中国地方での取組みの一つで廃線跡にトロッコ電車を走らせる、という町おこし事業が続けられています。天空の駅、と呼ばれる地上20メートルの高さにある駅をトロッコ電車で通るのはなかなかのスリルで、評判のイベントでもあります。あるときイベントで人手が足りたいときに、いつも情報を発信しているLINEグループで「スタッフ募集」という呼びかけをしたところ、メンバーから不満の声が上がった、ということでした。

つまり私たちは無償の労働力ではなく、自分なりに理由があって手伝っている、体の良いタダ働きの人間のように扱われるのは違う、という不満が出たわけです。もともと無報酬で手伝ってくれたわけですが、その気持ちの中には町おこしに参画することで得られる充足感が無形の報酬として含まれています。地域は助けてくれる関係人口を上手にもてなし、ありがとう、という感謝を伝えることによって相互に欲しい物を得る、互酬性が必要です。

「嫁に来て欲しい」はNGワード

これも同一のグループのなかでの話です。関係人口として都市部からイベントのお手伝いに来てくれた女性スタッフに現地の区長さんが、挨拶のなかで「ぜひうちの地域に嫁に来て欲しい」ということを言ったそうです。その方には悪意はなかったわけですが、その後のアンケートで言われた側の女性は「私は嫁になるために地域に来ているわけではない」と書かれて、翌年からは来なくなったということでした。田舎では都市部から手伝いに来てくれる善意の参加者を便利な「定住人口予備軍」と見がちです。

参加者は別に永住するつもりでも、骨を埋めるつもりでも、嫁探し婿探しに来ているわけでもありません。ただ自分が楽しいと思うから参加しているのです。その気持を読み違えると大失敗のもとになるということです。

4.関係人口はいつ頃から言われるようになった?


関係人口という言葉が初めて登場したのは2016年と言われています。高橋博之さんの『都市と地域をかきまぜる−「食べる通信」の奇跡−』、指出一正さんの『ぼくらは地方で幸せを見つける−ソトコト流ローカル再生論−』で言及されました。

また、2018年のレポート(平成 30 年度「関係人口」創出事業モデル事業調査報告書)では、初めて総務省が「関係人口」に言及しました。ここ数年で国も関係人口を形成するための取組に助成も行われています。つまり、ここ数年の町おこしのトレンドが関係人口である、といえるわけです。

2008年を頂点として日本は人口減少局面に入りました。国全体として見ると、地方から人が減って都市部で増えても、それは単に人口移動なのでゼロサムゲームという側面があります。地方が移住者を奪い合うのは生産性がない考えです。それよりも町おこしの担い手を広く地域外からも募集する、という懐の広さを見せた自治体に明日が開ける、ということが言えます。

5.まとめ〜ふるさと難民〜

関係人口とは「特定の地域に継続的に関心を持ち、関わるよそ者」です関係人口が活躍する形式には、都市部の人間がオンラインだけで参入する、というものもあります。そもそもリアルに地域を訪れなくても町づくりに参加する人口を指す点にも、関係人口の特徴があります。

一方で注意が必要なのは、地域の側に適切なよそ者を見出してうまく使おうというご都合主義が無いようにすることです。関係人口とは、永住するつもりでも、骨を埋めるつもりないけれど、とりあえず地域に関わってもいいですか?というカジュアルな層です。参加のハードルを上げるような文句はNGです。

こうした、地方での地域づくりに参加して充足感や満足感を得たいという人物は別名「ふるさと難民」とも呼ばれます。現代における個人のアイデンティティはSDGsやCSRなど、社会のなかでどのように世の中に貢献しているのか?が常に問われる時代です。都市化した地域では、隣近所同士のつながりも希薄で、コミュニティの発展によって得られる充足感はなかなか得られません。そうした個人の自己実現の一つの手段として、地方での町づくりがあります。金銭的な報酬を求めるわけではないですが、自分が社会の役にたっている満足感をどこかで得たい、という人物がふるさとにはやってくるのです。

地方はそうした都市でのつながりの不在によって、自己充足感を得られる舞台を提供し、相互に役に立つ、という互酬性のもと関係人口の町づくりは成り立っているのです。今後は、関係人口は地域づくりのトレンドになっていくと思います。定住人口や交流人口とは異なる、新しい地域づくりの主体として、関係人口を迎える心構えも地方にはますます要求される様になると思います。

https://fb.watch/9wp8x7r5LU/

今回の執筆内容は動画にもまとめてあります。上記のリンクから関係人口についてプレゼンをご覧いただくことできます。

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