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ツボ【1】請負・準委任は「勝ち取る」ものではない

最初のテーマは,請負・準委任です。システム開発の契約交渉や紛争処理では,請負・準委任論争が必ずといっていいほどテーマに上がります。

準委任原理主義

ベンダからの話を聞いていると,「準委任だから責任は生じないですよね」「請負じゃないんだし」といった「準委任だから大丈夫」ということを前提にしているケースが非常に多いと感じます。法務担当よりは,むしろ営業や現場のPMにそういう傾向があります。ユーザの中にも「準委任だから責任を問えないですね」と,この考えに染まってる人が相当数います。
私はこれを「準委任原理主義」と呼んでます。他にもユーザからベンダが,

と言われたりするようです。ベンダには,「準委任にして責任を軽くしよう」という傾向が強いように思います。

準委任だと責任は軽いのか

こうした論理は裁判所で通用するのでしょうか。紛争の場面では,典型的には,

準委任契約なのだから,仮に不備があろうとも報酬は請求できる
(不備の主張は失当である)
準委任契約なのだから,作業確認完了後に不備を問えない
(報酬は返さない)

などということが論点になります。

裁判例からみても,私の実感からしても,問題はそんなに単純ではありません。確かに請負契約か,準委任契約か,という区別を裁判官が一切考慮しないとまでは言いませんが,契約の性質が決まれば,後は自動的に結論が出ることにはなりません。

例えば,システム開発紛争で有名なスルガ銀行vs日本IBM事件では,多数の個別契約が締結されていて,作業を終えた契約の代金相当額についても損害だと認定されていますが,そこに請負だ,準委任だという区別が責任の有無や損害の範囲に影響を与えた形跡はありません。

システム開発に関わる請負契約における「仕事の完成」基準については多数の裁判例がありますが,一点の曇りもない成果物を収めることではなく,多くは「予定された工程を終えたか」を基準に判断しています(東京地判平14.4.22,東京高判平26.1.15,東京地判平28.6.17ー控訴審東京高判平30.3.28もこれを踏襲)。これは予定した作業を終えれば終わる,という準委任契約の考え方に近いともいえないでしょうか?

逆に準委任契約においても,仕事の品質が劣悪だったという場合には,善管注意義務違反であるという評価がなされる例もあります(東京地判平22.9.21)。

このように,両者の区別は相対化というか,近接しているように思います。むしろ逆に,請負契約であれば納品対象を明記していることが多いので,仕事の完成を主張立証しやすいですが,準委任契約で,仕事のスコープが定められておらず,何をもって役務提供をしたのかが主張しづらいケースもあります。

請負契約・準委任契約のどちらを選ぶか

裁判所は,請負・準委任の区別を決定的なものとは考えていないからといって,契約交渉の場で両者の区別を協議したり契約書に記載することが無意味だと言っているわけではありません。何を目的とした契約なのか,ということの認識合わせをする上では,請負・準委任という共通言語を出発点とすることには意味があるでしょう。

そのうえで,どちらを選択すべきかについては,その契約における終了条件をどうするのか,その終了条件の成就には誰のどんな作業が必須なのか,といったところがキーになるでしょう。この点は,拙著・ITビジネスの契約実務・31頁以下でも詳しく述べています。

ベースを請負・準委任のどちらにするかを決めた上で,成果物を納入するのか,互いの作業分担・守備範囲をどうするのか,契約の終了条件・報酬請求権の発生条件をどうするのかということを個別に決めることにこそ意味があります。

したがって,請負・準委任は,対象としている仕事の目的や性質から決まるべきものであって「勝ち取る」ものではないのです。ですから,冒頭で示したベンダのコメントに対しては,これらが全て間違っているというわけではないですが,

だということが言えるでしょう。

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