【読書録12】行動のための拠り所とするべきもの~瀧本哲史「2020年6月30日にまたここで会おう」を読んで~
来月、ある大学で1コマ90分の講義を行うことになった。メインは、自分自身のキャリアについてであるが、折角の機会なので、「これからの時代を生きるみなさまへ」と題して本を3冊紹介することにした。
2冊は、今までnoteで紹介した本。1冊は、私のバイブルでもある『シン・ニホン』。もう1冊は、読みやすさから『ネット興亡記~敗れざる者たち』とした。
残りの1冊として、今回取り上げる瀧本哲史「2020年6月30日にまたここで会おう」を紹介することにした。若者にぜひ読んでほしいと思うし、気軽に読める本でもあるからである。
本書は、2012年6月30日、東京大学で参加資格を29歳以下に限定して行われた講義の講義録である。
「2020年6月30日にこの講義を受けてのHomeworkの答え合わせをしよう」というのが最後のメッセージであるが、著者である瀧本哲史氏が、2019年に病のため亡くなっていることもあり、なんだか遺言のような感覚にとらわれる。
6つの「檄」
本書は、6つのパートにわかれており、各々を「章」ではなく、「檄」とする。著者から若者に対する「檄」であり、これからの時代を生きていくための「武器」となっている。まさに「伝説の東大講義」の名にふさわしい内容である。
以下は、各々の「檄」のまとめである。
その中から、私が特に印象に残ったところは、以下のようなところである。
自燈明
仏陀が入滅する際の言葉である。仏陀が亡くなる前に、弟子から、「これから私たちは何を拠り所に生きていけばいいのか?」と聞かれ「自燈明」すなわち、自らを拠り所にして生きよと説いた。(「自燈明」「法燈明」)
自分を信じて自分の価値観や考えを基に,他人の意見には左右されずに、自分を拠り所として生きるということ。
本書では、繰り返し、「正解などない」「自分で考えて自分で決めよ。」ということがでてくる。その為の武器として教養が必要である。教養の役割は、他の見方・考え方がありうることを示すこと。インスタントな「わかりやすい答え」に意味はない。バイブルやカリスマはいないとする。
ワイマール体制がヒトラーを生んだ。すべてを解決してくれるものなどない。自分を拠り所にして自分の信じる道を進むべし。そのためには、自分で考えられるように勉強が必要である。
行動せよ!!
著者は、ただ単に本を読んで「感動した」と言って、翌日忘れてしまうのでは意味がなく、本を読んでどれだけの人が行動したかが重要としている。実際に行動につながらないといけないのだ。
ただ単に感動したで終わる1万部よりも行動につながった価値のある10部に法が、価値があるとする。
この本は、まさに行動につなげるチャッカマンのような役割を持っている。
そして、この講義のHomeworkとは、まさに「この講義を受けてどんな行動をしたか」である。
人生は3勝97敗のゲーム
リーダー論で「日本になぜリーダーが育たないか?」と言われるが、本当に問うべき問いは、「どうすれば日本に『小さなリーダー』たちが育っていくのか?」であるとする。
社会変革というのは、一人の大さなカリスマをぶち上げるよりも、小さいリーダーをあちこちにたくさんつくってその中で勝ち残った人が社会で最も重要な役割を果たす方が健全であるという。
そのためには、各々が自分で仮説を作って試していくしかないという。しかし誰でも成功するかというと、そんなことはなく、ベンチャーでも成功するのは、100のうち3くらい、すなわち3勝97敗のゲームだという。
それで、挑戦する気になるか?という気もするが、絶対的な成功への道などなく、失敗してもまたチャレンジすればよいだけだという。失敗と成功をグルグル回して世界を良くしていくのが資本主義だという。
また成功と失敗は、紙一重なので、だからこそ成功者は失敗したものを助けるべきであるという主張は重い。
アイデアを持っているだけではダメ。それを実行していくことが重要であるとする。
確かによく「それ、同じこと考えてたよ。」というような発言を聞くことあるが、それを現実のなかで実行し、実現していくことの価値を軽視した発言である。
ボン・ヴォヤージュ
フランス語で、「よき航海をゆけ」。自らリスクをとって意思決定する船主通しの挨拶。
お互いに自分の判断でリスクを取っているものの間で、「そっちは嵐になるのでは?」とか「船がネズミにかまれている」とか余計なことは言わない。
ただよき航海をとのみ言う。これは、自立したものの間の相互のリスペクトで成り立つ挨拶であるとのこと。
自らを拠り所として、自分が正しいと思ったことを実行に移していく。そんなことの繰り返しで社会も良くなる。まさに「檄」にあふれた本である。
さあ行動だ。
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