つなぎなおすことと、資本主義市場を活用する世界
初日にどうしてこんなに寒い日が当たってしまうの!?という程の冷え込みの中、約半年ぶりに竹を切り、機械で粉状にして袋づめして乳酸菌発酵させる、竹パウダー(商品名:淡竹パウダー)づくり、今シーズンも始まりました。超単純作業、ひたすら作業です。
この淡竹パウダーは土壌改良材です。今春本格製造・販売を開始し、僕ら生産者を含め使ってくれた皆さんからも、「おいしい野菜やお米が育った」「元気に丈夫にに育った」「収穫時期が各段に長くなった」などの嬉しい言葉をいただけています。
地域のものを使っておいしい農産物ができる。この地域内循環が、暮らしの安心の土台を支えてくれると思っています。だからこそ、「ストーリーで売る」ことはしたくないと思っていて(もしかしたら違う商品ではやるかもだけど)、ただの淡竹パウダーとして、水道から水が出るのが当たり前のような、普通の存在として地域で循環してほしいなと思っています。
「つなぎなおす」ということ
この竹林を複業にするプロジェクトであるmillplotを実践することや、ローカル複業を立ち上げることを目的とした「ローカル複業化ラボ」をはじめたことで、ここ数年取り組んでいるローカル複業化は「つなぎなおす」ことをしているのかもしれない、と思えてきたので、今日はそれを言葉にしてみたいと思います。
「つなぎなおす」とは、経済合理性(≒資本主義)のせいで切れてしまったものを、つなぎなおすという意味だったりもします。「世の中の何か切れているの?」と疑問を持つ方もいると思いますが、確かに平時は切れているように感じませんが、例えば、震災の時とか、災害の時とか「スーパーに食べ物がない」状態に遭遇して、僕は「あ、切れてる」と思いました。普段は非常に便利だけど、何かが起こると非常に脆い土台の上に生きているんだと実感したのを覚えています。
言い方を変えると、最低限の暮らしを「現金で買う」状態から、地域のつながりの中でできる限り自分たちで作り守る状態を取り戻すこと、ともいえるかもしれません。外注していたものを、少し自給化するという風にも言えると思いますし、自らの生きるチカラを育むとも言い換えることができると思います。
例えば僕らの扱っている竹。
今では「竹害」と言われてしまうほど、放置竹林で困っている人が多くいます。また、その繁殖力の強さが災いして、山の生態系が破壊され、山の保水力の低下や土砂崩れの原因になったりしてしまっています。
この竹害の原因は、人間の手で生産された竹です。昔は、様々な資材として使われていましたが、高度経済成長期、安価なプラスチック製品などによって代替され、使われなくなってしまいました。その結果が今の「竹害」であり、「切れた」結果です。
それを、僕らはつなぎなおして、地域に循環させる活動をしています。今はまだ土壌改良材のみでしか活用しきれていませんが、竹は様々なものに加工ができるので、つなぎなおしが広がっていく可能性を秘めています。
あと、ちょっと話はそれますが、昨日久々の作業でしたが、僕らは「複業」でやっているので、プレッシャーがかかった状態で作業しているわけではありません。もくもくと作業しながら、時折会話をする時間が、なんとも心安らぎます。こうやってつなぎなおした場は、人の心もつなぎなおしてくれることを実感しています。
佐久に生まれ始めている様々なつなぎなおし
さて、話は変わりますが、ここ最近佐久地域には面白い場がたくさん生まれてきています。類は友を呼ぶというから、ただ単に呼び合っているだけかもしれませんが、この「つなぎなおす」ということが根底にあるような気がします。
少し紹介してみます。
◆KARIUDO GUILD
わな猟をリモートで行う食肉自給のオンラインコミュニティです。現在絶賛立ち上げ中で、プロジェクト発起人の町田さんがまず猟師になり、つい最近わな猟を開始しました。
獣害。なぜ起きてしまったかと言ったら、里山を活用する人が減った結果、森が荒れ餌が減り、かつ人がいないので警戒することなく里山に降り、さらには畑のある場所、人里まで降りてきて餌を得るようになったためです。
これも、切れた結果です。町田さんのプロジェクトがつなぎなおしていってくれると思っています。また、原材料が高騰しているので、畜産業が非常にやられている現状を考えれば、食肉を地域で自給できるという面でもとても魅力あるプロジェクトだと思います。
◆リバースウッド
捨てられるはずだった原木を薪に変えるプロジェクトです。こちらはウェブデザイナーの小田さんが複業で始めたプロジェクトです。これ、林業関係事業者がやればいいじゃん、と単純に思うと思うのですが、以下noteでも書かれていますが、一筋縄ではいかない現状があります。林業は経済合理性の影響をもろに受けた業界でもあります。経済合理性を追求せざるをえないからこそ手がつかない材を、複業のチカラを使って「つなぐ」チャレンジをしています。円安の影響もあり、エネルギーが高騰している昨今、こちらのプロジェクトもとても楽しみです。
◆co-shoku 稀~mare~
こちらは、食をコワーキングにしてしまおうという発想で、家族を超えて食べることを共有しようという活動です。なんと2040年には「一人暮らし世帯」が全体の40%になるそうです。一気に増えるのは高齢化の影響ですが、核家族化→夫婦のみ世帯の増加→高齢化という流れだと思いますし、そもそもこうなったのは、高度経済成長期に若い労働力が都市に流れたためだったり、巨大資本が市場を席巻したため「転勤」が増えたためでもあります。こうやって物的に豊かになったのも確かですが、地域のつながりが切れてしまったのもまた事実。特にこれからのローカルでは、この食を通じてのつなぎなおしは大切になっていくと思います。
◆子育てサポートこだま
こちらは、地域全体で子育てを支えられる輪を創ることを目的にしたコミュニティです。原因は先に紹介した稀に似ていて、核家族化や地域コミュニティの希薄化などの影響で、一人で子育てに悩む親が増えてしまったこと。子育てがしやすい環境をつくることはとても大切だから、このつなぎなおしに期待しています。
◆喫茶あるいは / TELT
「喫茶あるいは」は、昨年佐久に移住してきた佐々木さんのプロジェクトです。佐久市野沢商店街の物件を購入し、仲間とリノベ。徐々に形を整えながら、使えるようになってきたスペースを使いつつ、場を創っています。
また、「TELT」はお隣の中込商店街にあります。須田さんの活動で、中込商店街の物件をワークスペースとして再生しました。
野沢商店街も中込商店街も、地方ではどこでも見かけるような、残念ながら空き店舗の目立つ商店街です。これも、経済合理性を追求した結果切れてしまったものです。でも、こうやって佐々木さんや須田さんが風穴を開けたことで、ここには火が灯りました。仲間と共に、つなぎなおしがスタートするはずです。
◆みらいのボーロプロジェクト&awai
佐久市平賀で地産地消のカフェを経営するMarucafeさんのプロジェクトです。みらいのボーロは地域の景観を未来につないでいくプロジェクトです。地域の景観は誰が守っているのか?といったら、地域に根差した人たちであり、地域で農業や林業を営む人たちです。こちらも切れてしまったせいで担い手が不足していて、景観が維持できなくなってきています。また、そろそろ完成する一棟貸の宿「awai」はいろいろと構想はあると思いますが、コロナの時期に一時マイクロツーリズムという言葉を聞くようになりましたが、地域内の人たちが地域を知るきっかけにawaiはなっていくと思います。(今は人の移動が回復してきているので、外から呼ぶ宿にもなると思う)これも経済合理性の追求で切れてしまった地域のつながりをつなぎなおすプロジェクトになっていくと思います。
◆ぷらっとふぁーむ構想
これは、来年動き出すプロジェクトです。東京と佐久で2拠点生活をしながら、農業複業化プロジェクトにも参加してくれている坂本さんの構想です。所有することが一般的になってしまったがため「コモンズ」のような概念は切れてしまいました。また、見た目がきれいで安全な、そして安い農産物を追求した結果、農家と消費者の関係性は切れてしまった。これを農業複業者がつなぎなおす活動です。農食は生きる土台なので、地域で、いや地域を超えてつなぎなおしていく事は、生きることにとって安心を与えてくれます。
佐久地域で動き始めている「つなぎなおし」のほんの一例ですが、こうやってみると、いろんなものが経済合理性を追求するあまり「切れて」しまっていると思います。これをつなぎなおすことは、外注していた暮らしを、自分たちの手に取り戻すことになります。暮らしが自分たちのものになっているからこそ、何があっても安心の暮らしが作れると思っています。
「つなぎなおしは先人もやっているよ」と言われる人もいると思いますが、僕もそう思います。でも、同じ活動だとしても、いくつもコミュニティはあったほうがいいとも思っています。まず、コミュニティを立ち上げて運営するくらい自分ゴトな人が増えたほうがいいし、コミュニティによって場の雰囲気が違うので、合う合わないもあるから、参加する人のことを考えたら、たくさん同じ趣旨のコミュニティはあったほうが良いと思うからです。一つに統合するよりは、緩く連携し合ってやっていったほうが、継続性という意味でも良いはずです。
また、どうしてつなぎなおす必要があるの?と思われる人もいると思います。僕もつなぎなおすことにふと疑問を持つことは正直あります、「現金稼いだ方がいいんじゃない?」と。でも、やはり、これから先のことを考えると、つなぎなおして、暮らしの土台は少しでもいいから自給したほうがよいし、そういう仲間と沢山つながっておくことが大切だと思っています。物的にもそうだし、精神的にも大切だと思います。
背景にあるもの
そう思う理由を、少し挙げてみます。
先日NHKスペシャルで放送されていた番組の記事です。
世界フードショック。食の安全が今揺らいでいます。
原因の一つはロシアのウクライナ進行。ロシアが食料を武器化したり、投機マネーの流入で価格が高騰したりして、世界全体の食料安全保障が揺らいでいます。また、日本単体で考えると不安がさらに広がります。日本は資源を他国に依存していて、食料自体もそうですし、農産物や家畜の肥料や餌もしかり、その安定的な調達の先行きが怪しいようなのです。それは、上述したような価格の高騰であったり、各国が食料危機不安から食料の輸出を制限であったり、中国資本が南米などの生産地に投資してその見返りに中国が食料を買い取ると言ったように、日本が買い負けてしまっている現状もあります。
また、こんな記事もありました。経済の事は、正確に先が読めている人はいないと思っているので、鵜吞みにせず参考にするくらいで読んでいますが、もしこれ起きたら資源を海外に依存している日本は相当やばいですよね・・・
そんなことないと思うと思われるでしょうし、僕もないと思いたいです。
でも、リーマンショックの事を誰が予想していたでしょうか(予想していて稼いだ人もいると思うけど)。僕自身、相当胃が痛い思いをして、資本主義に振り回される暮しはしたくないと思い始めた瞬間でした。
でも、外貨は稼がなきゃならない
ただ、これだけ(地域内でのつなぎなおし)では片手落ちだというのは重々わかっています。つなぎなおす活動は、一見脱資本主義のように見えると思いますが、僕は脱資本主義に共感できない部分もあるからです。
先ほどの世界食糧危機に通ずるところもありますが、例えば日本の食料自給率。「その時何人養える?/篠原信」によれば、化石燃料が十分に使える状態で9,000万人、もし化石燃料が使えなくなったら3,000万人(江戸時代がこれくらい)を養うのが精いっぱいだそうです。そもそも100%自給できないし、化石燃料が大前提になっているわけです。
ということは、化石燃料はじめ資源が乏しい日本は世界と仲良くやっていくしかありません。そして、ここ最近、事実値上げラッシュが続いてますし、先ほども紹介しましたが、円が弱くなると相対的に海外からの資源が高くなるわけですから、僕たちの暮らしを脅かすことになるわけです。そうならないためにも「外貨を稼ぐ(ここでいう外貨は世界から稼ぐ外貨という意味)」ことが必要、つまり、今の資本主義社会の中で稼がなければならないということです。
地域のつなぎなおしで暮らしの土台をつくることはとても大切ですが、地域で外貨を稼ぐこともとても大切ということです。これはすでに佐久地域でも様々な企業がやっていてくれていることです。そして、仲間の話をすると、柳澤拓道さんが最近こんな活動をし始めています。
まだこれからスタートですが、こうやって積極的に外貨を稼ごうとするモノづくりは大切だし、やっぱり資本主義社会で売れるということは目立つので、記事にも書いてありますが、若い人たちの希望にもなるはずです。
ただ、リスクを非常に伴うし、スピード命だったり、競争が非常に激しかったりする世界でもあります。ですので、失敗した時や疲れてしまった時に帰る場所があるというのは非常に安心感につながる。その帰る場所が、今、ローカル複業化でやっている「つなぎなおし」でもあるのです。ここにいればとりあえず生きていけるよね、という場所です。
「つなぎなおし」の結果ローカル経済圏が成立すると思うので、僕はできたら資本主義市場には行かずに暮らしたいと思っています。できることなら神経すり減らす世界じゃなくて、自分の素の状態でいられる世界で暮らしたいからです。ですが、、、極端に言えば日本が弱くなってガソリン買えなくなったら、根柢が覆るので、やっぱり両輪を意識することが大切だと思います。
つなぎなおして、資本主義を活用する世界をつくる
「つなぎなおす」ことを言葉にしようと思ったら、少しそれて外貨を稼ぐことにも触れてしまいましたが、これは、バランスをとるということです。つまり、「つなぎなおす」はただ単に昔の暮らしに戻るということではなく、安心して暮らせる土台に必要なものはつなぎなおす(もちろん手放すべきものもでてくる)ことで地域を再形成する事。豊かに暮らすためのインフラを創ることであり、知人が使ってた言葉を借りると「インフラのバックアップ」を創ること。
でも、これだけ人口が増えてグローバル化してしまったからこそ、それだけでは足りないから、外貨も稼ぐ。でも、今みたいにまるで社会が市場の中にあるように生きるのではなく、その外に豊かに生きるためのインフラを創って普段はそこに住み、外貨を稼ぐために市場を活用するというイメージです。
この両輪を創ることが、未来につないでいける地域を創ることになると僕は思っていますし、今後も模索していきたいと思います。一人じゃ到底できないので、仲間と共に造っていきたいと思います。
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