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[第10節_富山vs東京] ‐多才かつ多彩。東京を下した”ハイブリッド富山”-[20/12/2]

富山は東京に勝ったことがない。
Bリーグが始まり、アルバルクとグラウジーズが初めて対戦した2016-17シーズンの第20節以降の8試合で全てに負けている。

しかし、年々この2チームの差は年々縮まってきており、その理由は強豪であり続ける東京ではなく、成長を続ける富山にある。

昔からブースターをしている人ならばよく知っていると思うが、Bリーグ初年度の富山はシーズン前半、ダントツの最下位だった。

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(↑これは少し勝ち始めた頃)

しかし後半盛り返し、18位から15位に浮上して残留プレーオフ組の中で一番乗りで残留を決めると翌年以降も年々勝率は右肩上がり。(中断になった2019-20シーズンを除けば)
そして今シーズンではついに東の4強と肩を並べた。

そんな状況で迎えたこの対戦カード。
結果は富山が100点ゲームで東京を下すというとんでもない事態となった。
東京に初勝利したこともさることながら、東京が100点ゲームで負ける試合は中々見られない。
それもそのはず。Bリーグが始まって以降、なんと東京が100点ゲームで負けた試合は2019年10月19日の京都戦の一回のみ。しかもスコアは93-100の7点差であり、あくまでハイスコアな接戦の末の負けである。

しかし今回の負けは104-85。
途中最大24点リードという、逆に富山が東京に過去3回やられてきた大敗の類である。

これでこの試合結果が如何にとんでもないかがお分かりいただけたかと思う。

では、ここまで強豪アルバルクを追い詰めたこの試合の”ハイブリット富山”を解説していく。

全クオーターで22点以上をあげた七色に変化するオフェンス


そもそも富山は各々の強力な1on1がある。
例えば前節川崎戦の第1戦。この試合では単発なシュートや個人の1on1に偏ったかなり内容の悪いオフェンスだった。

しかし、不思議と気づけば78点取っていた。
富山の選手たちはタフショットでもある程度決めてしまうのだ。

相手が対策をしてプレーを読み、タフショットに追い込んだとしても最後に個人能力の差でシュートをねじ込んでしまう。川崎戦でも、広島戦でも、横浜戦でも、昨シーズンまでであれば前半20点リードされていたであろう内容でも不思議と10点差程度にしかならなかった。
ディフェンスの決して悪くない川崎が富山のオフェンスを対策通りに読んだ上でも10分当たり20点近く取られてしまうのだ。

たとえ工夫なく単発な1on1を繰り返してもある程度点の取れてしまう富山の個人能力。
これに浜口炎HCのデザインする数々のセットオフェンスを加えると、その極悪さはさらに増していく。
(シュートが外れて然るべきナイスDFの上から決める富山へ敬意を持って”極悪”と呼ばせていただく)

何度も読んで先回りし、タフショットを打たせ、それでも何本か決められた後にようやく外れ始める富山の1on1が、このセットオフェンスにより、絞ることすら叶わなくなるのである。
そんな富山のオフェンスは実に”多才かつ多彩”。3P、ドライブ、アリウープなど強力な数々の1on1が状況に応じて華やかに形を変えるのである。

それらのオフェンスをいくつかピックアップして解説していく。
(ここから先のプレー名称は筆者が勝手に名付けたものが続くのでご注意を)

・橋本のカット&シール

今回、東京にとって最初の想定外だったオフェンスはこれだろう。
3番ポジションで橋本選手がコートインした第1クオーター。
(通称立山連峰ローテーション)
田中選手とサイズのミスマッチになった橋本選手は他の選手が1on1をしている時、オフボールでカットをしてゴール下でシールをする。

サイズのミスマッチというと、多くはポストアップをしてボールを要求し、ゆっくりとバックダウンしていくパターンが多いが、それだと周囲の相手にヘルプの時間を与えてしまう。
相手に絞らせないために1on1が警戒されるマブンガ選手や他のプレイヤーにボールを持たせ、ゴール下のシールが完了した瞬間に速やかに橋本選手の1on1へと移行するこのオフェンスならば対応されないというわけだ。

・ソロモンピック&ロール

この試合で何度も決まっていたのがこのパターンだ。
(以降”ソロモンピック&ロール”と名前をつけて呼ぶことにする)

なぜ、こんな派手で警戒されるであろうプレーがこんなに決まるのか疑問に思う人も多いのではないだろうか?

それはソロモンがダンクする時は当然DFは高さの勝負をすることになるわけだが、その前の高い位置でのスクリーンからロールしてリングへ走っていく場面では足の速さの勝負となる。
彼はジャンプ力だけでなく、インサイドとしては足も速い方なのだ。

つまり、スクリーンの後のロールの場面では足の速さの勝負で、その後のロブパスの場面では高さの勝負でソロモン選手に対抗できる身体能力がなければ理論上、100%決まるのである。

また、これはジャンプ力さえあればできるというものではなく、ロール(スリップ)のタイミングの正しさやその後のロブパスの空間認識能力があるからこそできるプレーだ。
このプレーはソロモン自身、海外のリーグ在籍時にもよく決めていたことから、このプレーの経験値が高い。そのためミスが少なく、マブンガ・松脇・岡田・宇都からそれぞれ微妙に弾道の異なるパスをいずれもダンクフィニッシュしているのである。

そして、これが決まると富山のオフェンスのバリエーションはどんどん広がっていくことになる。

・ソロモンへのアップスクリーン

富山はさきほど挙げた”橋本選手のカット&シール”と”ソロモンピック&ロール”が成功すると、今度はその2つを組み合わせたこんな極悪セットを展開する。

今度は橋本にザック選手をつけて対応したつもりだったが、富山はその先を行く。
①橋本のシールを警戒し、カットを先回りしたことで今度はソロモンのアップスクリーンへの対応が遅れることとなる。
②高い位置でソロモンのロールダイブをケアできなかったザックはソロモンのアリウープを警戒してやむなく橋本をフリーにする。(ショウ)
③それによって橋本選手のスリーがフリーになるがザックも譲らずチェックに行く。
④しかし橋本はポンフェイクに切り替えて重心の浮いたザック選手を抜き、3線に待ち構えるトーマスの手前のレンジでストップ。
⑤それでも左後方から追いかけてくるザックに対しては遠い方の右手のワンハンドショットでブロックをさせない。

3回に及んでザック選手を先手で正しく処理をした橋本選手は2点を決めた。

これまで目立った活躍を見せていなかった橋本選手にここまでやられるのは東京も想定外だっただろう。

さらにこの橋本選手の役割を前田選手がやれば、また違った形のフィニッシュとなる。ここではディープスリーでのフィニッシュとなった。

こうなるともう止められない。
(パサーもマブンガなのでマブンガのマークがここのヘルプへ関与できないのもよく考えられている)

・マブンガ&水戸の鉄板ハンドオフ

これは水戸選手が主役となって1on1をする彼の鉄板セットプレーだ。
左手ならば何でも決めてしまう水戸選手がゴールへアタックするスペースを空け、彼へはマブンガ選手がボールを手渡す。
マブンガ選手が警戒されるからこそ、彼についているトーマス選手はヘルプへ行けない。
仮に水戸選手のマークがマブンガのスクリーンに掛からなかったとしても、ここのスピードではほとんどの人間が水戸選手に敵わない。

そうなるとこのヘルプはカーク選手のポジションになるわけだが、それもこのセットプレーの計算通り。ここでカーク選手がブロックに跳んでしまえばゴール下のスミス選手のオフェンスリバウンドのケアは日本人選手がするしか無い。
カークはブロックにおびき出され、トーマスは外のマブンガをマークしているからだ。
このセットプレーも本当によく考えられている。

・(おまけ)スミスの居残り速攻

『出たージョシュア・スミスの居残り速攻ー!』
『これバスケ部の監督に怒られるやつっすねー』

井口解説ならば必ずこんな感じで騒いでたであろうスミス選手の居残り速攻も久々に出た。セットプレーではないが、これもちゃっかりたまに決めるスミス選手のプレーだ。
が、これはスミス選手のただのサボりではなく、彼の計算の上でのプレーだと私は考えている。
これについてはまた別の記事で触れたいと思う。


他にも先日の広島戦のツイートで紹介した”ホーンズセット”や”スペインピックアンドロール”、”京都式2-3ゾーンアタック”など、ここで紹介しきれないものが数多く存在する。
当然、スミス・マブンガ・ソロモンのポストアップや宇都・岡田のドライブ、前田・松脇・橋本のスリーなど単独でも強力なオプションが存在する。
これにより、1つ2つのタイムアウトでは対策しきれないほど多くの形からショットが生まれていく。

これがDFの硬い東京が毎クオーター22点以上取られた理由である。

6分30秒間2失点に抑えた3つのディフェンス

しかし、そうは言っても失点を止めなければ勝つことはできない。
富山は2Qの残り2分55秒までで44得点と100点ペースで加点していたが、同様にDFでも47失点していた。

しかし、その後の約6分30秒間、25-2のビッグランで試合を決めた。

これはどういうことか?
富山はそれまで一貫して高精度で得点してきた東京のピック&ロールにある3つのDFを仕掛けた。これを解説していく。

・チェイス&トリプルスイッチ

これまではカーク選手のスクリーンを使った安藤選手(ここでは津山選手)を、ソロモンと宇都の2人で対応しようとしてきたがどうしても安藤のリカバーが間に合わない。

そこで富山が行ったのが、チェイス&トリプルスイッチである。

①スクリーンを使う津山選手を背後から追いかけ、宇都は3Pシュートだけをケア。
②スリーより一歩踏み込んだエリアはソロモンがカークへのバウンズパスをケアできる範囲内で津山選手をケア。
(この瞬間に宇都は津山を放棄し、先を見据えてコーナーへ)
③さらにペイントエリアに津山選手が入るとコーナーの須田選手のマークについていた前田選手がケアし、ソロモンはカークへ戻る。
④それによって空いてしまうコーナーの須田選手へは津山選手を早々に放棄した宇都が素早くリカバー。

2対2のピック&ロールの処理に3人目を絡めたローテーションで、多くの失点だった東京のガードのシュートを阻止。東京にミスが出始めた。
これが1つ目の東京のブレーキの理由だ。
(ここではさらにその後のカークへのロブパスに対しても4人目のマブンガが対応している)

44-47までは交互に点を入れあっていたが、これによって富山が7-0のランで流れを引きつける。(バレーボールでいうブレイクだ)
ここで東京がタイムアウトを取った。

・ゾーンプレス

2Q、残り57秒の場面。
東京のタイムアウト明けで富山のフリースローからのスタート。
前田選手が2ショットを決めた後、富山はこれまで三河戦や広島戦でも決めた相手のタイムアウト空けのゾーンプレス(おそらく2-2-1)をここでも仕掛け、見事東京相手にも成功させた。

ここではこのターンオーバーのダメージについて説明していく。
残り57秒でタイムアウトを取った東京はおそらくこんな打ち合わせをしていたはずだ。

残り57秒なら、うちのオフェンスはあと2回。富山は1回。
前田の2ショットが決まっても6点差なので残りのポゼッションを成功させれば1ゴール差になる。1ゴール差で、うちの流れで前半を終えよう。
そのための残り2回のセットオフェンスと1回のディフェンスはこうだ。

しかし、運びの段階でミスが出てしまえばこの計算が一気に狂う。

東京の攻撃権はわずか8秒で富山に移り、残り49秒で富山ボールとなると今度は富山のオフェンスが2回、東京は1回という計算になる。(しかも富山はフロントコートからスタート)
流れにノる富山のタイムアウト明けでデザインされたオフェンスを2回止めなければならず、さらに1回のオフェンスを決めたとして2ゴール差までしか詰められないのである。
富山は逆にこれらの3ポゼッションを”3得点・0失点・2得点”と完璧な内容で消化し、東京の2点差で終えるシナリオを逆に11点差に押し広げた。

東京にとって、このゾーンプレス成功のダメージがいかに大きかったかがわかる。

どうしても点差を詰めたいこの状況だからこそ、タイムアウト中はフロントコートに入った先のオフェンスに頭がいく。
その前のボール運びのDFに変化があることまでは考えが行き届きにくく、とてもそこまで打ち合わせられないからこそ、富山のこの仕掛けは効果的なのである。

・相手選手によって3種類以上の対応を使い分けるハイブリッドDF

11点差になっても富山のピック&ロール対策は続く。
今度は相手選手によって3種類以上のスクリーン対応を使い分けるハイブリットDFを展開する。

①菊池の場合はフローターやストップミドルシュート等、ミッドレンジのシュートが無いのでトリプルスイッチはせずに、コーナーの松脇が一瞬出る素振りを見せて戻る”ジャブ”のみ行う。
②スリーが当たっていない(打つ姿勢もあまり見られない)田中選手はアンダーで対応。
③いずれも警戒すべき安藤選手はブリッツで選択肢を他に移させる。ボールを止めたら足のある宇都選手がすぐに竹内へスイッチ。

このハイブリッドな富山の対応により、東京は3回ピック&ロールを行ったにも関わらず大きなズレができない。

結果ショットクロック残り7秒でできた状況は、竹内選手が宇都選手とアウトサイドで正対した状態からの1on1というあまり条件の良くないオプションとなる。
良いシュートで終われなければ、相手に速やかにオフェンスに移られてしまう。これにより、富山のオフェンスはどんどん加速することとなる。

・(おまけ)マチョワキの謎フィジカル

↑ナイスDFだと思ったが前科があるからか、早々にファールでプレーを止められてしまう松脇選手。

↑前科

他にも2Q序盤には2-3ゾーンも仕掛けていた。が、あっさり攻略されてしまったのでこれに関しては今回解説はしない。

続く厳しい日程を前に敢えて課題を上げるならば

富山の良さが全面に出たこんな試合だからこそ、盲目的にならない為にもこの試合での修正すべき点をピックアップしたい。

・実はミスの多かったマブンガ

爆発力と引き換えに不安定さを抱えるマブンガ選手はここでもその短所が出てしまう。
3Qでは5本中4本のフリースローをミスすると4Qには3本のターンオーバーをしてしまった。
(どうも彼は一人突出したパフォーマンスをしなければ手持ち無沙汰を感じ、プレーの集中力が切れる傾向がある。)
3Q終盤に最大24点差を19点差に詰められ、トドメをさせなかったこと。
4Qには一時16点差にされ、グラブーがヒヤリとする展開になったのは彼のミスが大きい。

・終盤には宇都にもミスが出始める

不安定なマブンガのミスをアシストやディフェンスで見事にフォローしてきた宇都選手は3Qまでほぼ完璧な内容だった。
(FG5/6、アシスト6、スチール3、ファールドローン4、TO3)

しかし、徐々に欲が出始め、レイアップとインサイドのダンクばかりを狙う大味なプレーに偏ってしまう。
4Qでは3本のショットミスとTOを1つ記録してしまった。

しかし、ヒーローインタビューでは
「TOがなければもっと開いたと思う。」
と語っており、本人もよくわかっているようなのでここは安心していいのだろう。

・こんなときに必要なプレーは

2人の気質を踏まえ、こういう時には終盤に前田が決めたスクリーンからのレイアップのようなプレーを周囲がメイクしていく必要がある。
派手なプレーばかりに偏ってしまったときにはいち早く気づき、こうして効果的な正しいプレーを挟めるようになればより富山は盤石になれるだろう。



逆を言えばこのポイントを突き、富山を沈黙させる以外に富山の負ける姿が想像できない。北海道も、渋谷も、川崎も、今季富山に勝ったチームはいずれもこの点をしっかりと抑え、本来の富山を沈黙させたチームだ。

今のBリーグでノッた富山に対抗できるチームはいないのではないか?
殴り合いを制することはできないのではないか?
そんなふうに思う。

豪華なメンバーとそれをしっかりと活かす浜口HCが率いる、今の強く華やかな富山グラウジーズをリアルタイムで見れている私達はとても恵まれているのかもしれない。
いつまでもこれが見れると思わず、残りの「50試合」を大事に観ていきたいと思う。


最後に皆様へ

・今後の記事
頻度はわかりませんが今後は解説記事を有料にしていく予定です。
これまでは私のツイートや記事を見てくださる方は多くなかったため、試合によっては解説を発信しなかったりと不定期にやっていました。

しかし、最近ではありがたいことに記事のビュー数やtwitterのフォロワー数が徐々に増え、中にはnoteのサポートシステム(投げ銭)でお金をくださる方や、「有料でも読みたい」と言ってくださる方もいました。

なので今後はなるべく毎試合、解説記事をあげていきたいと思います。

・今回の記事
今後毎試合いい記事を上げるためにもこの2週間に色々と準備をしていました。
そして今節から有料記事に挑戦しようと考えていました。
しかし、少なくとも接戦になるだろうという私の予想に反し、東京に初勝利のみならず、100点ゲームとなり、富山の歴代ベストゲームとなってしまいました。
用意していた統計データで今回の試合には不要となってしまったものもありましたがそれでも解説に熱が入り、文字数は過去最多の7500字の記事となりました。

だから、有料にできませんでした。

有料記事にすれば当然、無料記事より読む人は減ります。
しかし、富山が弱かったBリーグの初年度から富山ブースターをしている私は、このめでたい試合の記事では収益を追えませんでした。

なので有料箇所は一番最後に設けました。
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