見出し画像

PERPANEPはどうやって生まれたか

画像11

画像12

この度コクヨから、弊社でネーミング・ロゴ・ビジュアルディレクションといったブランディングをお手伝いさせていただいたPERPANEPという「紙とペンのマッチング」を考え開発された商品シリーズの発売がスタートしました!打ち上げとかができないこのご時世、代わりの一区切りにと、本プロジェクトのAD/デザイナーの「ジャガー」(名前の由来は内緒❤️)こと高谷優偉と一緒にお酒片手にネーミングとロゴ開発の過程を振り返ってみたいなと思いました。ネーミングやロゴ開発をされる方の酒の肴となれば幸いです。

PERPANEPという新商品シリーズ

川村(以下ま):今回のプロジェクトの経緯からおさらいすると、僕がコクヨデザインアワードの審査員としていつもお世話になっているコクヨさんから、新しい商品群のネーミングとロゴデザイン、可能であればそのグラフィックと、店頭デザインなどで活かせるようなガイドラインを一緒に考えてほしいという依頼から始まりました。(minute mintのような商品開発からではなく、今回僕らはブランディングパートナーとしてお手伝いしてます。)マーケティングではなく、プロダクトチームの方々やプロモーションを設計しているチームと二人三脚で進めていくプロジェクトでした。よね?

ジャガー(以下ジ):そうですね。

ま:「紙とペンのマッチングを考えた商品」という基本のコンセプトは最初から決まっていて、聞いた時とても素晴らしい!と思ったのを覚えてます。コクヨさんはもともと帳簿といった紙製品からスタートして、正に「紙」と共に成長された会社なんだけど、紙だけではアイデアを記すことはできなくて、だから紙とそこに書くためのペンの最適なマッチングを考えた新しい商品ラインをつくっていきたい、と。新たに開発した複数の紙と、その質感にマッチしたペンで書くと、めちゃめちゃ書き心地が良い。それによって、自分の発想がさらに淀みなく湧き出てくるという、当たり前のようでこれまでなかったコンセプトが新しいね、と話していました。

最終的なノートはツルツル、さらさら、ザラザラの3種類あって、紙の材質違いと、ステノ罫とか方眼ドット罫とか罫線違いが5種類ある。さらさらにはシャーペンとか水性ボールペン油性ボールペン、ツルツルにはファインライター、ザラザラには万年筆が最高といった感じで、それぞれにマッチする紙とペンがある。原紙から全部オリジナルで作ったという点が、さすがコクヨさんだなと。ペンの方は、今回のローンチではコクヨのファインライターとか、既製品をPERPANEP用にリデザインして最適なマッチングになるようキュレーションしています。

商品の概要はサイトでも読めるからこのくらいにしておいて、僕らがやったネーミングとロゴ制作の過程の話をしようか。僕たちへの依頼はこのブランドのネーミングとロゴを考えてほしいというものだったよね。ブランド全体のビジュアルのアートディレクションも最初からお願いされてたんだっけ?

ジ:ロゴの後に余力があればという感じでしたね。

プロジェクトのはじまり

画像1

ま:余力(笑)余力など残らないくらいバリエーション作ったよね。 あれ?ロゴデザインってここにあるだけだっけ?もっとたくさん作ったような。

ジ:これは最終的に一軍で残ったネーミングのやつ(&見せて大丈夫なやつ)だけですね。コクヨさんと打ち合わせをする過程で、多分100案以上作った気がします。

ま:そうそう、そうでした。それでどんどん良いものに全員で丸とかをフラットにつけて、google spreadsheetとかでコメントしながら絞っていったんだけど、結構デザインの良し悪しとは別にネーミングの商標を取れるかどうかでもドンドンはじかれていったよね。

ジ:はい。そもそも世界で売っていくつもりだったので、世界で商標をとろうと思うとそれこそ針の穴を通す感じになってしまうから、一旦日本と中国で商標チェックをして、それ以外でも大丈夫そうなものにしようと。あと商標っていうのは業態で区分されていて、PERPANEPは、9類、16類、18類といった、文具、小物、PC用備品あたりで商標を取ろうとしていたから、シンプルに取得のハードルが3倍になる。9類、16類はOKだけど、18類はNGとか。

ま:いいね!とみんなで盛り上がったネーミングが、バッサバッサ商標フィルターで落ちていった記憶が蘇りました。そして普通はネーミング決定を待ってからロゴを作るのだけど、本件は時間があんまりなくって、ともかく急がないと商品にプリントすることができなくなってしまうというプレッシャーがあった。なのでイレギュラーな進め方だけど、商標チェックを待っていたらタイムアウトになってしまうから、本商標チェック前に一応Google検索やオンライン商標サイトとかでリサーチはして、いけそうかな?というオプションを絞った上でがんがんロゴを先に作っていくというジャガーの苦行がそこから始まったのでした。

ジ:結果的には「PEN」と「PAPER」をくっつけたアナグラムで「PERPANEP」というネーミングになるんですが、そこに至るまでには長い道のりがありました。

まず、一軍の最終候補に6案のネーミングが残ってたんですよね。6案とも名前からくる表現のニュアンスが全然違うので、それぞれのネーミングのトーンや語彙に擦り寄っていく感じでロゴを作り始めました。

画像3

画像2

ま:100本ノック状態ですねw これ、縦読みしたら「かわむらしね」とかになってないよね?

ジ:あとでゆっくり探してみてください(笑)

いろいろ試していったのですが、社内でもコクヨさんとも「何かが違う」って話していて。じゃあなにが違うのってなった時に、異なるネーミングごとにバリエーションを作ってたんで、ネーミングに引っ張られたコンセプトでデザインしすぎちゃっていたことに気づいたんですよね。例えば「KAKU」というネーミングだから書いたり書かれたりみたいなところをイメージしたロゴデザインにしたりとか、「Synapse」だから繋がっていることをイメージして作ったり。名前が決まってない段階でそこに依存したロゴ作っても、ピンとこないんですよ。製品のもっとコアの部分となる本質がむしろ見えにくくなってたと思います。

ま:そこに気づけたのは良かったよね。ネーミングであえて最初は広くバラエティを出そうとしていたから、それに引っ張られてすぎてしまってたね。

ジ:そうですね。そこから、ネーミングとは関係なしに「この製品ってなんだろう?」と、もう一度振り出しに戻って考えてみたんですが、やっぱり一番の特徴は「質感の違う3種の紙と、それぞれに対応したペン」という新しい製品コンセプトだなと。

PERPANEPというネーミング

画像4

ま:残っていたネーミングの中で、ちょっと変わっているけど「PERPANEP」という名前が実はいいんじゃね?と盛り上がってきたのもこの辺でしたよね。まっすぐにPENとPAPERの組み合わせを体現していて、かつ良い意味で「変」な気になる名前だから。間違いなく商標はとれるくらいユニーク(笑) 自分としても普段はなるべくミニマルなネーミングをつけたがるタイプなので、このネーミングの提案と決断は、結構新鮮でした。パルプンテみたいだよね。

ジ:そうですね。みんな最初はペルパネプと覚えられなくてペルペナプとか呼んでたり(笑)その辺り、実はどっちでもいけたんですが、最終的にはコクヨチームと一緒に口にした時の気持ち良さで決めましたよね。でもちょっと言い間違えても何のことかわかるくらいアイコニックな名前というのも珍しいから、正しい判断だったのかなと思います。

ま:ロゴのタイポグラフィ自体はかなりシンプルな形になっているけれど?

ジ:これは元々この商品シリーズが価格帯的に中・高級ラインに相当するという話がある中で、高級感もありつつ手を伸ばしやすいものにするため選んでいます。あまりにもラグジュアリーな書体だと手が出しにくいし、あまりにポップだとチープに見えてしまう。なるべくフラットな印象を狙って、シンプルなロゴタイプにしました。

ま:ラグジュアリーにも取れるし、いい意味で色がないというか、気取りすぎていないクールさがあるよね。

ジ:はい。ロゴのタイポグラフィがシンプルなので、やはりロゴマークも必要だよねというお話しになり、そこから商品の特徴である紙とペンの相性というのをそのままロゴにできないか考え、まずは、さらさらとかザラザラっていうのをアイコン化してみることから始めました。

ジ:当初は、一つのノートに対して二つぐらい対応してるペンがある想定だったので、どのノートにどのペンが良いのか、それぞれが一目で分かるように、その組み合わせを合体させてビジュアル化するっていうのを、提案しました。頼まれてないのにアイコンを使ったグラフィック展開とかも考えたりもして(笑)

画像14

画像6

そこで「この方向で考えていったら良いんじゃない?」とまささんに言ってもらえた時は、やっと長いトンネルを抜けられた気がしました。そこから、ツルツル、さらさら、ザラザラ、それぞれどんなアイコンができるだろうと様々なバリエーションや展開を考えていきました。結果、それぞれの擬音が想起できるようなシンプルなデザインになっていきました。

ロゴマークのデザイン

画像14

ま:この考え方はいいね!となりつつ、そこからマスターとなるようなマークというか、コンセプトを統合できるアイコニックなロゴマークの造形を探していったんだよね。

ジ:はい。これらを一つにして、それぞれのノートがどのペンに合っているのかがロゴから分かるように、アウトラインで強調するような形になりました。パターンとしても使えるし。

3つのアイコンを一つにまとめたロゴにしつつ、ノートに印刷するときは、そのノートが該当する紙質のアイコンを「塗り」で、それ以外の紙質アイコン部分は「アウトライン」で表現するようにしました。こうすることで、全てのプロダクトで統一したロゴを使いつつ、ぱっと見わからない内容(髪質の違い)を表示するアイコンとしても機能したりできるものにすることができました。あとはロゴをリピートして繋げばグラフィカルなパターンとしても使えたりと、幅をもった使い方ができるロゴができたかなと。

最終調整と展開

画像8

ま:このグラフィックやアニメーションも、頼まれてないけど世界観を共有するために作ったんだよね。今見ても、このまま使っててもいいくらいカッコ良いね。

ジ:そうですね、ロゴやグラフィックのシステムを作った後は、一旦コクヨさんのデザイナーチームに全てのアセットをお渡しして、様々な制約を考慮しながらノートやペンや店頭のデザインなどに反映していっていただきました。

ま:僕らだと印刷コストのことや、店頭での置かれ方のことなど細かくは把握できていないから、そこからはコクヨさんのチームが一生懸命プロダクトやパッケージに落とし込んでいってくれたんでした。

画像14

ジ:はい、そうです。ただ、元々は水平に使うことを考えていたグラフィックだったものが、パッケージでは斜めに使われて帰ってきた時はびっくりしました(笑)

ま  なんで斜め!?と(笑)

ジ:マークは元々分かりやすくノートを横から見たイメージのパターンを想定していたんですけど、後々きいたら、斜めにした理由は色々あったみたいです。店頭で平置きした時に、ノートの違いをはっきり見せないといけないとか、パターンを大きく見せないといけないとか。なので、今度はそういった利用を念頭に、グラフィックの精緻化をしていきました。

ま:斜めで繋ぐ想定をしていなかったから、そこでちょっと調整が発生したんだよね。ちゃんとタイリングできるようにパターンを調整するのとかが案外大変だった記憶が。

ジ:はい。色々なパターンを作って、どの幅だったら1番収まりがいいのかとか、パターンなんであんまり隙間を詰めすぎるとうるさいし、色の相性も考えたりとか。その時点では、まだちゃんとした実物の製品を見られていなかったので、紙見本と見比べて、商品写真が上に載せられた時にどんな配色や密度なら視認性がいいのかなどを含めいろいろ試し続けてました。

ま:僕はその裏でコピー書いてましたね。「紙とペンの巧みな出会い」とかその時書いて提案したのものを、そのまま使ってもらえて。

画像9

ジ:あと、店頭の什器周りのデザインも提案しました。トレードショーのような場所ではそういった提案をベースにしていただけたので、早く店頭の実物がみてみたいですね。

画像13

画像10

ま:そこらは元々僕たちの業務スコープには入ってなかった気もするんだけど、ロゴとかをやっていると自然と提案したくなってしまった(笑)

100本ノックと山登り

ま:振り返ると、とにかく商標登録に結構振り回されたね。日本以外の国でも取得するとなると、その国の商標調査機関とかに発注しないといけないし、それがとにかく時間がかかる。そこの待機する時間も考慮して早め早めに動かないとどんどん作業が遅れて行ってしまうし、でも逆に今回のように見切り発車で進めても、商標取れませんでした!ってなると、そこで振り出しに戻ってしまうし、そういった進行管理上での判断が要注意だね。

ジ:でも今回に限ってかもしれないけど、その見切り発車で進んだからこそ、一回戻って「なんか違う」というところに気が付いたので、個人的にはコンセプトを持った新しいロゴ作ることができたなと思ってます。名前が既に決まっていたら、もしかしたらたどり着いてなかったかもしれないと思う。

ま:そうだね、1回迷走して戻ったからこそたどり着けたとも感じる。

ジ:あとは、制作期間がもうちょっとゆとりがあると良かったですね。デジタルとかグラフィックのみのロゴ制作であればそんなに短くはなかったんですけど、プロダクトなので、どうしても早めに必要になるから、毎週先走って作らざるを得なかったので...。

ま:プロダクトのロゴだと、当たり前だけど商品を発表・生産するときにはロゴが決まっていないと製造に入れないからね。そうなると、来年販売という話でも、来月にはロゴが必要になったり。

ジ:実際には、全部を1ヶ月ちょっとで作りきりましたね。

ま:そんな短かったかぁ。ただ、コクヨさんも凄くコラボレーションしやすいチームで、一緒に考えながら絞り込みも、見ていく方向も合わせられた気がしてます。役職や部門をまたいで、かなりフラットに意見を言い合えるような空気感で作れたから、それがとってもよかったですね。じゃないと絶対間に合わなかった。

ジ:僕の至らなさで結果100本ノックみたいになったわけですが、試行錯誤しながら作っていると、何が正解なのかわからなくなるんですよね。だから、自分の中の答え合わせという意味でも、たくさん出してはまささんに確認してもらって答えを探す という感じになってました。

ま:やっぱり「かわむらしね」って思われてるんじゃないかしら?

ジ:あとで資料を縦読みしてください(笑)

ま:まあ、100本ノックを強いていたつもりはないわけなのですが、ジャガーとは進め方の好みがお互い噛み合っちゃうんだよね。僕も経験則上、答えになりそうなアイデアが最初から三つぐらいかなって見えたとしても、100とか1000シミュレートした上で絞り込んでいく方が好きだから。自分の決断に自信はあるけど、常に他にもなんか見たことないソリューションがあるんじゃない?と思っちゃうし、それを探っていく中での発見も形にしていきたくなる。だからなるべくシラミ潰しで検証したくなるけど、それがそもそも好きな人かどうか、耐えられる人なのかどうか、そういう作業にモチベーションが保てるのかが大事だったりする。今回も、100個つくれ!なんてもちろん言ってないんだけど、ジャガー的にはやりたくて、僕的にもやってくれたら嬉しい、という思いが噛み合って自然とそういうプロセスになったのが嬉しいかな。だからつい検証が加速して100本ノックみたいな感じになってしまったと言い訳しておこう(笑) でも本当に僕的にはこのやり方はめちゃくちゃ助かりました。「自分の想像と違うけど、そこに何かある」「全体は違うけど、この一部にだけは何か光るものがある」「別の名前が来たら、これは跳ねる可能性がある」といった、見ないと生まれないディレクションとたくさん遭遇できた気がします。

ジ:まささんが「これいいかも」と言ってくれるのが嬉しいんですよね。僕も思ってるところが一緒だったりすると余計に。

ま:CDとしては、その感覚についてきてくれると嬉しいですね。

ジ:「あれ試してなかったな」「あの方向のほうがもしかしたら良かったかも」みたいに、やってない不安を持ちながら作るより、「答えじゃないかもだけど、とりあえずやったれ!」のほうが気持ちの面でも楽なんです。

ま:一旦全部出すほうがスッキリするよね。大変ではあるけど、やればやるほどその数や速度が経験と共に減らせたりスピードアップできたりする。直感的に幅を減らして、より早く解に辿り着けるようにもなる。多分ジャガーも、昔は100本どころじゃなくて1万本とか出してたんだと思う。常人の倍はやってきているはず。だから今回出してくれた100案のどれも間違いはなくて、一応の正解にはたどり着いている点が、それを表してる。

僕はよくクリエイティブプロセスを山登りに例えるんだけど、今回ジャガーが登った100以上の山々は、登山としてはどれもちゃんと山頂には辿りつけているんだよ。でも、その多くが、エベレストじゃなくて高尾山*だった。麓からだとその山の高さがわからないから、とりあえず全部登ってみる。高尾山が沢山ある中で、雲海に隠れて山頂が見えないなんか明らかに標高の高そうな山をがんばって見つけて、それを敢えて一緒に登っていくようなイメージで作業してました。その山頂が見えないエベレストかもしれない山を登りつつも、こっちの高尾山も商標のことがあるから一応残しておこうかとか、もっと高そうな山があるから下山してもう一回そっち登り直してみようか、みたいな。

さらにいうと、実際にジャガーが出していた案はどれも高尾山よりもうちょい標高高いかな。アパラチア山脈位はあったと思う。中でもPERPANEPは良い山を登れたと思う。あー、何の話かわからなくなってきた(笑) ジャガーから何か言い残すことはない?

ジ:アパラチアンジャガーからは、特にないです。

ま:アパラチア山脈にはジャガーは生息してないね。ピューマとかだな。

ジ:なんの話ですかw

ま:PERPANEPは実際に書いてみると、筆運びとか書き心地が本当に違うので、ぜひぜひみなさま試してみてください。何はともあれ、コクヨのチームの皆様、ワテバチームのみんな、お疲れ様でした!



*高尾山関係者のみなさま、気を悪くさせたらすみません...。高尾山は大好きで、何度も山頂まで登らせていただいてます🙇‍♂️








 




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?