見出し画像

ToCスタートアップは立ち上げ初期にマーケティングで何をやるべきか

こんにちは。ToC向けのメンタルヘルスアプリを提供する株式会社Awarefyでマーケティングの責任者をしている秦(X:@shouken920)と申します。

このnoteは、「スタートアップがサービスローンチして軌道に乗せるまでにどのようなマーケティングをすべきか」を、実経験をもとにできる限りわかりやすくまとめたものです。

私たちAwarefyは、難しいと言われるメンタルヘルス市場においてToC向けアプリを提供しており、これまで延べ50万DL、アプリストアのヘルスケアカテゴリ売上ランキング4位(applion調べ)等、まだまだではあるものの一定の成果を出してきたと自負しています。
ただ、立ち上げから軌道に乗るまでは、スタートアップのマーケティングに関する情報が少ないことでかなり苦労もしてきました。
そこで、良かったこと・悪かったことを含めて、これまでを振り返り、整理ができればと思います。

スタートアップに限らず、非営利のプロジェクトやマーケティング予算のない新規事業などにも応用できる部分も多いかと思いますので、ぜひ参考にしていただけたら幸いです!

スタートアップのマーケティング情報少なすぎ問題

はじめに、このnoteを書こうと思った動機でもある、スタートアップのマーケティングについての情報が少ないという問題を挙げておきます。
世の中にはマーケティングに関する情報は無数に存在しますが、ある程度の事業規模を前提としたものが多く、始めたてのスタートアップがサービスをマーケティングの力でどう伸ばしていくか、という情報はあまり多くないと感じています。

また、スタートアップはPMFを達成することが至上命題ですが、PMFは「プロダクトが顧客のニーズを満たしている」ことに加えて、それが最適なマーケットに提供できている状態を指します。つまり、マーケットからの集客が一定成り立って初めてPMFと言えます。
しかし、プロダクト作りの部分に焦点が当たりすぎて、マーケティングが疎かになっているのでは?と感じることもあります。

スタートアップで働くようになってから、とても良さそうに見えるプロダクトが、ほとんど人の目に触れないままサービス終了してしまう、といったことも多く見てきました。
プロダクトが最強でない限りは、プロダクトづくりとマーケティングは両輪であり、プロダクトが良くてもマーケティングができなければ軌道に乗る前にサービス提供を続けられなくなってしまいますし、その逆も然りです。

そこで、これまでマーケ担当として立ち上げから軌道に乗るまでに実施してきた取り組みを振り返り、ナレッジをまとめてみようと思います。
これから生まれる素晴らしいサービスの成功に、1ミリでも寄与できたら嬉しく思います。

Awarefyについて

弊社サービスについても書いておきます。アウェアファイは、毎日に寄りそい 気づきを増やす AIメンタルパートナーアプリです。AIメンタルパートナーのファイさんがユーザーのメンタルヘルスケアをサポートします。認知行動療法やマインドフルネスなど心理学の知見に基づく様々な機能を搭載し、心の健康と成長を支援するToC向けアプリです。

これまで5年に渡りサービス提供を続けることができており、2022年にはGooglePlayのベストアプリ部門大賞を受賞。毎年数百%の比率で売上を伸ばしてきました。

スタートアップのマーケが初期にやるべきこと

ここから本題です。
スタートアップがサービスを立ち上げたばかりの頃は、プロダクトもMVPで不完全な場合が多く、当然プロモーションにかけるお金もないことがほとんどでしょう。
そんな中で、スタートアップのマーケ担当がやるべきことを、大きく以下の三つのステップに分けてみました。

①まず無料でできることを全部やる
②最初のPMFを見つける
③最初のPCFをつくる

それぞれ説明していきます。

①まず無料でできることを全部やる

いきなり根性論のような見出しで恐縮ですが、ローンチのMVPの状態からプロダクトを磨いていくためには、ユーザーのフィードバックが必要です。つまり、データを分析をして示唆を得るだけの最低限のトラフィックを集めることがまず重要になります。そのためにできることは全部やっていきましょう。

実際に私たちがプロダクトをローンチしてから最初のトラフィックを作るためにやったことの中で、特に効果があったと思うことをいくつか紹介します。

・知り合いに周知しまくる

自分の周りの人の力を借りることは、初期には非常に有効な手段です。たとえば自分の周りの知人友人が「スタートアップでサービスをローンチした!」というニュースを知らせてくれたら、嬉しいし応援したい気持ちになるのではないでしょうか?
遠慮せずに明るく宣伝すれば、きっと応援の力が集まってくるはずです。存分に甘えて、宣伝に協力してもらいましょう。サービスが合いそうな人には、使ってみてもらうのも良いと思います。これである程度のトラフィックと話題を作ることができます。

・SNS運用を頑張る

どんな領域にもアーリーアダプターというのはいるもので、どこからともなくサービスを見つけて、SNSで話題にしてくれる人がいます。
私たちは、エゴサでそういう方々を見つけて、もれなくお礼のリプライをすることを心がけていました。シンプルに感謝の気持ちを伝えるためにやっていたことでしたが、機能の要望や不具合などにもいち早く反応するようにしていると、いつしか関係性ができてきて「Awarefyは神運営!」みたいなことを言ってくださる方が数名出てくるようになりました。そこからまた熱量のある投稿が生まれる好循環ができ、口コミが広がっていきました。SNSを通してファンと呼べるような方々ができ、そこが口コミの火種になっていたように思います。

・プラットフォーム対策を本気でやる

今の時代、どんなサービスでも掲載すべきプラットフォームがありますよね。飲食だったら食べログやGoogle Map、ECサービスだったら検索やSNS、アプリならアプリストアと、ユーザーが情報を探すプラットフォームがあるはずです。そのプラットフォーム内の対策でできることは全部やりましょう。これは、意外とやってないサービスが多いように感じます。
私たちはアプリだったので、Apple、Googleのアプリストア対策(ASO)をとことんやりました。上位表示されるための方法をくまなく調べて(英語の情報までアクセスできると、日本語では見つからなかった情報が手に入ったりします)、出来うる対策は全部やっておきました。結果、早い段階でいくつかのワードで安定して集客ができるようになりました。ここは本気でやれば結果が出やすいところなので、しっかりリソースをかけることをおすすめします。

・インフルエンサーに連絡しまくる

これは私たちはやれなかったことですが、成功事例としてたまに見かけるし、やっておけば良かったなと思うことです。弊社では最近インフルエンサーの力を借りる機会が増えているのですが、「PR案件は受けてないけど良いものは無償でも紹介したい」という方針の方もいて、無報酬でも意外に興味を持ってくださるケースがあります。100人声をかければ、少なくとも数名は返事をくれる感覚です。行動量の勝負にできるので、気合いさえあればどんどん伸ばせる集客チャネルになりえます。

このあたりが、最初期に再現性をもってやれる施策かなと思います。泥臭い内容が多いですが、Awarefyはこれで比較的早い段階から100件前後/日のDLが入ってくるところまで持っていくことができました。
それくらいトラフィックがあると、ブラッシュアップに必要なデータもスピーディーに集まり、プロダクトを適切に進化させていくことができるようになります。

②最初のPMFを見つける

ある程度のトラフィックが出てきたら、マーケで次にやるべきことは、N1の顧客解像度を高めることです。
プロダクトチームがユーザーのフィードバックをもとにプロダクトを磨いている間、マーケチームはユーザーの解像度を高めてマーケットの選定とプロダクトの見せ方の磨き込みを行います。(理想的には、マーケットインの視点から機能開発にもアイデアを反映させられると良いでしょう。)
自社のプロダクトを、どんな人がどう使って何に価値を感じているのかを知らないことには、見せ方も磨かれなければクリティカルな打ち手も考えることはできません。
もちろん、プロダクトをローンチする前からユーザー像とペインは考えているはずですが、実際のユーザーの声から学べるものは非常に多いです。また、想定と違う層のユーザーが見つかったり、想定と違う使われ方をされるということは往々にしてあります。ユーザーインタビューを通して、N1の解像度を高めていきましょう。

セグメントを切ってユーザーインタビューをする

ユーザーインタビューをする際にとてもおすすめしたいのが、セグメントを切ってユーザーインタビューをすることです。切り方は9Segs的な切り口が良いと思います。
私たちの場合は、アプリの利用頻度で、超ロイヤル、ロイヤル、一般とセグメントを定義し、それぞれのセグメントごとにユーザーインタビューを行いました。(※弊社ではユーザーが書き込んだテキストデータは暗号化され見れない状態になっていますが、アクセスログなどのデータは分析に活用しています。)
これの何が良いかというと、初期は良くも悪くも色々な層・期待値の人が入ってくるため、明るくユーザー全体にインタビュー依頼をして話を聞いていくと、多様すぎてユーザー像や利用シーンがぼやけてしまいます。一方、セグメントを切ると、超ロイヤルの人と、ロイヤル、一般の人とで、差分がはっきりと出てくるのです。
特に超ロイヤルに使ってくれる人には、超ロイヤルに使ってくれている理由が必ずあります。そのような人に集中して耳を傾けていくと、なんとなく共通するペインがいくつか見えてきます。また、他のセグメントのユーザーから出てくる 強くないペインとも区別することができます。

共通項を言語化し、マーケットを定義する

多くのユーザーに共通している強いペインが見つかれば、PMFも近づいてきます。
私たちの場合は、比較的早い段階から自分たちが想像していた以上に熱量の高いユーザーさんに出会うことができたので、そこから共通項を言語化していきました。以下のようなステップです。

  • セグメントを切って、セグメントごとにユーザーに話を聞いていく(それぞれ10名くらいは聞けると良さそう)

  • 特に最もロイヤルな層がサービスを使っている理由(=ペイン)を、ユーザーごとに抽出する

  • 抽出したペインを分類、類型化する

  • その中で、多くの人に共通し 且つ 大きなペインを言語化する

このようなステップで、価値を届けるべきペインを見定めていきました。なお、作業はPdMと一緒に進めていきました。

 PMFは「見つける」もの?

ところで、このチャプターでは「最初のPMFを見つける」というタイトルをつけたのですが、個人的に、PMFは、するものというより、まずは見つけるものという感覚が強いです。
色々な条件がバチっとはまって間欠泉が噴き出すようにドバドバとユーザーが流入するのが一番の理想だとは思いますが、そこまでいかずとも、ちょろちょろと水が染み出しているところの下に実は大きな水脈が流れていることに気づいて、「ここ掘ったら温泉が出るかも!」とツルハシを突き立ててみる、というところまでいくのがまずは大事なのかなと思います。

Awarefyの場合 - 「三次予防」という言語化

私たちはメンタルヘルスのサービスを提供していますが、超ロイヤルユーザーと呼べる人たちには、ある共通項がありました。
それは、少なくとも一度、メンタル不調で休職したりうつ病の診断がつくなど、生活に支障が出るレベルの大きな痛みを伴う経験をしたことがあるということでした。
そして、彼らがアプリを使う理由が「もうあの頃に戻りたくない」という強烈なペインでした。「仕事に復帰してるけど再発しないようにアプリで日々の状態のモニタリングをする」というのがこのユーザー層のアプリの使い方で、医学の領域では「三次予防」と呼ばれるものでした。
この「三次予防」という言葉で言い表せるペインを見つけられたのがブレイクスルーでした。

ただし私たちの場合は、そのようなユーザーがいる一方で、流入が爆発的に増えているわけではありませんでした。それはなぜかといえば、見せ方が適切な状態になっていなかったからです。
そこで、「三次予防」を全社の共通認識として揃えて、そのニーズに合ったサービスの磨き込みと見せ方の磨き込みを行なっていきました。

選択と集中で、多少間口を狭めるもののペインにしっかり刺さる見せ方にした結果、PMFと呼べるような大きな流入に繋がっていきました。

③最初のPCFをつくる

②では、超ロイヤルなユーザーに共通する強いペインを見つけ、そこに選択と集中をするプロセスをご紹介しました。最後は、PCF(プロダクト・チャネル・フィット)です。
PCFとは、特定の集客チャネルが安定的/効率的にターゲットユーザーを連れて来れている状態のことを指します。
冒頭でも述べた通り、PMFは「プロダクトが顧客のニーズを満たしている」ということに加えて、それが「最適なマーケットに提供できている状態」です。この後半部分の「マーケットへの提供」を担うのがPCFだと言えます。すなわちPCFはPMFの構成要素とも言えるでしょう。

チャネルとはすなわち、サービスをユーザーに見つけてもらう経路のことです。太いチャネルを作れるかどうかで事業の成否が決まると言っても過言ではないと思います。

私の実感としては「一般的にPCFはこうするのが良い」といった正解はなく、サービスごとに辛抱強く試行錯誤を続けなければならないところだと感じています。非常に難易度が高いので、リソースも相応にかける必要がありますが、軽視されがちなこともあると感じています。

X広告でバズる

私たちも、初めはどんなチャネルだったら安定的/効率的に大規模な集客ができるのか全くわからなかったので、まずは片っ端からやれることは全部試してみよう、というスタンスでさまざまな施策を試していきました。
しかしながら、1年ほど続けても、微妙なヒット施策はあれど、PCFと呼べるようなクリティカルな施策は作れていませんでした。

そうした中でようやく辿り着いたPCFが、X広告でした。
それまで広告(Paid Media)はあまり試してこなかったのですが、X上には、メンタル不調の経験のある人たちがフォローしあって情報交換をするコミュニティがあり、その界隈でサービスが広まる可能性は感じていました

そこで、ごく少額の予算ですがこの界隈に絞って広告を出してみたところ、広告自体がバズるほどの反応があり、アプリの一般的なCPAの1 / 5 程度のコストで獲得ができたのです。ユニットエコノミクスも余裕で成立していたので、そこからある程度の予算を投じて、爆発的にDL数を伸ばすことができました。
私たちにとって、初めてのPCFと呼べる体験でした。

エフェクチュエーションで壁を突破する

そんなわけで確固たる集客チャネルを作ることができたのですが、振り返ってみると、実はX広告がうまくいったことには、ある種の必然性があったように思います。
というのも、私自身が元々広告代理店出身でデジタル広告を担当しており、ターゲティング手法やバナーの見せ方などに知見があり、初めから非常に高いクオリティで施策を実行できたのです。このことが成功確率を高める要因になったと感じています。

このことは、「エフェクチュエーション」における「手中の鳥」の原則 という理論でも説明されていることです。
「エフェクチュエーション」とは、VUCAな時代に成功を収めてきた起業家に見られる、従来とは異なる思考プロセスや行動のパターンを体系化した意思決定の理論のことです。

その行動原理の一つである「手中の鳥」の原則は、

既に手元にある資源や能力、知識、人脈等を明確化し、それらを使って何ができるかを考える。目的を達成するために新しいアイデアを考えたり新たに能力を開発したりするのではなく、既存の手段から何ができるのかを考えることによってチャンスを切り拓く。

という原則のこと。自分が得意なデジタル広告というチャネルに力をかけられたのが、集客の壁を突破する要因になったのだと思います。

120点の施策で初めて芽がでる

さまざまな手段をがむしゃらに実行して学んだことは、知名度も資金力もないスタートアップは、70点の打ち手をやっても誰も見向きすらしてくれないということです。100点でもギリギリで、120点の打ち手をやって初めて芽がでる可能性がある くらいに思った方がよいと感じています。
となると、自分が得意なことや経験のあることなど、120点のクオリティにしやすい施策に注力することが、結果的に成功確度が高めることに繋がります。
集客がうまくいってないと焦ってしまうし、あれもこれもやらなきゃという気持ちになりますが、パワーを分散させてしまうとますます上手くいかない負の連鎖に陥っていきます。
数多あるカードの中から、これをやりきる!と見定めた手法で一点突破を狙ってやり切ることが、PCFへの近道なのではないかと思います。
エフェクチュエーション的なアプローチで、ぜひPCFを手繰り寄せてください。

終わりに

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
今回は、立ち上げ期のことを振り返りながら、成功パターンを言語化してみました。

とはいえ私たちのサービスも、思い描く世界から見ればまだまだ道半ばです。
これからも、このnoteで書いたようなブレークスルーをフェーズごとに何回も繰り返して、ちょっとずつ積み上げていくようなイメージを持っています。
スタートアップって、急成長とか華々しいイメージがありますが、いうても上場まで5年とか普通にかかりますし本当に長いマラソンですよね。気が遠くなるほどの道のりですが、一緒に頑張っていきましょう。

同じような立場で頑張っている同志の皆さんと繋がれたら嬉しいです。よければフォローしてください!(X:@shouken920


採用情報

Wantedlyにて、適宜採用しているポジションを公開しています!
ビジネスが立ち上がりにくいと言われてきたToCメンタルヘルスの領域で、社会性と経済性を両立させながらチャレンジできる最高にやりがいのある環境です。誰にとってもメンタルケアが当たり前になる世界を一緒に作っていきませんか?



参考にした資料

・N1マーケティングについては、西口さんの本がおすすめです。

・PCFについては、マーケの壁打ちをさせてもらっている 森さん(X: @kossmori )のnoteがおすすめです。

・エフェクチュエーションの本はこちら。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?