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[第29節_富山vs横浜] ‐ ゾーンはどのようにして崩れるのか? -[21/3/27.28]

2016-17シーズンの中盤。
富山は8勝31敗でリーグ最下位だった。
しかしそこから自分達の長短を踏まえ、各々の短所を各々の長所で補うバスケットを作り上げた。
その結果、最後の21試合では宇都宮・川崎・渋谷ら強豪チームから勝ち星を挙げて10勝11敗と成長を見せた。

これ以降の富山は、
"下位チームだけれど上位チームとも対等に戦える"
そんなチームだった。

そこから4年の月日が経った今。
富山は東地区4位にいる。

そして、今節富山が対戦した横浜はこの頃の富山のようだった。

3人の外国籍インサイドに加え、帰化選手を擁するロスターを最大限生かす2-3ゾーンとそれに慣れさせないために併用する1-3-1ゾーン。
日本人選手が外国籍インサイドと協力して点を取るP&Rとパッシングゲーム。
相手の力を引き出さない為のスカウティング。

マブンガ選手や滋賀のハミルトン選手のような、単独で点を荒稼ぎできるユーティリティープレイヤーがいるわけではない。
そんな中、長短を併せ持つ選手たちが協力し合い、上位チームと対等に渡り合う姿はかつての富山のよう。

しかし、見違えたのは横浜だけではない。

第29節。富山対横浜の試合は87-72、96-90で富山が2連勝した。
富山もまた、当時の富山を下したかつての千葉や東京さながらの強さで勝負を決めた。

今回の記事ではそんな富山と横浜の熱い戦いについて試合レビューをした後、良い機会なので2-3ゾーンが崩れる仕組みについても解説していきたいと思う。


【試合レビュー①】GAME1

名称未設定-2_アートボード 1

15 1Q 8
26 2Q 27
26 3Q 20
20 4Q 17
富山  87 F 72  横浜


1Q お互いに不本意な展開

序盤は横浜のスカウティングが功を奏する。

横浜は富山のセットオフェンスを先読みし、富山が狙うシュートへことごとく先回りする。

恐らく横浜は富山のスカウティングをかなり熱心に行っている。
(前回の対戦では富山の "京都式2-3ゾーンアタック" を読み、GAME2ではマブンガ&水戸の "鉄板ハンドオフ" を先読みして防ぐなど、明らかに知っていなければできない対応を見せていた。)

他にもなるべく富山の各選手の一番得意なプレー以外へ誘導する割り切ったディフェンスを見せる。

前田に3Pライン上でボールを持たせないようにアキ・チェンバース選手がディナイを行い、前田の一番得意な3Pシュートを潰しに掛かる。

スミスのポスト、マブンガと宇都のドライブへは当然ダブルチームを行い、その後のキックアウトはシューターへ優先してローテーションを行う。

しかし、富山も対応力を見せる。

前田が自ら2Pエリアへカッティングしてそのままレイアップ、もしくは引き付けてスミスへアシストを決めるなどアキのDFをスマートに処理。

が、横浜は対応が早い。

富山がリズムを掴む前にすぐさま2-3ゾーンを行い、結果として富山はこのQで15点と調子が上がらない。

しかし、富山も宇都選手を筆頭にエントリーからDFでプレッシャーを掛ける。
オフェンダーが多く自分の仕事が限定されているからこそ、今の宇都はこうしてスコアへ直接関係しない部分まで詰めることができる。
これによって横浜同様に富山は堅守で8失点に抑える。

15失点に抑えたが、それ以上に点が取れなかった横浜。
8失点に抑えたが、持ち前の得点力を抑えられた富山。

お互いに良しとはできない内容で1Qを終了し、15-8で第2Qへ。


2Q 富山のゾーンアタックvs横浜のビッグピック

富山は横浜のゾーンから上手くスミスの1on1を作り、得点ペースが加速する。
富山は1Q15点だった得点を2Qでは26点まで伸ばす。

しかし、横浜はまたも素晴らしいスカウティングを見せる。
滋賀戦でマブンガ&スミスのペアがディフェンスに苦労していたビッグピック(※)を行い始めたのだ。

これによって横浜も得点が止まらない。
27得点を記録し、点差はほぼ変わらず41-35で後半へ。

MEMO
※ビッグピック(big pick)
ビッグマン同士(4番・5番)のピック&ロールのこと。
ファイトオーバーが不慣れな4番のDFをスクリーンに引っ掛け、比較的クイックネスのある4番の選手と5番のDFをアウトサイドで勝負させられる利点がある。


3Q 2分弱でスリー3/3

ここからは両者が点を重ね3点差~8点差の間で点差が推移する。
アウダ選手がスリーを決めた直後に前田選手が決め返すなど一進一退。

しかし、この均衡を岡田選手が破った。

残り3分34秒。
横浜のゾーンを崩せず時間が無くなり、マブンガとのP&Rを選択。
カーター選手からチェックを受けながらも3Pを沈めて57-48とした。

さらに残り2分34秒ではマブンガのファーストブレイクから左ウイングでパスを受け取りまたも3Pシュート成功で60-48。

さらに残り1分57秒。
横浜は1-3-1ゾーン。マブンガが2Qのようにミドルレンジでポストアップをする。横浜は1人になったペイント内をスミスに狙われると警戒し、これにはウイングが対応した。ウイングが対応してしまった。

ではマブンガと同じサイドへドリブルをしてボールを運んでくる、今最も危険な選手のスリーを誰がチェックする?
岡田選手はマブンガにシールされたウイングのDFを確認するとドリブルを止めて3Pラインから1mほど離れた3Pシュートを難なく決めてしまう。

これで63-48。
岡田選手連続9得点。
僅か2分弱でスリー3/3。

均衡は完全に崩れ、この試合最大点差の15点差。
前田選手も好調でここまでで既に3/5の3Pを決めており、スミスとマブンガの対応にも追われているところに岡田選手のオンファイヤー。

ここで勝負は決まった。

...しかし、横浜も最後までポゼッションのクオリティを落とさない。
横浜は森川選手のスイングアクションで富山の2-3ゾーンからスリーを決める。

富山は3Qに試合を決たものの楽にクロージングとはいかなかった。
横浜は4Qも18点差以上は離されずに食らいつき、15点差で試合を終えた。


【試合レビュー②】GAME2

名称未設定-2_アートボード 1

16 1Q 20
24 2Q 20
27 3Q 27
29 4Q 23
富山  96 F 90  横浜


1Q 富山13-0から横浜20-3で逆転

スタートの横浜のディフェンスはマンツーマンだった。
しかし、これは大きな間違いだった。

わずか2分間。富山は4回のオフェンス全て成功させて10-0とし、横浜にタイムアウトを取らせる。
タイムアウト明けも森川が3Pシュートを外した後に宇都がバスケットカウントを決めて13-0。

一瞬の出来事だった。
1on1野郎集団の富山にマンツーはかなり危険だ。
この出だしでGAME2は競らずに終わるかと思われた。

しかし、そこから横浜が2-3ゾーンへDFを変更。GAME1以上の完璧なローテーションで富山をなんと7分間で3点に抑え込む。

さらにオフェンスでは須藤選手を筆頭にDF成功からの速攻、P&Rからのミドルシュートといった小味なプレーを堅実に決めて追い上げる。

さらにGAME1では0/5だったアキ選手のスリーもこの日は良いところで決まり、なんと横浜は0-13から20-3のランを返して1Q中に逆転を成功させてしまった。

2Q 理不尽な富山

富山はこのP&Rを防ぐため、DFを2-3ゾーンへ変更する。
しかし、横浜のオフェンスは中々止まらない。

横浜はアウダ選手のハイポストアタックを中心に富山の2-3ゾーンから得点を重ねる。

この勢いで前半は横浜リードで終了...と思われたがそうはいかなかった。

確かに富山は横浜のゾーンを完全には崩せていない。

しかし、ベンチから途中出場した水戸選手が巡ってきたフリーのスリーを難なく2/2で決める。(それもスウィッシュ)
『それまでの流れが悪くとも今はフリーなのだから関係ない』と言わんばかりに横浜のわずかなほころびを得点に繋げる。

さらにマブンガ選手が『これならゾーンもマンツーも関係ない』と言わんばかりにセンターサークル近くからディープスリーを沈める。(確かに関係ない)

岡田選手がP&Rから緩急の大きなヘジテーションでマークを外してレイアップを決める。(3線が安易にブロックへ跳んでしまえばスミスのオフェンスリバウンドを止められないのでハードにブロックへ行けない)

最後に宇都が残り4秒でカーター選手からバックコートでボールを奪ってレイアップを決め、結局同点で前半を終えた。

ゾーンを崩せていなくてもお構いなし。
バスケットボールはカゴに球が入ればオールオッケーと言わんばかり。

これが今シーズンの富山の極悪オフェンスである。
(理不尽だがこれもバスケットボールである)

3Q お互いにゾーンを攻略

前半40点に留まった(?)富山はこのクォーターではゾーンオフェンスをきっちりと修正し、27得点を奪った。

横浜の2-3ゾーンのサイドはカーター選手とアキ選手。
これに対し富山はスミスとアキ選手のミスマッチを作る賢いゾーンアタックで横浜のDFを攻略する。

こういったオフェンスもあり、富山は27点を奪うが横浜もアウダ選手のハイポストエリアのシュートと森川選手のスリーが止まらず、同じく27得点を記録。
67-67と依然同点で試合は第4Qへ。

4Q タイムアウト中の富山ベンチ

富山の強さが見えたのはオフィシャルタイムアウト明け。
スコアは77-78の1点差。

マブンガがトップでボールを持つ。
24秒クロックが残り少なくなり、彼に注目が集まったところでコーナーの岡田選手がお得意のバックドアでDFを出し抜く。
慌ててヘルプに来た3線の頭上を通してスミス選手へパスを繋げる。

今までに無かったパターンで横浜を完全に出し抜いた。

続くDFで富山は2-3ゾーン。
ここで森川選手に痛恨のミスが出る。
アウダ選手のいるハイポストにドライブをしてしまい、狭くなったエリアでDFにボールを奪われてしまう。

マブンガが速攻を出し、先頭を走る岡田選手へパスを出す。
またしてもこの男がバスケットカウントを沈めて82-78。

次の富山のDFでは森川からカーター選手へのパスを松脇がスティール。
しかし横浜は速攻を出させまいと松脇、マブンガ、前田の3人に対し、先に5人全員がDFへ戻った。

これで富山は一度オフェンスを止めるかに見えたが、横浜は5人が戻ってから2-3ゾーンを組むまでに一瞬のラグが生じた。
そこを見逃さず、ボールはドリブルで運ぶ松脇からウイングのマブンガ、そしてコーナーへ走っていたノーマークの前田へとボールが回された。

前田は今の相手が嫌がるこのタイミングを理解し、このチャンスを見逃さずスリーを打ち切る。
これを決め、一気に7点差をつけて勝負あり。

またしても一瞬の出来事。
横浜がわずか2回TOをしただけで35分続いたクロスゲームは終戦した。


富山のタイムアウト中ではほぼ選手同士のみで話し合いが行われる。

浜口HCからの指示はブザーが鳴った後に5~10秒程度、ボードで何かを説明する程度である。
つまり、ゲーム内の修正は主に選手達が自分で考えて行っている。

このスタイルはコート上の選手達の現場対応力を向上させる。
だからこそ、こういう大事な時間帯に岡田や前田といった若手が自身で強気な選択を行い、試合を決めることができる。

これも今の富山の強さである。


【解説コラム①】 ゾーンはどのようにして崩れるか?

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ここからは2-3ゾーンが崩れる仕組みについて解説したい。

基本的に2-3ゾーンは下の3人が定位置から外へ出た時に崩れる。

ゾーンは文字通り、各々がエリアを守るディフェンスである。
そのためゴール付近のエリアを割り当てられたDFを外におびき出せれば、ゴール付近が手薄になる。

ここでは2つのパターンを挙げて詳しく説明していく。

1つは中央のDFがハイポストへ対応した場合。
(これは横浜が主にやっていた)

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図のように、こうなると赤④が1人で青⑤と青②に対応しなければならず、2on1のアウトナンバーになる。(白枠内)

故にハイポストの選手には上の2人(赤の①と②)が対応することが望ましいわけだが、そう簡単にもいかない。
上の2人がそこまで下がってしまえばトップの選手にボールを戻され、スリーを打たれてしまうからだ。

なのでシュート確率の低そうな相手選手の所を捨て気味に守るであったり、もしくはボールマンのパスコースを限定しながら囲むなどの工夫が必要になる。

で、富山が行っている2-3ゾーンはどうなのかというと、彼らはハイポストエリアのシュートを捨て気味に守っている。

前述のとおり、⑤のスミスをゴール下から動かしたくないからだ。

ただし、簡単には打たせない。
致命的なノーマークが生まれない範囲でハイポストの選手にストレスを与え、なるべく難しいミドルシュート、欲を言えばフローターを打たせて落とさせることを狙う。
(フローターはリングに強く跳ねないため、ゴール下にいるスミスのエリアにボールが落ちやすいという計算だ)

上手くいけば驚くほど相手を無力化できるが、他方で滋賀のオクテウスや横浜のアウダといったこの距離のフローターが上手い選手にはボコボコにやられることもある。
(実際、今節ではアウダ選手にかなりこれをやられた)

もう1つはサイドの選手がウイングorコーナーのアウトサイドへ対応した場合。(これは横浜、富山両方やっていた)

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こうなるとローポストの青④にボールが入れば赤⑤が対応するしかなく、ハイポストの青⑤がゴールへダイブしてパスをもらえばイージーレイアップとなる。

要はセンター(赤⑤) vs ローポスト(青④) とハイポスト(青⑤) の2on1となるわけだ。(白枠内)

DF側のこのケースの対処法としては、
最初に青②のキャッチ&シュートに赤④がチェックにいき、すぐに赤①が降りて引継いだ後、赤④がローポストへ戻るという連携だ。

こうして上の2枚の運動量を活かすことで、下の3人が定位置から外れる時間を最小限にしながら守る方法もある。

この場合はオフェンスのパスワーク対ディフェンスの連携とのスピード×精度の勝負となる。

【解説コラム②】その他、両者のゾーンアタック

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1,スイングアクション

①シューターの森川がコーナーから逆サイドのコーナーへベースライン沿いにへ移動。(スイング)
②この場合、ウイングのDF(前田)が逆サイドのDF(マブンガ)へ森川選手のマークを引き継ぐわけだが、逆サイドのDF(マブンガ)が他の要因に対応している最中だった場合、引継ぎにラグが生まれる。
③それに合わせてボールを森川サイドへ展開し、ウイングを経由してコーナーの森川へパスを落とし、スリーを狙う。


2,ミスマッチを攻める

このオフェンスは2-3の下の3人のうち、片方のウイングがインサイド、もう片方がアウトサイドの選手の時に有効。

①横浜の2-3ゾーンの両サイド。片方はカーターでもう片方はアキ。
②カーター側にシューターの前田、アキ側にスミスを置く。
③前田へのキックアウトでカーター選手を外へ釣り出す。
④それに連動してマブンガがポストでシールをしてアウダを引き付ける。
⑤そこでスミスがフラッシュするとゴール下でスミスとアキの1on1となる。

(これは賢い。)


富山は今ではB1全体5位に位置する強豪チームとなった。
しかし、B1最下位だった頃はこの日の横浜のように1つずつ、地道な積み重ねから始まっている。

もしかしたら横浜は後に、今の富山のように強くなるかもしれない。

来シーズン。
リーグ戦や残留プレーオフではなく、CSでこのカードが見れたならとても嬉しく思う。

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