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日本の靴業界の未来戦略

海外展示会への出展は有効か

 多くの日本メーカーは、「自社の技術レベルは高い。しかし、自社は海外に知られていない。海外の展示会に出て、取引先に知ってもらえば仕事が来るのではないか」と考えています。
 海外の展示会に出展すれば、「素晴らしいですね」と褒められます。しかし、具体的な商談になると、「価格が合わない」、「納期が合わない」、「生産能力が足りない」と言われ、受注に至らないことが多いのです。
 それでも、補助金で出展しているので困ることはありません。海外の展示会に出展したことで、国内の商談に有利になればいいと思っている企業も多いでしょう。
 例えば、アパレルや靴の場合、体型や足型が日本人と欧米人では大きく異なります。タオル等では、製品サイズの規格が欧州も米国も日本とは異なります。
 気候風土も、人種も宗教も異なるのですから、売れるデザインやカラーも異なります。
 欧米ブランドのメーカーが日本市場に参入する場合、最低でも3年程度はリサーチを行います。そして、日本の商慣習、日本市場の規模や特性、業界の規模や競合他社の状況等を詳細に調べ上げます。その上で、可能性があれば、日本に現地法人を設立し、日本人をスカウトして社長にします。それで初めて、市場に参入できるのです。
 最初に見本市や展示会に出展し、それが契機となってビジネスが成功する事例はかなり珍しいと思います。なぜなら、輸入品を扱う日本の商社も専門店も世界中をリサーチしているし、売れそうだと思えば、広く知れ渡らないうちに、自分から先方のメーカーに交渉に行くからです。
 見本市や展示会に出展するということは、広く情報を公開することです。小売店のバイヤーにすれば、誰もがアクセスできる情報には価値がないと考えます。
 トランクに見本をつめて、社長が飛び込みで営業をかける方がはるかに効果的なのです。
 

中国製、イタリア製との差別化

 中国は世界の量産品の工場、イタリアは世界の高級品の工場です。日本市場も欧米市場もこの二つの世界の工場に支配されています。
 その中に日本メーカーが切り込んでいくには、中国とイタリアと差別化を図らなければなりません。
 この状況はアパレル業界と似ています。洋服も革靴もルーツは欧州であり、日本のメーカーは欧州の技術を導入し、欧州の製品に追いつこうと努力してきました。日本にとって欧州は先生です。
 また、中国メーカーには日本企業が技術指導を行ってきました。現在では、最新の機械が導入され、日本よりも若い社員が働いています。日本と遜色のない製品が日本より安く生産しています。
 アパレルを事例にすれば、大手百貨店アパレルは中国市場に進出したものの、ほぼ全てが撤退しました。欧州市場に向けては、欧州のメゾンを買収することで対応しようとしましたが、投資家以上の役割を果たしていません。
 欧州市場、中国市場の進出に成功したのは、世界的に通用するデザイナーズブランドとユニクロだけです。
 デザイナーズブランドは、日本文化を背景にした独自の世界観と圧倒的な個性によって、欧州とは異なるステイタスを表現しています。
 ユニクロの強みは、日本の繊維産業の強みを味方にしていることです。世界に通用する合繊メーカー、デニムメーカー、繊維機械メーカーの協力を得て、独自素材や独自技術を開発し、中国製品との差別化に成功しました。加えて、品質管理力、物流や店舗等の運営力により、中国メーカーの追随を許していません。
 靴業界にも同じことが言えるのではないでしょうか。差別化のポイントは、デザインと素材です。
 例えば、日本の合繊技術、整理加工技術を活かした新たな人造皮革と日本のタンナーの技術を組み合わせて、これまでにない素材を開発できれば、大きな差別化ポイントになります。
 あるいは、欧州にはない東洋の感性を活かした日本人デザイナーの靴も差別化になるでしょう。
 

靴デザイナーの育成が鍵

 海外市場進出もネット直販も、最終的にはイタリア製と中国製との競合に勝たなければなりません。
 既に、ヨーロッバ発のトレンド追随のモノ作りでは、中国に勝てません。中国メーカーは、定期的に欧州に出張し、展示会や市場をリサーチし,大量のサンプルを購入しています。
 人件費の高い日本製の商品が勝負できるのは、コピーではなく日本オリジナルの商品です。それには、靴デザイナーの存在が欠かせません。
 靴デザイナーの育成として、国際的な靴デザインコンテストを提案したいと思います。国際的なコンテストが難しければ、日本国内限定でも良いでしょう。
 コンテストで重要な要素には二つあります。第一は、ステイタスです。ステイタスは審査員で決まります。有名デザイナーが審査委員長になれば、コンテストのステイタスが上がります。そして、コンテストで入賞したことを履歴書に書くことができます。
 第二は、ビジネスにつながることです。日本国内にも多くのコンテストがありますが、実際にビジネスに直結するものは限られています。運営者側にとって、コンテストを開催するのは容易ですが、ビジネスにつなげることは難しいのです。
 そこで、ビジネスにつながるコンテストを考えてみましょう。例えば、コンテストの優勝者は、自分のコレクションを発表するための様々な支援が受けられるというのはどうでしょうか。専用WEBに掲載し、パンフレットを作成し、世界の靴に関するメディアやキーマンに送付する。
 コレクション制作は国内メーカーが協力します。そして、海外の展示会で作品を発表し、国内の百貨店等でポップアップショップを展開します。
 この一連のイベントにより、靴メーカーはデザイナーとの仕事を経験し、コレクションに協力したメーカーの名前は世界中に広がるでしょう。
 コレクション発表後、靴メーカーとブランドライセンス契約することができれば、双方にとってメリットが生じます。
 靴デザイナーを業界全体で育成し、有名にすることは、靴デザイナーという職業に夢を与えることになり、それが靴業界の発展につながります。

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