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新入社員研修のあり方について考える
はじめに
私はこれまでに通算6回の新入社員研修講師をしてきました。
1社研修を3回。数社合同研修を3回です。
これらの経験を通して考えたこと。
そもそも新入社員研修とはどういう形が理想的なのかということを考えて書いていきたいと思います。
1.私がやってきた新入社員研修の概要
私が実施してきた研修はすべてIT関連企業向けです。
大まかなカリキュラム下記の1~3のような構成。
社会人研修
技術研修
チーム開発演習
期間は短いもので1.5か月。長いもので3ヶ月です。
対象はもちろん新入社員です。
受講者数は多いもので60人程度。少ないもので20人程度。
上記1~3について簡単に内容を説明します。
社会人研修
マナー研修や、プレゼンテーション、ドキュメンテーションなどなど。
社会人として即必要になる事項について研修を行います。
技術研修
私は主にC言語というプログラミング言語を教えています。
もちろんその他にも、知っていることならば講師を担当いたします。
チーム開発演習
ITの開発現場というのは、ほとんどの場合はチームで1つのシステムを作り上げます。
技術研修で学習したことをチームで実行するには、どのような違いがあり、どういった点に注意すべきかなどを演習を通して学習します。
2.大切なこと
ITの新入社員研修だと、どうしても技術研修に重きを置く傾向があります。
当然その部分に大幅に時間をかけていきます。
IT技術というものは一朝一夕で獲得できるものではありません。
ですから、ここに時間をかけるのは仕方がないわけですね。
ただし、技術研修の成否はその前段階の「社会人研修」に大きく影響されます。
社会人研修で教えることは、社会に出て即必要となる対人スキルが中心です。表面的に「こうすればいい」「ああすればいい」と教えることは簡単です。少し教える練習をすれば、誰にだって講師ができてしまう内容です。教える側の人は社会人ですからね。
しかし、内容が簡単だからこそ、講師によって差が付くのです。
そして、その後の長期間に及ぶ「技術研修」や「チーム開発演習」にも大きな影響を及ぼし、結果的に研修全体の成否に関わってくるのです。
一番最初に実施する「社会人研修」において教えることは、確かに表面的な事ではあります。しかし、この時点で新入社員たちのマインドを学生から社会人に変えていかなければなりません。
これが、とても大切なことなのです。
ここでマインド変化を実現できなければ、技術研修もチーム開発演習も学生気分の延長のまま過ぎ去ってしまいます。
3.どうすればいいか
学生→社会人へのマインド変化を実現する。
言葉で言うのは簡単ですが、結構な難題です。
講師としてどうすればいいのでしょうか。
まずは講師自身が社会人として一人前であることを見せなければなりません。当然と言えば当然。
講師自身が態度、言葉遣い、考え方などについて、きちんとできていることが当たり前なのです。
これができていれば、講師としての権威が発生します。
受講者は学生の延長です。
明確な社会人像を持っているわけではありませんよね。
だから、一番最初に接する社会人=講師こそ「This is 社会人」でなければならないのです。
一般的に、これらのことをまとめてプレゼンスといいます。
プレゼンスを日本語に直訳すると「存在意義」や「存在感」です。
ただの「存在感」ではなく、「きちんとした社会人」としての存在感を作り上げなければなりません。
先ほど権威などと大仰な言葉を使いましたが、そういうことなのです。
それができて初めて、受講者は講師を講師として認識するわけです。
人は「何を言ったか」より「誰が言ったか」に影響されます。
「ただの講師」が言ったことよりも「きちんとした社会人」というプレゼンスを持った講師が言ったことの方が、圧倒的に指示されるのです。
まずはプレゼンスを確立できるようにしましょう。
2.目的と目標を持たせる
研修の目的や目標はテキストなどに書いてあります。
しかし、大切なのは書いてあることではないのです。
受講生に最初に持たせるのは、10年後の自分の在り方です。
10年後に自分はどのような立場で、どのような仕事をし、どのような役職で、どんな風にふるまっているのか。そして収入は?家庭は?
などなど、できるだけ具体的に項目を列挙して、それぞれについて詳細にイメージさせます。
将来像が描けたら次にやるべきことは、現状の把握です。
先ほど挙げた各項目について、現状はどうなのかをまとめさせます。
10年後と今。
当然すべての項目において相当な乖離があるはずです。
その乖離が問題点なのです。
分かりやすい例で考えてみましょう。
10年後の年収が1,000万を想定しているとします。
新入社員の年収は高くてもせいぜい400万程度。
その差は600万もあるわけですね。
つまり600万円分の問題が存在するわけです。
これを問題と認識することが第一ステップ。
次に問題を解消するためには、何が足りないのかを考えさせます。
とはいっても相手は新入社員ですから、想像できる範囲も深さも不足しているのは確実です。でもそれでいいのです。
問題を問題とはっきりと認識すること。
そして、問題を解決するためには、たくさんの副次的な問題が横たわっていることを明確に頭の中に描くことが必要なのです。
これらのことをやっていけば、次にはどうやって解決すればいいかを考えらるようになります。副次的な問題への解決方法を具体的に考えていくのです。
そこまでできたら次はそれぞれの問題に期限を設定します。
それが課題です。
問題と課題をない交ぜにしている人が多いですよね。
明確に異なります。
課題が設定出来たら、一つ一つの課題に中間的なチェックポイントをもうけさせます。いわゆるマイルストーンです。
このマイルストーンが目標となります。
目標にも期限を付けます。
そして数値的な達成指標も設けます。
ある課題の解決に5年かかるとするならば、少なくとも1年ごとにマイルストーンを設置して、その1年ごとの目標値も設定させます。
これで目的と目標が設定できました。
え?目的は?
目的は、最初に設定した「10年後の自分を実現するため」です。
それを実現するために、それぞれの課題があり、目標があるのです。
ここまでを研修の頭でやっておくことで「10年後の自分を実現するため」に研修を受講するという目的意識が芽生えます。
これをやらない講師の多いこと。嘆かわしいです。
3.反復する
私たち人間は忘れやすい動物です。
先ほど設定した目的や目標は、日々の忙しさの中で忘却の彼方へ行ってしまいます。たった1~3ヶ月の研修の間にも忘れ去られてしまうのです。
だから講師は毎日のように「研修の目的」を受講者に思い出させる必要があるのです。そして目標に向かって日々前進していることを、一つ一つの目標に関して確認をさせなければなりません。
毎日反復している内に、本当の自分の目的・目標として腹落ちしていくようになります。一度設定しただけで放置するとそれは画餅です。
反復してこそ、本当に実現したいことに変わっていくと言えばいいでしょうか。
そんなアホな!と思うかもしれませんが、現実はそうなのです。
そして反復して目標への達成度を確認していくと、遅れが発生したり、うまくいかないことがあったりします。
それらについて振り返り、どうすればいいかを考え直し、次の行動へと反映していきます。PDCAサイクル的なものですね。
この反復も講師が日々指導していくのです。
朝一番や一日の終わりに、確認し、振り返り、反省し、次のアクションを考える時間を積極的に設けるように受講者を導いていくのです。
これができる講師とできない講師とでは、研修全体の効果が段違いになっていきます。
4.位置づけの確認
研修が長期に及ぶ場合、途中で学習内容がガラッと変わることがあります。
私が実施してきた研修の場合ですと、社会人研修から技術研修に入る時ですね。
そのタイミングでもきちんと目的・目標を意識させるようにします。
これから技術研修に入るが、もう一度あなたが設定した目的や目標を思い出してください。今日から学ぶ内容は目的・目標を達成するためにどのような位置づけになりますか?
自分なりにきちんと設定しておきましょう。
というような具合です。
IT業界では、技術さえあれば仕事には困らないという考え方ももちろんあります。それを否定はしません。しかしそれは「圧倒的な」あるいは「特殊な」技術があって初めて成立します。
IT業界と言えども、圧倒的な技術力は不要で、特殊な技術も不要な仕事が大半を占めるのです。
つまり、普通のことを普通にできる人ほど仕事にあぶれる可能性が低く、そういった人たちが会社の屋台骨を支えていくのです。
ですから、一番最初に学ぶ社会人研修の内容は、いつまで経っても大切なことに変わりはないし、できて当たり前のことばかりなのです。
しかし多くのIT技術者は年を経るごとに技術偏向になっていく傾向があります。
挨拶ができなかったり、メール一つ書けなかったり。
それではだめなのです。
技術を身に付けることはもちろん必要です。
確かにそれが圧倒的で、特殊であれば強力な武器になります。
しかし、それだけでは隅っこに追いやられ「使いにくい人」「頼みにくい人」に落ちていきます。
そうならないためにも、研修の中で日々確認をするのです。
自分の目的や目標のために、今日の研修はどういった位置づけなのかを。
これを最後までやり続けることによって、長期の研修も必ず成功裏に終わらせることができます。
新入社員研修の講師の方々は、これらのことを念頭に置いて来年の研修に臨んでほしいものです。
いただいたサポートは、おじさんの活動費としてとんでもなく有用に使われる予定です。