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うちに猫がいる

うちには猫がいる。
数年前、バイト先の軒下で具合が悪そうにしていたので連れて帰った。
お礼に竜宮城に案内されたり、反物織ってくれたりはしないが、おかげで毎日が確実に楽しくなった。きっと私のQOLは上昇しているに違いない。

出会った時、猫は猫のくせに圧倒的に手触りが悪かった。
おい、大丈夫か?肉球もカッチカチやぞ?
どこかおかしいのは間違いなかった。
まず、病院に行った。
検査の結果、お腹の中にマンソンなんたら条虫という変な虫がいた。
どうやらカエルを食されていたようである。
「この寄生虫はかなりグロいのでネットで見たりしない方がいいですよ」
先生はニヤリとしながら仰った。
…先生それ、あれでしょ、ダチョウ倶楽部の。押すな、押すなのやつ。…フリですよね?
ご存じないかと思いますが、私の趣味は悪趣味です!もちろん、ググりました~。一反もめんみたいでした~。
そのマンソンなんたら条虫は、成虫になると数メートルにもなってお腹を突き破って出てくるらしい。恐ろしや…!
そういうわけで、お尻に体温計、背中に虫下しの注射をブスッとやられ、べそべそとイジける猫と一緒に帰宅。

こうして猫との生活が始まった。
私は、どんな生物ともベタベタした付き合いは一切ごめんだと思っていた。猫に対しても、ちゃんと間合いとれよ、というスタンスでいくつもりだった。
しかしだ。
実際一緒に暮らしてみると、猫はいい。
まず、いちいちかわいい。案外どんくさいのもいい。即効で鼻の下が数ミリ伸びるのを感じた。
自分以外の温もりと柔らかいものが側にある。
これもなかなかいい。
だが、相手はやはり猫。
基本ツンデレである。
そして、うちにいる猫はどうもツンの要素が濃いめのようだ。そうなると、もっとデレよこせ!となる。まさに、恋なんていわばエゴとエゴのシーソーゲームである。

すでに純烈におひねりとばすおばちゃんの心理状態な私。胃袋をがっちり掴んでやろうという、わかりやすい作戦にでた。おやつ献上である。
おかげでおやつを欲する時は、気持ち多めにデレてくれるようになった。ファンサービスを怠らないあたり、抜け目ない。

猫踏んじゃった、という話はよく聞くが、うちにいる猫はしょっちゅう私の足を踏んでくる。やられる前にやるということか。油断ならない。
また、イカ耳で何かちょっと警戒している時の顔が、オードリーの若林そっくりである。私はこの表情がものすごく好きだ。若林フェイスと呼んでいる。
さらに自分で余裕で開けられる扉を、開けてくれとせがむ。あぁーんと鳴き、小首を傾げて待っている。女子アナレベルの破壊力だ。
…なんだよ、田中みな実かよ。かわええな…。
モテ本でも出せよ、買うわ。
…思うツボである。

いなすつもりがいなされて、なんとか上手くやっている1人と1匹。
猫は初めからブレる事なく、抱っこNGである。これに関しては少々欲求不満である。あまりに毅然とした態度なので、もしかしたら全然懐いてないのでは?という疑念を抱いたくらいだ。募る悶々。昼ドラくらいの薄い愛憎劇である。
だが、長く時間を共にすると、わかってくることもある。
こいつはそういうやつなんだ、と。懐いてないわけではないのだ。うちにいる猫はこういう猫なのだ。
時には相手のペースに合わせる、ままを受け入れる。そんなごく当たり前で、でもとても大切なことを猫に教えられる四十路女。
生涯学習である。

最後までちゃんと看取った動物は、あの世の入り口で飼い主を待ってくれているという。
うちにいる猫は私のことを待っていてくれるだろうか。
また会えるだろうか。
うん。それよりあれだな。
私の方が、入り口あたりで似たような柄の奴がうじゃうじゃいて、こいつのことわからなくなりそう。
顔の右側に変なかたちのシミがあるのがうちにいる猫だ。
共に時間を過ごせる今のうちにしっかり覚えておくとしよう。~fin~

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