【読書録48】変化に向きあわず取り残された30年~野口悠紀雄「平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析」を読んで~
平成時代の振り返り、とりわけ、平成の経済の振り返りについては、今までいろいろな本を読んできた。noteで取り上げるた本だけでも、小峰隆夫「平成の経済」、白川方明「中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年」。その他にも、竹中平蔵「平成の教訓」、寺島実郎「日本再生の基軸」など。
平成9年に社会に出て、同時代を駆け抜けてきた私にとって、関心の高い分野である。そして「俯瞰してみると確かにそうだな」と納得感をもって読める。
今回の本の著者である野口先生の本は、大昔に「超整理法」を読んで以来。経済学者としての先生の本を読むのは初めてである。
冒頭、ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」の引用からはじめる。
平成時代、および現在の日本の状況を言い当てて妙の言葉である。
著者の主張を簡潔に言い表しているのは、以下のひとことである。
本書の特徴は、平成史と著者の自分史を重ね合わせ、30年間を生き生きと総括してる点である。
また一貫して、実体経済=産業競争力を高めることの重要性や円高が個人にとって有益であることを主張している。
著者が言う、世界経済の大きな変化とは何か?
それぞれ、相互に関連しているが、以下の4点を挙げる
そして、円安を麻薬であるといい、上記のような世界経済の変化への対応力を削いできた一因であるという。
金融緩和によって、低金利が続き、円安傾向となった。そのことによって、垂直統合型の製造業への依存が続き、新しい産業への転換をはかれなかったことが現在の低迷を招き、資産価格のバブルが起こりやすくなったという。
また民間企業が、雇用調整助成金やエコカー減税などの政府支援に依存するようになったことも「麻薬」の一種であるとする。
高度経済成長時の経団連会長である石坂泰三が、「形を変えた官僚統制」と苦境に陥っている産業に政府が補助を与えることに強く反発していた事例を挙げる。
そして、円高は、消費者の立場から望ましく、製造業の海外移転は大きな問題を引き起こすが新しい産業を国内につくることで対処すべきであるとする。
円安で苦しむ現下において説得力をもつことを言っている。
日本の課題と将来にむかってなすべきこと
日本が直面する課題は、「デフレからの脱却」ではなく、構造的な以下の3つの課題であるという。
そのためになすべきこととして
・高齢者の就業促進
・移民問題との向き合い
・規制緩和による新産業創出
などを挙げる。
今後何をなすべきかは、もう少し深堀りしてほしかったとも思うが、
本書を著者は、ドフトエフスキーの罪と罰の最後の一節で結び、それは、また新しい物語であるという。
平成の失敗から学び、何をするか?それは著者から読者であるわたし達への問いなのであろう。
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