【感想】Apple TV+映画『テトリス』
HBOドラマ『THE LAST OF US』の大ヒットにより金脈原作の宝庫として俄然注目が集まるゲーム。
次はゲーム史に燦然と輝く金字塔であるテトリス(共産主義国家のソ連で誕生)が“現代資本主義のトップランナー”Appleの手により実写映画化…というのは半分冗談で、本作は「テトリスの開発・販売の舞台裏」を描いた1本。
この実話それ自体は初出ではなく、日本では白揚社からダン・アッカーマン著&小林啓倫訳の書籍『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』として2017年に出版されている。
自分も同年末に読んだ。
これがまぁめちゃくちゃ面白い!
共産主義国家のソ連と西側諸国の資本主義経済圏で権利を売買するというビジネスモデルへの理解度が大きく異なったことで、誰が何の権利を押さえているのか?もしくは誰も何も押さえていないのか?がカオスに。
ちなみに訳者あとがきで
と書かれていて、まさに本作がその映画。
さらにちなみに同書のエピローグには
ともあり、冒頭で僕が言ったテキトーな冗談もいつか冗談ではなくなるかもしれない(?)
そんな本作の主演は『キングスマン』でお馴染みタロン・エガートン。
前作はリミテッドシリーズのドラマ『ブラック・バード』とApple TV+オリジナル作品への出演が続いています。
フィルモグラフィー的には声優としての出演以外=実写作品での演技はApple TV+作品が続いているのかな?
物語の幕開けは1988年にラスベガスで開催されたCESから。
自分も2017年に会社の出張で行ったことがある。
とにかく大規模で膨大な製品が所狭しと展示されていた。
ただしゲーム機の展示は無くて出張中に新作ゲームで遊ぶことは叶わずw
ゲームの発表の場はとっくにCESからE3に移っていたわけだが、本作配信当日に今年の開催中止が発表されたのは何とも皮肉。
寂しい。
さて、本作は史実からの映画的改変が見事に効いた快作だった。
Apple TV+曰く本作のジャンルは「スリラー」
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』での三宅隆太監督による定義の説明。
本作の基本は史実通り契約締結をめぐる企業間バトルのサスペンス。
ラスベガスで見つけたゲームの日本販売権を買っただけのはずだった主人公があれよあれよと複雑な事態に巻き込まれていく様はまさしくスリラー。
ただ、実はあれでも登場人物をかなり絞って話をスリム化しているのだから「事実は小説より奇なり」であるw
書籍と比べると数人がカット。
エピソード単位でも、契約締結時になお火種として残っていたアタリ傘下のテンゲンと任天堂の法廷闘争なんかはほぼ省略。
個人的にはこのエピソードは映像で見たかったなぁ。
さらに崩壊間際のソ連を舞台にKGBが絡んでくるスパイ活劇のようなオリジナル要素を大胆に加えてエンタメ化。
この脚色が実に巧い!
前述の書籍ではあくまで憶測の域に留めているこの部分がああいう形で膨らむとは。
後半はこの脚色ががっつり効いてほぼスパイ映画に。
引力を子供に教えるシーンでの落下モチーフで不穏さを漂わせてからのドット絵を混ぜるカーチェイス、そして空港内での脱出サスペンスなど見せ方も良い。
ドアを何者かにノックされて一巻の終わりと思ったら塩を借りに来たお隣さんだったという緩急とかはズルいけどw
もちろん映画全体を貫く三つ巴契約締結バトルはそれだけでも十分に面白い。
ちょうど配信が始まったばかりの『サクセッション』ファイナルシーズン第1話のハラハラドキドキに通じるサスペンス。
テンポよく三者の交渉場面を行き来する編集も効いている。
『半沢直樹』や『下町ロケット』みたいなTBS日曜劇場とやってることは近いっちゃ近いかも。
演出のテイストは全然違うけどw
そこに崩壊が迫るソ連政府の思惑まで絡んでくるのだから面白くならないわけがない。
最後に、本作の大きな魅力は音楽。
名手ローン・バルフがこれ以上の適任はいないというレベルで最高の仕事。
あのBGMもきちんと流れるし、全体を通して劇伴もあのテイストに寄せてくれている。
電子音って映画で流れると不穏なんだよな…
デヴィッド・フィンチャー作品がよくやってるイメージ。
本作のスリラー作劇にもハマっている。
他にもプロレスファンにはお馴染みの『THE FINAL COUNTDOWN』や近年やたらアメリカ映画で聴く気がする『ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO』など。
テンション上がりますねw
あとは日本人目線だと任天堂もがっつり登場するのも楽しいし、山内溥の再現度は思わず笑ってしまった。
外見似せすぎだろw
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