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【感想】劇場映画『殺人鬼から逃げる夜』

こんなにもタイトル=あらすじとなっている映画も今どき珍しいんじゃないでしょうかw
原題の『Midnight』に対して(まぁ本当の原題は韓国語なわけですが)邦題が微妙だとの批判的意見も一部あるようですが潔くて僕は好きです。

韓国映画では1つのジャンルとして定着しているクライムスリラー。
僕は『愛の不時着』も『梨泰院クラス』も見ておらず韓国ドラマには非常に疎いのですが、韓国映画はクライムスリラーとゾンビは好きで見てきたという感じ。
邦画ではあまり見ないというか「韓国スリラーのあの感じ!」みたいな空気があるように思う。
上手く説明できないけど。

日本だと吉岡里帆主演でリメイクされた『見えない目撃者』が有名かな?

これは前述の「韓国スリラーのあの感じ」が見事に損なわれず、むしろ本家より面白いのでは?ぐらい面白かった。
現在はAmazonプライムやNetflixなど配信サービスで見られます。

そんな『見えない目撃者』が事故で視力を失った主人公が殺人鬼と対決するストーリーだったのに対して、本作は耳が聴こえず普段は手話を使っている主人公が殺人鬼に追われる。
ジャンル的にも設定的にも本作を見て『見えない目撃者』を連想する人は多いのではないだろうか?

・耳が聴こえないから殺人鬼がどこから迫ってくるか把握できない。
・手話しか喋れないから周囲の人に自身の危機を伝えることが出来ない。
本作の肝はほぼ全てここである。
ストーリーもタイトル通り「殺人鬼から逃げる」だけ。

1. 耳が聴こえない中ギリギリで殺人鬼に気付く。
2. 走って逃げる。
3. 助けを求めるが伝わらない。

基本この繰り返しw
なので演出の手腕が問われるわけだが、そこは本作で長編デビューとなったクォン・オスンが冴え渡っている。
・殺人鬼の顔を先に観客にだけ見せる
・無音にすることで主人公の状況を追体験
・一度スカして安心させてからの殺人鬼ドーン!的な展開
・走る!走る!走る!ダイナミックな撮影
・殺人鬼の話術にあっさり騙される人々にイライラ
スリラーの基本に忠実にハラハラドキドキさせる緩急を丁寧に積み重ねている。
宣伝文句の「全く新しい」については正直「いや、むしろ先人たちが築き上げてきた基本に忠実なんじゃないかな?」と思うのですが、だからこそちゃんと面白い。
と同時に自分が同じ状況になったら恐らく殺人鬼の説明にあっさり騙されて「あぁお兄さんなんですか。手話わからなくて…それじゃ僕はこれで失礼しますね」となっているだろうなとゾッとした。

まぁ「いくらなんでも街に人がいなさすぎる」とか「なんで警察は主人公母娘を保護しないのか」とかツッコミどころが無いわけではない。
というか結構あるw
ただ、見てる最中はノンストップで観客に冷静に考える隙を与えない作りになっているので自分はあまり気にならなかった。
逆にこの辺りで引っかかってしまうと本作にはあまりハマれないかも。

本作と同じく「耳が聴こえない」をテーマにした映画といえばこれ。
(ジャンルは全然スリラーではないけど)

これはもう大傑作。
アカデミー賞でも音響賞と編集賞を獲ってましたね。

Amazonプライムで配信されていたけど遂に10/1(金)から劇場でも公開されるとのこと。
ツイートにも書いたけど(世界最高峰レベルの作品と長編デビュー作を比べてしまうのは酷だとは思いつつ)聴力の無いことを追体験させるスリラーとしてはもっと劇伴を省いて『サウンド・オブ・メタル』ぐらい攻めても面白かったと思うんだよな。
そこはちょっと不満点というか惜しかった。

邦画では『ちはやふる ー結びー』も静寂演出が効いてたなー

これは難聴や失聴を扱った作品ではないですけども。

あと登場人物は少ないけれど俳優の演技もみんな良かった。
殺人鬼を演じてるウィ・ハジュンはNetflixで大ヒット中のドラマ『イカゲーム』で警察官のジュノ役というメインキャストの1人らしい。

正義感に溢れた人のイメージ全く湧かないけどなw
このドラマ自体も好評みたいだし見てみようかな。

主演のチン・ギジュも冒頭でクレーム対応してるのを見て「この女優むちゃくちゃ可愛いな!」と思ったらサムスン社員→記者→モデル→女優という異色も異色の経歴だった。

すげぇなw

『殺人鬼から逃げる夜』は全国劇場で順次公開中。

あ、ちょうど現在公開中の𠮷田恵輔監督『空白』を事前に見ておくと車が往来する道路を逃走するシーンの緊迫感が一段増しますw

ヒントはトラック。

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