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市民が自らつくる地域になるなら「デザイン」じゃなくてもいい。自治体で働くデザイナーの想いとリアル: 砂川洋輝×田島瑞希

これまでの記事で、いろんな行政機関におけるデザイン組織を取り上げてきました。一方、デザイン人材(専門としてのデザインのスキル・経験を有する人)が自治体に関わる事例は、日本ではまだまだ非常に少ないという状況です。

今回は日本の地方自治体に外部から携わるデザイナーの想いと実践を取り上げ、海外の華やかなケースでは伝えられない、現場感も含めたリアルをお届けしていきます。

そうした背景のもと、元・神戸市役所ICT業務改革専門官の砂川さんと、奈良県生駒市役所のサービスデザイナー田島さんのお二人にオンラインのインタビューを行いました。自治体の方やデザイン関連の方にとって、デザイン人材はいかに日本の自治体に関わりうるのか?を考える機会になればと思います。

インタビューのお相手

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田島さん(左下)・砂川さん(右下)
田島 瑞希(たじま みづき):慶應義塾大学総合政策学部卒業後、NTTデータ経営研究所入社。マーケティング調査、官公庁向けの調査案件に携わったのち、2013年度から国内大手企業向けにサービスデザイン手法や組織開発手法を活用した新規事業創出、組織改革、国内外のデジタルガバメントに関する研究・コンサルティングに従事。 2018年より奈良県に移住しリモートワークを中心に勤務を継続。2020年4月より副業として奈良県生駒市のICTイノベーション推進課にサービスデザイナーとして勤務。 共著書に『ITエンジニアのための 体感してわかるデザイン思考』、『攻めのIT戦略』
砂川 洋輝(すながわ ひろき):京都大学情報学研究科修了後、2010年にパナソニック株式会社に入社。半導体EDAや航空機向けエンターテイメントシステムの設計に5年間従事したのち退職。2015年からフィンランドAalto大学のInternational Design Business Management修士プログラムに留学。2017年に帰国し、神戸市役所でICT業務改革専門官(3年間の任期付き職員)として採用される。2020年に任期満了に伴い退職し、現在一般社団法人Code for Japanで主にGovTech領域やスマートシティ領域で活動

どのように行政で働き始めたのか?ICT枠からの出発

ーーおふたりとも本日はよろしくお願いいたします。まず、行政で働くようになった背景を伺いたいと思います。田島さんはサービスデザイナーとして働かれてると伺いました。どういうきっかけでデザイナーの立場から行政に関わり始めたのでしょう?

田島:関西に引っ越したタイミングで、砂川さん含めた数人の関西の行政×サービスデザインに興味関心のある人たちのコミュニティをつくりたいと思っていて。で、勉強会をするだけでなくて現場での実践をしたいとメンバーで話ていて、神戸市や長浜市、生駒市などを実践候補先として見ていました。そんな折に生駒市で外部人材募集の公募を見つけて、応募してみたんです。

砂川:まさか受かったって感じですよね、デザイナー募集でもなかったですし。笑

田島:そうそう、ICT活用の促進という役割での募集だったんです。公募は他に観光推進や首都圏PRなどいろんなポジションがあって、デザインってどれでも使えるからどの枠で、と迷ったけど、私NTTデータのグループ会社の勤務なのでICT枠で申し込むのが経歴的にわかりやすいかなと思って。システムについて詳しくないけどサービスデザイン出来ますってところに、価値を見出して採用してもらったんです。

ーー行政としては、元々どんな役割を期待していたんでしょう?

田島:生駒市の業務をICTを活用して効率的に、という公募内容でした。

ーー面接のタイミングからデザインを推していったわけですね。どういうコミュニケーションをして、それに対して先方の反応はいかがでしたか?

田島:「国でもサービスデザイン思考の活用など人間中心で考える動きは出てきたけれど、ここからは地方自治体にも広がっていくはず。日本ではまだ地方自治体でのサービスデザインの活用事例は少なく、デザインの考え方を用いて行政サービスの改善や企画ができれば生駒市が先進事例だとアピールする機会にもなる」みたいなお話をしました。あと、ICT担当で応募したけどシステムに詳しいわけではないです、と面接でも何回も強調しました笑

ーー最初から役割に対する期待値調整もしてたわけですね

田島:生駒市側からしたら、蓋をあけてみたらそんなこと(市民目線で公共サービスを捉え直す)が出来る人間が応募してきてくれて、いいかな、と思ってくれたのかな...?と思います。

ーー想定してた人と違う人が来たんですもんね。砂川さんもICTスペシャリストという肩書だったかと思うんですが、どんな背景で行政に関わっていったんですか?

砂川:採用の経緯でいうと、神戸市役所は働き方改革のチームをつくり、外部人材をひとり入れようと、Code for Japanに採用を委託していました。神戸市という名前は出さずに"関西自治体・働き方改革・業務改善モトム!"と募集をWantedlyに出して。でも、Code forの取引相手を見る感じ、神戸市くさいなと思って応募しました。笑

ミッションとしては働き方改革で、情報化戦略部のICTを使った業務改善という役割でした。ふわっとデザイン思考とか募集要項に書いてた気はするけど、明確にそれを求めていたわけではなかったです。

私の経歴的に組み込みエンジニアやったり、アールト大学のIDBMでサービスデザインのエッセンスを学んでいて。アールトの2年目には友達とスタートアップを始めて、テックリードとしてIoT使ったりAIを勉強したりも含め、神戸市に受けたんですね。あ、あとIDBMのプロジェクトでヘルシンキ市の行政サービスのUX改善もやってたんで、それもあるかもしれません!忘れてました笑

市民が自ら地域を考えつくる、ひとつの「手段」としてのデザイン

ーー実際におふたりともデザインという入り口ではなく、業務効率化を目指すICT関連で働き始めたわけですが、行政で働くことに対してどういった想いを抱いたんでしょうか。

田島:仕事で海外の行政の動きを見る機会があって、イギリスとかは、政策立案にもデザインの考え方をうまく活用しているので、日本もそういった動きができたらいいなとは思ってました。あと、国よりも市民に密接に関わる基礎自治体のほうが、サービスデザインの実施効果は高いのではないかとは常々思っていました。生駒では、まずは取っ掛かりとして業務改善やサービス改善にデザインアプローチを用いて実践していますが、最終的にはイギリスPolicy Labのように政策立案にもデザインの考え方を絡めていきたいです。

ーー政策立案に関わることを通じて、どんな夢を実現したいのでしょうか?

田島:そうですね、市民側からいうと、行政側に自分たちが何を望んでいるのかを知ってもらったり、参加しながら地域のことを考えられるのが理想的だなあと思っていて。たとえば、政策立案の段階で市民参加型で検討していくことで、サービスをただ享受する市民から、自分たちの地域とは何なのか?どうしていきたいのか?を考え、一緒につくっていく市民になっていけると思うんです。その実践手法としてデザインは有効なのではないか、と思います。

ーー自分たちで地域を考えていく自治の切り口として、ということですね

田島:参加型のプロセスの中で「理想の地域はなんなのか?」という問いを共に考える姿勢を、育んでいけたらいいなと思っています。

砂川:ぼくも全く一緒なので言うことないですね。ヘルシンキ市とのプロジェクトでGDS(イギリス内閣府の公共サービスのデジタル化を担う組織)をリサーチしてうまくやっているなと感じたし、自治体でそうした動きが出来ている事例はまだあまりないと思ってました。

で、行政に入ってみて最初は、サービスデザインやるんだ!と思っていたけど、今になったらデザインは手段なのでどうでもいいかなって。市民ひとりひとりが主体的に考えられるようになるなら、何でもいいです。参加型のプロセスで巻き込むでも、シビックテックで自分でつくるのもいい。デザインって言われる中で、何が一番大事なんだろうね?というのは最近よく考えます。政策立案でも業務改善でも大きく性質が異なるし、デザインが全部解決するっていうのも何か違うじゃないですか。

言葉としてのデザインを捨て、「気づいたらできちゃってる」をめざす

ーー先立って問いや夢があり、そのためにデザインが位置づけられる、ということですね。抱いていた夢に向かい、実際に行政に動き始めて(デザイナーとしてに関わらず)直面した困難ってどんなものがありますか?

田島:わたしが何が出来るのか?を端的に職員の皆さんにわかるように説明するのが難しいですね、そもそもデザインの人材が求められていたわけではないというのもあって。

砂川:わかります...。私のジョブは?何を解決してくれる人?ってふわっとしますもんね。

田島:そう、今の私のミッションの一つにサービスデザインを庁内で研修するっていうのがあるんですけど、何をテーマにやるか悩んでいます。庁内だと、たとえば上下水や消防のことをやっている人もいれば、まちづくりのことをやっている人もいれば、市民課のように窓口のサービスに関わっている人もいて、業務内容も多種多様だし、課題も違うし、それぞれの部署で「私はあなたがやっている業務の中ではこれができるよ」って言わないとわかりづらいのかなと思います。

よくデザインで"生活者目線(行政であれば市民目線)"と言いますが、行政の中だと「市民目線でずっとやってますよ」と言われることも。職員の方々がこれまでやってきた市民目線とデザインの市民目線何が違うの?何が新しいの?となってしまう。実際、職員のみなさん本当に常に市民目線で、真摯に考えていらっしゃるんですよね。なので今は「皆さんが元々持っている市民目線のマインドをよりうまく/わかりやすく活動や議論に落とすための考え方や可視化の武器(ツール)を知っている人間です」と説明してます。これが最適かも分からないので模索し続けています...。

砂川:そこめちゃくちゃ苦心しました。2年目から、サービスデザインという表現はなるべく使わないようにしました。神戸市はデザイン都市ということもあり、グラフィックデザインやプロダクトデザインを理解される方が多いのですが、サービスデザインはなかなか理解されづらい気がしたんです。なので、業務改善の話なんだけど、ステークホルダーマップやジャーニーマップ的なものを書いたり、業務改善ってコミュニケーションの課題が多いから広報サミットのような研修を開催したり。また、(なるべくカタカタは使わずに)アジャイルとユーザー中心設計のアプローチを用いて、正しい答えなのかどうかわからないけどその中で実験を繰り返してみようという“失敗学部“というパッケージで研修しました。なので基本、言葉は使わずエッセンスを伝えてくっていうアプローチでした。

新しく増やすよりも、既存の枠組みを活用する

ーー普遍的に価値を説くのは難しいですよね。現場の文脈に焦点をあてる、というのはデザイナーとしての動き方そのものだな、と思います。一方、砂川さんは"なんか知らん間にできるようになっている"アプローチに対し、田島さんはサービスデザイン研修をミッションにとお話ありましたが、ここでは前面にデザインを押し出しているのでしょうか?もう少し詳しく教えて下さい。

田島:研修の設計やコミュニケーションの仕方も私に委ねていただいているので、実際にサービスデザインという言葉をつかってやるのか、砂川さんのように現場の課題感に紐づけてサラッとやるのかは、部署の方々と相談もしながら模索している最中なんです。今所属している部署がオープンデータの取組も行っているので、データ活用の研修はすでに枠組みがあってやっていて、それに交えてやっていくのもありかもという話が出ているんです。そことの兼ね合いもどうかなって。

砂川:どんどん新しい概念が生まれては消えていく(名前が変わっていく)現代において、本当に仕事に関係するかわからないことを学ぶ余裕が職員にないんですね。みんなめちゃくちゃ忙しいんです。なので、既存の枠組みにいれていくのが良いと思います。「サービスデザイン、何それ美味しいの?」って拒絶するわけではないけど、単に時間と気持ちの余裕がないというか。

相手の関心に寄り添い、win-winになる物語を描く

田島:いま自分としては市民の方々へのインタビューの実施方法が課題だなと思っています。行政サービスの改善のために、サービスの受け手である市民の方々の声を聞かせていただくのはマストだと思うのですが、市民の方々にインタビューするって職員の立場だと難しいんだと知りました。職員の方々にインタビューに対してあまり良い反応をいただけなくて。

ーー職員さんとしてはどういった点にインタビューを難しいと感じるんでしょう?

砂川:新しく外部から来た人と市民の方々がコミュニケーションしている時に何か問題がおこったら、何らか対応しなければいけないのはその課の方々なので、当然と言えば当然ですよね。インタビューした後にどうするの?ということも、きちんと伝わってないかもしれないですね。自分のお客さんに対して、同僚だけど違う人がやりとりするってまあ嫌じゃないですか。信頼失う可能性もあるし、リスク回避というか。逆に課の人にリサーチの重要性を理解してもらえたら、めちゃくちゃ親身にやってくれると思います。

田島:うん、自分も細かい説明できていなかったからな...。

砂川:すでに原課の方が、市民の方々と信頼関係を築いていれば、また違ったかもしれないですね。建設的なフィードバックをくれる市民と関係性があれば、まちを良くするための試行錯誤の一環だと理解してくれやすいと思いますし。そこに田島さんがより良くしたいという手法を載せていくって感じであれば、うまくフィットするかもしれませんね。

顔が利く人から仲間を広げる、コミュニティを掘り起こす

ーーこの人は市民と信頼関係むすんでいるみたいなキーマンを見つける等、最初の一歩をどう進めていき、どう広げていくか?という工夫は何かされていましたか?

田島:市民向けの行政サービスの改善と、庁内の内部の業務改善を実施しようとしていますが、実施先については、部署の方々が繋いでくれました。「こんな人が入ってきて、サービスや業務改善を一緒にやると良いことあるから、一緒にやりませんか?」と。それがなかったら行政内のことも、誰に当たればいいのかも、わからなかったし、職員さん側からしたら得体のしれない人きた、という反応になるだろうなと思いました。つまり部署の方々のネットワークと信頼貯金を活用させていただいて、あまり取り組みに抵抗感がなさそうなところをつなげてもらう。そしてそこがどんな課題を持っているのかをヒアリングしてスタートしました。

ーー公募の段階からデザインを推し、課長に理解してもらえたのが大きかったんですね、砂川さんはいかがでしょう。

砂川:一番重要なのは田島さんがおっしゃっていたことそのままですね。私も、上司が庁内で顔が効く人でした。で、上司にサービスデザインとクラウドといい続け啓蒙しまして。「それ大事だね」と思ってもらってからは、やりやすくなりました。それと平行して、所属の情報戦略部で自分が何者かを理解してもらい、仲間をつくりました。たとえば、働き方改革なのでオフィスレイアウトを変えよう!といって、若手をプロマネとして巻き込んで、主体的に部内の人たちとコミュニケーションしてもらいました。そういった中で、「砂川ってこういう人なんだ」って分かってもらえたんじゃないかなと思います。

もう1つは放課後に有志で、ジェンダーギャップや創造的な働き方に関する勉強会を行う80人くらいのコミュニティがあったので、その主催者とつながり勉強会の講師をしたり、市のクリエイティブディレクターの方が作っていた勉強会コミュニティと繋がったり。あと、サービスデザイン関西っていう外部のコミュニティもあったので、そういう形で仲間を広げていきました。

田島:仲間づくり、そうですよね。私も同じ部署の人には、先んじてサービスデザインはこういうものです、って理解してもらうために研修をやったり、一緒にプロジェクトに参加してもらっています。

ーーキーマンから仲間をつくるという小さな始め方から、認知の拡大というか仲間が増えた段階で、スケールするとか確立していくためにデザインという言葉を使うことの賛否ってどう考えますか?

砂川:YES and NOですかね。新しいことを学びたい人にはフレームを伝えて、デザインという言葉を使うのも有効じゃないかと思います。そうじゃない人にはあえて使う必要はないかな、と。

田島:たしかに、新しいことへの興味が強い人もいますし。でも自治体でデザインって先進事例にもなりうるので、積極的に推していったほうがいいケースもあるような気がします。

砂川:自治体の人は馴染みはあるんですよね、ナチュラルに市民の目線に立てている人は多いんです。で、それを別の言葉で言い換えるとこういうことなんだ、って伝える意味はあるかなと思います。再現性ある型をもたらすとか、後輩に効率よく伝えるために、など。

田島:あと、共通言語として認知できれば、仲間と協働するときにも使えますもんね。

どのように利害対立から歩み寄れる関係性を築けるか?

ーーおふたりとも民間での経験もありますが、比較するとどのような行政ならではの問題や障壁を感じましたか?

田島:私はふだん大企業との仕事が多いので、マインドセットは少し似ているかなあ、という気がしています。

砂川:わかります。固有な点としては、民間の方がビジョンとか目指すべき方向がクリアな一方、行政は全方位でやっているというか、住民のためにってなるのでふわっとしてるかもしれません。

田島:たしかに課でミッションは決まっているけど、とはいえ、誰が対象かってなったら非常に広いし、ローテーション人事もあるからジェネラリストも多いです。フォーカスできない大変さはあるかもしれません。あと難しいのは公平性の問題。民間だとターゲットを決められるけど、行政だと市民全員のために、となって対象が絞れません。当然だしそうであるべきなんですけれど。でもその公平性の観点から一人でもサービスを使えない可能性があったら、使えない方の人に寄り添ってサービス設計をして市民側、職員側に双方に結果的に負担がかかってしまう、というようなケースもあるように感じています。

砂川:民間と少し違う点でいえば、時間軸の長さはあるかも。伝統的な企業なら100年先を、と言うけれど、とはいえ四半期で数字を追うことはやむを得ないですよね。一方で、行政は単年度ごとで数字をみるけど、その仕事が50-100年の地域のあり方に関わるので、時間軸の意識が変わってくるときはあります。

ーーすごい!職員さんもそんな長い時間軸で、考えて意思決定するのが割と当たり前なんでしょうか?

砂川:考えている人は、考えていますね、タワマンの規制とかいい事例です。短期的にみると三宮周辺に"職住近接"といってタワマンを建てると、人口も増えるし、税収も増えるし万々歳。でも30年50年後に、ニュータウンが高齢化するのと同じこと繰り返すよね、となって規制をかけました。他にも景観や積立金とかの論点はあるんですが、いずれにせよこの意思決定って未来への時間軸の話なんです。

ーー素晴らしい意思決定ですね...!

砂川:まあ、でも住民からすると「いやいや西区の辺鄙なところにしか住むとこないんだよ」っていう意見もありますからね。なので、そういう対立する住民の視点・長期的な視点をふまえて考える首長のような存在は、民間ではあんまり経験しませんでした。

田島行政が長期的に考えることと、住民の短期的なニーズが対立するケースもあるわけです。行政が長期目線で考えている内容を住民にいかに伝えるか、というコミュニケーションは非常に重要だと思います。特に市民をお客様ではなくて、まちづくりのパートナーとして位置づけたときに、そのためのサービス設計やコミュニケーションをどうするのか?はまだまだこれから考えなければいけない点だと思います。市民のニーズにただ答えるのではなくて、市民側にも積極的に動いてもらいやすいようなスキームをどう作るか。それは民間が顧客のニーズに即したあり方でよし、となるのとは違った価値観だと思います。

砂川:市民からしたら「今まで行政は自分たちの声にきちんと向き合ってこなかったのに、いきなり協働とか自治とか言われても…」って感じなんですよね。それを行政から押し付けている、ではなくてどう相互の理解を噛み合わせていくのか、というのは一つデザインの課題というか介入できる部分ですよね。

お二人の問い:「自分が良ければそれでいい」を乗り越えるためのデザイン・物語・対話

ーー最後になりますが、個人的に公共や行政とデザインに関連して、探求していきたい問いを教えて下さい。

田島:やっぱり、ここから人口減少が進み、自治体の職員数も減っていくことが明らかな中で、市民側の「自分がよければそれでいい」、を乗り越えられるような、参加したくなるような、利他を促すデザインとは何か?という問いを自治体におけるデザインを考える上でもっていたいと思っています。

砂川:わたしもすごいそれは興味あります。関連して、最近はナラティブという概念に興味があります。行政はしっかり自分たちの意義をコミュニケーションをしないといけない、逆に市民側からも行政に対してどうあるべきかを考えないといけない。それはまさに相互的な対話で、それができれば参加につながるかな、と思います。

ーー非常に共感します、利己的な時代になっているからこそ、まちづくりを介して自分を超えた存在への想像力を取り戻さないといけないと感じています。おふたりとも本日は貴重なお時間および物語をお聴かせいただき、ありがとうございました!

おわりに

砂川さん・田島さんのお話から、まずご自身のミッションや理想が先立ち、その未来をかたちづくる=デザイニングするために、"デザイン"を捨てるという選択をされているのが印象的でした。

また、行政内での仲間づくりなど、政治的な動き方や頭の使い方が求められます。やはり、これは避けて通れない道なのでしょう。そのような行政ならではの壁がある一方で、行政ゆえに生み出せるデザインの可能性も浮かび上がりました。消費者のニーズへ対応し、利益を上げるという資本の論理ではなく、公平性のもとでの善を目指すからこそ、時間軸や社会集団ごとの利害対立をどう調停していくのか?その歩み寄るためのプロセスや理解の形成のためのコミュニケーションは、デザインが力を発揮できる領域なのだ、改めて感じました。

このような現場の声が、おなじく行政や公共という文脈で尽力している方々に届けば幸いです。本マガジンでは行政×デザインの記事を定期的に更新しているので、よろしければマガジンのフォローをお願いします。また、その他なにかご一緒に模索していきたい行政・自治体関係者の方がいらっしゃいましたら、お気軽にTwitterのDMまたは📩アドレスpublicanddesign.pad@gmail.com宛にご連絡ください

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