見出し画像

神様の商売

1.ローカルビジネスの拠点

 神様のビジネス、神社のビジネスについて考えてみたい。
 そう考える前提は、グローバリズムの終焉にある。時代は対極から対極へと動く。グローバルの対極はローカル。ローカルのビジネス、ローカルなブランド、ローカルなサプライチェーン。ある意味で、地域の経済的自立であり、生活産業全体の地産地消でもある。
 ローカルブランドの構築には、ローカルな歴史、文化、風土等に根ざしたコンセプトやストーリーが必要だ。その中核の役割を神社に担っていただくことはできないか。
 勝手ながら「神社の新しいビジネスモデル」について考えてみたい。
 

2.J2B(神社toビジネス)の神社

 地域ビジネス、地域ブランドの拠点としての機能とはどのようなものか。
 まず、「J2B(神社toビジネス)の神社」という概念を提唱したい。通常の神社は、個人の参拝客を対象する「J2C(神社toコンシュマー)の神社」である。お参りするのも、御神籤やお守りを買うのも個人だ。
 仕事始めに会社単位で昇殿参拝したり、お祭りに会社単位で参加することもあるが、それらの活動は地域活動、文化活動等の広報宣伝活動であり、本業に関係するものではない。
 仕事に関係する団体は、商工会議所、協同組合や工業組合、商業組合等がある。しかし、地元の組合も、業務が地元に根ざしているとは限らない。大企業の下請け、海外メーカーへの素材や部品の供給、様々な分野の委託加工、海外製品の販売等、むしろ地元以外の地域や企業と強く結びついている企業の方が多いだろう。特に、グローバルビジネスが増えるにつれ、企業と地元とのつながりは希薄になっていった。
 これまでのビジネスは、大量生産大量販売、薄利多売、大衆向けの商品やサービスが中心だった。戦後間もない頃には、これらの戦略は効果を上げた。日本の人件費が低かったからだ。
 日本の人件費が上がるにつれ、海外生産が増加し、国内製造業は空洞化した。デフレスパイラルに陥り、給料は上がらず経済は停滞した。
 そうした状況下で、コロナ禍、戦争、経済制裁等により、グローバルビジネスは停止し、グローバルサプライチェーンは分断された。
 トレンドは対極に振れる。グローバルの次は、その対極であるローカルが注目されるだろう。地球を一つとみるグローバリズムではなく、地球は多様性に満ちており、それぞれが独自の経済生態系の中で生きている。地域単位で経済が自立すれば、余計な運送費や燃料費が掛からない。GDPは減少するかもしれないが、貧富の格差は縮小し、人々の幸福度は上がるだろう。
 ローカリズムが主流になる未来を想定すると、それぞれの地域の中核にあった総鎮守の神社が新たな機能を果たすのではないか。
 

3.神社を核としたクラウドファンディング

 クラウドファンディングは、新ブランド開発、新商品開発等に活用されることが多い。
 プロジェクトを提示し、出資(予約購入)を募るのだが、その際、重要になるのが、ブランドや商品の背景である。
 基本的に、クラウドファンディングではローカルなプロジェクトが多い。地場産業に根ざしたもの、伝統工芸的なもの、地域の歴史や文化をコンセプトにしたものなど。
 クラウドファンディングで重視されるのは、つながり、関係性である。見ず知らずの人が行っているプロジェクトより、知人友人のプロジェクトを優先するだろうし、出身校が同じだったり、同郷であれば親近感が増す。勿論、インターネットで販売するので、全国の人に販売するが、やはり、地元の顧客に支持されているプロジェクトは強い。
 例えば、デザイナーと工場が新製品を作るとする。そこに、神社の要素が加わればよりインパクトが上がるのではないか。プロジェクト成功祈願を神社で行う。その風景の写真は郷土を説明するのに有効だ。
 クラウドファンディング限定で神社とのコラボ商品を販売することも可能だ。無病息災、家内安全、交通安全、疫病平癒等の祈願文と神社の名前、神紋等が商品に入っていれば、それが魅力にもなり得る。勿論、商品を御祓いして、プロジェクトの主催者も参拝する。ブランドヤイヤリティのように、売上の一部を寄進する、という条件をつけてもいい。

4.新しい市(いち)の開発

 神社の境内では様々なイベントが行われる。例えば、ほうずき市、酉の市、羽子板市、だるま市、朝顔市等々。これを見ると、江戸時代には既に地域ビジネス、地域イベントに神社が密接に関係していたことが分かる。また、生活必需品ではなく、何らかの縁起物、飾り物が多いのも特徴の一つだ。
 毎日使う日用品は商人から購入すればいい。神社は氏子、産子(うぶこ)の商売の邪魔はしないというのが、互いの暗黙の了解だったのだろう。したがって、年に一回だけ売るものが市に適しているのだ。
 これは百貨店の催事イベントに共通している。逆に言えば、百貨店の催事イベントで扱っている商品は、神社の市になり得る。
 例えば、伝統工芸品の販売。伝統工芸の販売は、全国の百貨店を巡回して行われる。百貨店の催事が主な売上である業者も多い。
 神社も単独で市を開催するのも良いが、全国の神社が連携すれば、神社での販売だけで生活できるようになるだろう。そして、神社にとっても参拝客を増やせる。
 地元の行政機関や商工会議所と組んで、地場産業活性化の市を企画するのも良い。境内にテントを張って販売するようにして、テントと一緒に全国を巡回すればいい。地元の建築家等と組んでテントの開発をプロジェクト化するのはどうだろうか。
 

5.神社をブランドと考える

 地域ブランドとして神社をブランド化することも考えられる。
 例えば、神社の書体やシンボルのデザインを新たに設定する。元からある神社の書体をなくすという意味ではなく、新たな用途に使うデザインを開発するのだ。同時に、新たなキャッチコピーを考案してもいい。
 あるいは、神社オリジナルの文様をデザインする。これらをコンペ方式にして公募することも可能だろう。
 優秀作品は展示して、それをイベント化することもできる。
 これまで地域ブランドの核といえば「ユルキャラ」が有名だ。例えば、「クマモン」のように。しかし、かわいらしいキャラクターは、子供向け商品になりがちだし、キャラクター性が強いほど相性の悪い商品も出てくる。
 現在の神社で購入できるものは、お守り、御札、御神籤、破魔矢、干支の土鈴、根付、お土産の饅頭、お神酒等。
 これらは何年も商品開発が行われず、マンネリ化している。勿論、伝統を守ることは大切だが、そこに新しいものが加わってもいいし、限定販売のものがあってもいい。
 例えば、御札なら、企業向けにインテリアにマッチする大型で高級なイメージのものがあってもいい。
 お守りも同様だ。だれもが購入できるお守りも重要だが、高級なものがあってもいい。例えば、本金糸(化粧まわしに使われる金箔を和紙に漆で貼り付け、裁断し、糸にしたもの)を丹波ちりめんに刺繍したお守り袋を完全オーダーメイドで作るのはどうだろう。
 オーダーメイドならば、結婚指輪等もいい。結婚式を行う神社なら、神社名と結婚の日を刻印したオリジナルリングを開発する。
 干支にちなんだ手作り工芸品の作家を集めて、予約即売会を行うことができれば、新たな商品開発につながるだろう。
 これまで手つかずだっただけに、神社のイベント開発、ブランド開発、商品開発には可能性があふれているのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?