Masahiro Ito

CITY LIGHTS LAW(東京弁護士会)Attorney at Law

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最近の記事

ツボ【9】開発委託契約における特許権等の帰属

ソフトウェア開発委託契約で,しばしば論点となる知財に関する条項といえば,著作権の帰属ですが,ここでは特許権等(著作権を除く知的財産権)の扱いについて考えてみます。 著作権はユーザに移転することが多い多くの開発委託契約では,納入物に関する著作権は,納入又は代金の完済とともに原則としてベンダからユーザに移転するということが定められています。 (納入物の著作権) 第45条 納入物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。以下同じ。)は、乙又は第三者が従前から保有

    • ツボ【8】モデル契約におけるセキュリティ条項

      2020年12月,モデル契約第2版公表ソフトウェア開発のモデル契約書として広く知られた「経産省モデル契約」は,2007年に「第1版」がリリースされました。その後,IPA(独立行政法人情報処理推進機構)のもとで,2019年12月に民法改正対応版がリリースされました。さらにその後,民法改正と直接関わりのない論点についての検討を経て2020年12月に「第2版」がリリースされました。 私は,モデル取引・契約書見直し検討部会(いわゆる親会)のもとに設置された「民法改正対応モデル契約見

      • ツボ【7】民法648条の2とシステム開発取引

        「648条の2」の新設2020年4月に施行された改正民法では,委任契約の報酬請求権に関する規定として,648条の2が追加されました。 (成果等に対する報酬) 第六百四十八条の二 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。 従来は報酬請求に関する規定としては,以下の規定のみで,委任事務を履行した後で請求できるとし(648条2項本文),期間によって報酬

        • ツボ【6】アジャイル開発版「情報システム・モデル取引・契約書」

          前回のnoteが2019/4だったので,丸っと1年ぶりになってしまいました。この間に,経産省・IPAからモデル契約の改正民法対応のワーキンググループWGのお仕事もさせていただきましたが,今回紹介するのは,もう1つのWGである「DX対応モデル契約見直し検討WG」の成果物であるアジャイル開発版「情報システム・モデル取引・契約書」です。 WGがもっとも伝えたかったことは,「正しく使ってほしい」ということ2020年3月31日に,IPA(情報処理推進機構)が,DXに対応した情報システ

        ツボ【9】開発委託契約における特許権等の帰属

          ツボ【5】債権法改正とシステム開発契約(JISAモデル契約を例に)

          今回は,かなりリーガルに寄せたテーマを取り扱います。 モデル契約改訂の動き周知のとおり,改正民法(債権法部分)が施行されるまで1年を切りました(施行は2020年4月1日から)。システム開発ベンダは,自社の雛形を改正法に対応させるために改訂作業を行っている時期かと思われますし,いくつかの改正法対策本でも,システム開発契約について触れられています。 もっとも,2007年4月にリリースされた,いわゆる経産省モデル契約書は,現在までのところ,改正民法に対応した改訂は行われていませ

          ツボ【5】債権法改正とシステム開発契約(JISAモデル契約を例に)

          ツボ【4】モンスター顧客によって遅延が免責されるか

          4回目のテーマは,ユーザの担当者によるパワハラ的言辞がある場合について。 よくいる業者いじめのおじさんシステム開発取引は,専門家(ベンダ)vs素人(ユーザ)だから専門家は重い責任があるのだという話がある一方で,発注者(ユーザ)vs受注者(ベンダ)という関係から,しばしばユーザからベンダに対して無理難題を押し付けてくるケースがみられます。 私も,昔,開発現場にいたころ,クライアントの管理職に,気に入らないことがあると灰皿やペンを投げる人がいて,なかなか苦労をしました。さすが

          ツボ【4】モンスター顧客によって遅延が免責されるか

          ツボ【3】WBSに検収を定めているか

          3つめのテーマは「検収」です。1回では終わりそうもないです。 検収は法律上の定義があるわけではない法務関連の仕事をしている人には常識といえますが,「検収」という用語は,実務の現場では誰でも知っている重要単語であるものの,請負契約,準委任契約に関する法律の条文にはどこにも登場しません。たまたま手元にあった情報システムハンドブックという冊子(2011年版)には, 納入品が要求仕様に合っているかの検査のこと。システム開発においては,顧客企業がシステムインテグレータから納品された

          ツボ【3】WBSに検収を定めているか

          ツボ【2】多段階契約の意味を互いに理解する

          2回目のテーマは多段階契約です。 多段階契約の評判は悪い?システム開発取引の特徴の一つに,1つのシステムを完成させるまでの間にいくつも契約を締結するという「多段階契約」があります。もともと,ソフトウェアの開発がウォーターフォール式で進められていたことから,その工程(フェーズ)ごとに契約も分けて段階的に締結していこうという発想から来ていると考えられます。 しかし,この多段階契約はユーザからの評判が良くないことについては,あちこちで言われています。その理由はいろいろありますが

          ツボ【2】多段階契約の意味を互いに理解する

          ツボ【1】請負・準委任は「勝ち取る」ものではない

          最初のテーマは,請負・準委任です。システム開発の契約交渉や紛争処理では,請負・準委任論争が必ずといっていいほどテーマに上がります。 準委任原理主義ベンダからの話を聞いていると,「準委任だから責任は生じないですよね」「請負じゃないんだし」といった「準委任だから大丈夫」ということを前提にしているケースが非常に多いと感じます。法務担当よりは,むしろ営業や現場のPMにそういう傾向があります。ユーザの中にも「準委任だから責任を問えないですね」と,この考えに染まってる人が相当数います。

          ツボ【1】請負・準委任は「勝ち取る」ものではない

          システム開発法務のツボ・はじめます

          弁護士の伊藤雅浩です。 新しい日記帳を買った気分で私は,すでに個人的に2つのブログを書いているのですが,年々,更新頻度が減ってきました。忙しいというのも理由ですが,前も今以上に忙しかったことを思うと,それは理由になりません。書きたいことはツイッター @redipsjp で随時書いているからなのかもしれませんが,やっぱりまとまって書くことは自分にとっても有意義です。 そこで,気まぐれに「またやろう」と思ったのですが,気分を変えるために,新しい日記帳を買うかの如く,あたらしい

          システム開発法務のツボ・はじめます

          個人情報・パーソナルデータに関する話題(1)個人情報のキソ

          最近,パーソナルデータ,個人情報に関する話題が多い。 法律雑誌の権威であるジュリストの3月号は「ビッグデータの利活用に向けた法的課題」という特集で,宇賀克也先生,森亮二先生,新保史生先生,鈴木正朝先生ら,この分野の一線級の豪華な論客が各テーマについて解説しており,この種の問題を取り扱う人にとっては必読であるといえる。 また,2月24日には「第1回プライバシーフリーク・カフェ」という対談イベントがニコ生で放映された(このネーミングに至る経緯等についてはここでは触れない。)。

          個人情報・パーソナルデータに関する話題(1)個人情報のキソ

          法科大学院に入学したときのこと

          note初投稿のテスト。 私はちょうど10年前の2004年4月に一橋大学法科大学院に入学しました。法科大学院制度が発足した一期生です。 今の法科大学院制度に対する評価は残念なことになっていますが,当時は,幅広い層から法曹を集め,7,8割が司法試験に合格する,と理想が語られ,まんまと私もそれに乗りました。法科大学院に入るための共通適性試験の受験者は4万人を超え,私が受験した一橋大学法科大学院・未修コースも定員30名のところに確か700人くらいが出願していました。(法曹養成と

          法科大学院に入学したときのこと