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[第12節_富山vs宇都宮(前編)] ‐37点差の理由とブースターの心得-[20/12/9]

第12節。富山vs宇都宮。
試合は37点差という富山の大敗に終わった。
とはいえ、これは富山が特別怠慢な試合をしたというわけではない。

タフなディフェンスやスローペースによってオフェンスが不発に終わった試合はこれまでもあったし、マブンガが3本連続でフリースローを落とすのも初めて見る光景ではない。
そういう意味で、あくまでこの試合の富山はこれまで通りの"いつもの富山"だった。

ただ、この日の相手は富山の弱点を見逃さずに得点にするチームだった。

しかし、37点差が両者の実際の力量差を表す数字かというとそうは思わない。これは両者の相性や実力差の他にもいくつかの要因が重なって起こったことである。

そしてこの点差を埋める、"宇都宮越え"のヒントもこの試合では多く見られた。

前編では「37点差の理由」について解説し、後編では「富山が"宇都宮越え"をするための課題」について解説していく。


37点差がついた理由

・宇都宮がDFで徹底している2つのこと

37点差の理由の1つ目は宇都宮がDFで徹底している2つのことだ。

まず1つは1線と2線の徹底だ。これによって好条件(※)での1on1を簡単に作らせない。
富山が1on1を開始するのはショットクロックが残り少ない状況、その選手の得意な位置より遠い位置、DFに密着された状態からになる。
(※好条件での1on1というのはDFとズレができていてシュート、パス、ドリブルの選択肢を持てていること。ショットクロックが十分にあること。スペースが広いなどの優位性がある状況のことである)

2つ目は、富山が1on1を初めた時、必ず他の選手がヘルプに寄るようにしていた。
それも状況に応じて寄り方を変えていた。
少しだけ寄ってストレスを掛け、ボールを止めた瞬間に自分のマークへキックバックしてパスアウトも封じたり、完全に2人寄ってボールを離させたり、状況によって理にかなったDFシフトをしていた。

全員1on1のディフェンス能力のある宇都宮だが、彼らはその上でより条件の悪い1on1へ、より1on2の状況へと追い込むチームディフェンスも徹底しているのである。

これによっていつもの『内容が悪くてもとりあえず入る富山のシュート』は完全に防がれた。
富山は普段であればチームでクリアなシュートが作れずとも、持ち前の極悪1on1で点をねじ込むことで食い下がることができた。
しかし、宇都宮にとってこの1on1はむしろ獲物でシュートで終わることすらさせずにターンオーバー、そして速攻へと繋げていくのだ。

さらにこの日のマブンガは外の調子も悪い。
しかし、スリーのフェイクからのドライブによるファールドローンでしのぐ道も今日は無い。

これによって富山は前半27得点に留まった。

・その他のいくつかの要因

点差が開き初めた2Qの後半。
シュートに関しては宇都宮も同様に悪かったわけだが、唯一入っていた遠藤をきっかけにスコア上では僅かに宇都宮が先行しつつあった。

この僅かに開き始めた点差をきっかけに富山に悪循環が起こった。

富山は無意識にリスキーなプレーを取らなくなり、確実性を優先し始める。
アウトサイドシュートが入ってなかったことや宇都宮のチームファールの事もあり、しっかり丁寧にオフェンスを作り、ペイント内でのオフェンスを組み立てる。

もちろん悪い判断では無い。
しかし、速攻やスリーを選択肢から外した小味なバスケットでは宇都やマブンガがなかなか調子を上げられないのだ。
ここはおそらく、宇都宮相手となって慎重になりすぎてしまったのだと思う。

こういう時、不思議なもので悪いことが重なる。
審判とファールの基準が合わず、せっかく作り込んだプレーも点に繋がらない。拍車をかけるように間の悪いタイミングで誤審が起こり、ロシター選手のバスカンで10点差。

オフェンスでは小味な組み立て。
点差がついてミスが許されない状況。
求められるのは起爆よりも正確性。
接触には思うように笛が鳴らない。
ピック&ロールとパッシング主体で1on1の勝負をしてくれない宇都宮のオフェンス。

宇都とマブンガにとってはストレスしかなく、調子が上がる要素の無い状況になってしまった。

ますますミスは許されない状況になり、オフェンスへのストレスが大きくなっていく悪循環で点差が離れていった。

また、4Qにメンバーを下げなければ68-93の25点差ぐらいには収まっていただろう。
しかし、この浜口HCの判断には色々と考えがあってのことだと思う。

敗戦処理のような事をベテランにさせること。
平日開催の試合に来てくれたブースターへのこと。
宇都宮と勝敗が並んだ時の得失点勝負を捨てること。
多くの葛藤があったはず。

その上で、リーグで1勝でも多くもぎ取る為に、次節川崎戦を取る為に、本気でCSを目指す為に選手を下げたはずだ。
故に4Qでさらについた10点差はおまけのようなものであることから、両チームの差は37点差ほどは無いと言える。

・富山の宇都宮との相性とブースターの心得

ブースター、特にグラブーの方々に心得て欲しいことがある。

多くの人はこの対戦カードは接戦になると考えていたと思う。
それだけ多くの人が今年の富山を認め、期待していた。私もそうだ。
しかし、この結果にショックを受けた私達は1つの角度からしか富山を見れていなかったのだと思う。

例えば
"マブンガ選手と宇都選手はリーグ屈指のスコアラーであり、クリエイターでもある"

これは多くの人が持っている印象だろう。
それは事実で間違っていない。
マブンガは
平均20.0得点(4位)6.5アシスト(1位)
宇都は
平均12.7得点(日本人4位)5.1アシスト(6位)

という明確な数字の根拠があるからだ。
だからこそ、これは個人の主観が介入する余地がない事実と言える。

しかし、同時にマブンガは平均4.0ターンオーバーでリーグ1位であり、宇都も2.7でリーグ3位と続く。
彼らは実は大きな欠点も抱えている、という事実もあるのだ。

"マブンガ選手と宇都選手はリーグ屈指のスコアラーであり、クリエイターでもある。しかし、ミスもリーグトップクラスに多い"

これがより解像度の高い事実と言える。

そんなミスありきのオフェンダーである彼らが戦うこの日の相手は全員がDFの手を抜かない堅守の宇都宮。
相手のターンオーバーから速攻に走り、オープンのシュートをきっちり作り、得点に繋げる事に長けているチームである。

これだけでも富山が宇都宮に相性が悪く、宇都宮が快勝する展開も有り得ない対戦カードでなかった事がわかっていただけたと思う。
(ここではわかりやすく2人の例を挙げたが、他の選手達にも我々の知らない長短がまだまだ数多く存在するだろう)

富山躍進の原動力となり、ここまでの18試合だけでも幾度となく富山を救ってくれた頼れる2人も完璧ではないのだ。

むしろ、状況によっては富山の弱みになることもある。

しかし、彼ら2人が完璧(に近い)と思い混んでいた私達はその解釈にそぐわない結果を目にした時、つい、何かのせいにしようとしてしまう。
審判の判定が、コートのコンディショニングが、コーチの采配が、選手の怠慢ではないかと原因を探し始める。

しかし、宇都宮戦前の18試合を見れば彼らが決して驕らず「チーム」を作り上げようと試行錯誤していた事がわかるはずだ。
そんな彼らが今更この大事な試合で怠惰をする訳がない。

4Qのベンチに座るスタメン組に元気がなかったのはそれだけ「本気」で宇都宮に勝つつもりだった意気込みの表れだろう。
「本気」であればあるほど、失敗の時の落胆は大きいものだ。

私達はきっとこれからも富山の未知の部分を目の当たりにする。

それは東京に100点ゲームで勝ってしまうような長所かもしれないし、今回宇都宮に37点差で大敗するようなまた新たな別の短所かもしれない。

だからこそこういう時、変な方向へ熱くならず、変わらずチームを応援して欲しい。
上手く行かない試合があったとしても、その時のグラウジーズには何かそうならざるを得ない事情があるのだと理解してほしい。

その時は私が皆様へその事情を紐解いて発信する。
あのコート上で何が起こっているのかを伝えていく。

チームが苦しい時、ブースターが選手を信じて応援できますように。

後編、「富山が"宇都宮超え"を果たすための課題」へ続きます。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
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岩沢マサフミ@富山解説
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