東京家族~優しさ~
私の夫は決して意地悪でも、不親切でもない。どちらかというと優しい人だ。ただ、その優しさが偏っている。一度でも心を許したら例え相手に裏切られようが関係なく自分がしてあげたい事をする。求めることはない。そんな夫に子どもが出来たと伝えると、喜んでくれた。けれども私と違い自分自身に変化が現れるわけでもないので、当事者という自覚がない。私が悪阻で苦しんでいても、どこか他人事だったり妊婦へ配慮の足りない言動は多々あった。ホルモンに支配された私は何度も夫を恨み、今もそれらの言動は忘れることなく私の中にある。
しかし、それらの言動が無知ゆえのものだったようだ。色々な事がありながらもなんとか妊娠七か月を迎えた。大きなお腹を抱え悪阻に苦しんでいた私に夫が労いの言葉をかけてきてくれた。夫の変化に私は驚いた。一体何があったのだろうかと、夫に聞いてみた。すると会社の同量に妊婦がいて、夫の言動に注意をしてくれたようだ。因みにその妊婦とは仲も良く大きなお腹が新幹線のこだまのようなので「こだま」と呼んでいる。そのこだまさんが夫を変えてくれた。先ずは妊婦とはそれだけで大変だということ。大きなお腹を抱え何カ月も過ごさなければならないし、ゆっくり眠ることもできないし、ホルモンの影響で感情のコントロールが効かない。悪阻に関して人それぞれで、出産間際まで苦しむ人もいる。それに悪阻が酷ければ入院をしなければならない人もいる。妊婦についての情報を得た夫は帰って来るなり少しキレ気味で私に話しかけてきた。
「悪阻がひどいなら、ゆっくりしてなきゃだめだろ?」
「いきなりどうしたの?」
「悪阻が酷い中、満員電車に乗って仕事に行っていただろ?」
「会社に迷惑をかけるなって、あなたが言ったんじゃない。」
「それは知らなかったから。電車で妊婦を見ると生きた心地がしないよ。」
どうやら、妊娠マークを付けている女性を見ると妊娠中の私の様子と重ねてしまい、心配してしまうらしい。自分にできる事をしてあげたくなり、電車で座っていれば席を譲ったり、自分の前を妊婦が通り過ぎると会釈をしてしまうようだ。妊婦に親切な人がこの世に一人誕生した。娘が小学生になった今では、ランドセルを背負っている子を電車で見守ると、降りるまで見守っているらしい。
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