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ナイアガラ

ニューヨークで一通りの観光を済ませたので、次はナイアガラの滝を見ようと思い、朝5時40分のナイアガラ行きのバスを予約しました。翌日、宿からまだ真っ暗な道を地下鉄まで歩きます。

ニューヨークは地下鉄が一日中走っているので、便利だなと思いながら、地下鉄で待つこと30分。なかなか来ないと思っていると、アナウンスがワーワー言っています。多分、というか絶対に英語なんだろうけど、最後の「Thank you」しか聞き取れません。ありがとうと言われても、周りの黒人はあからさまにキレています。プラットホームで待っていた人はゾロゾロと改札に戻って、地下鉄から出て行きます。意味が分からないけど、とりあえず同じ行動とり、近くのおばさんに聞くと「急行しか走ってないから、ここでは止まらない」らしいので、急行の駅まで歩きます。

急行に乗り込み、ナイアガラ行きのバス停まで行きます。ここで気付いたことがあります。確実に時間に間に合わない。でも、行くだけ行ってみます。昨日のバスチケット売り場のおばさんは「明日はこれしかないから」って、言っていたけど。

バス停に5分ほど遅刻して行くと、すでにバスは発車済みでした。普段、アバウトなくせに。係員のおじさんに聞くと「2時間後にあるから」と、言われます。あるんだ。僕の持っていたチケットでも平気らしいです。意味がわからないですが、待つしかないです。「このバス停にはベンチもあるし、室内だし、最悪は一晩過ごせそうだな」と、そんなことを思って居眠りして2時間後、ちゃんとバスは来て、僕を乗せて出発します。バスの運転手のテンションが異様に高く、バスアナウンスの最後に「チュチュ。チュッ!」とマイクに60近い白人のおじさんがキスをかましてきます。日本ではなかなか真似できない。

夕方、ナイアガラの近くのバッファローに到着します。ここからローカルバスで、ナイアガラまで向かいます。「ナイアガラまで行く?」と、バスのおばさんドライバーに聞くと「Yes」と言われたので乗車します。30分ほどたって「もしかしたら?」と思い、聞くとやっぱり全然違う所に行ってました。このおばさんドライバーはなかなかいい人で「ここで、降りて次のバスに乗って、そこから地下鉄に乗って、またバスに乗りなさい。無線で他のバス運転手に連絡しといたからね。ごめんなさい」と。大丈夫、もう慣れました。

寒い中、30分待って来たバスはさっきのおばさんドライバー。「これに乗れば最初のバス停に戻れるから、それから違うバスに乗りなさい」と、笑顔で言われ、笑顔で乗車賃もとられました。見るつもりもなく、バッファローの街を一周。分かったことは寂しい街ということでした。ふりだしに戻って、最初のバス停へ到着。「あと3分したら、ナイアガラの滝まで行くバスがくるからね」と最後まで微笑んでくれたおばさんドライバー。僕はちょっと苦笑い。

ナイアガラの滝まで行くバスがくると、黒人のおじさんドライバーに何度も「本当に滝に行くんだよね?」と、しつこく聞きたおします。「そうだよ、メーン」みたいな感じで、おじさんは笑っています。なかなか渋くてかっこいいオヤジです。このおじさんを見ていて気付いたけど、どうもデスクワークしている人より、体を動かしてる人のほうがやさしい顔をしている気がします。

おじさんに「滝の近くで、安いホテルは知らない?」と聞くと「オッケー、オッケー。まかせとけ」と言われました。乗車して40分、おじさんが「ここの近くはホテルがあるから、降りな」と言われ、降ります。確かにホテルはたくさんあるけど、どれもかなり立派な感じ。目の前にデニーズがあるから、そこで一晩過ごそうかなと思っていると、結構、手頃そうな建物を発見します。聞くと、一泊60ドルほど。まあ高いけど、外は氷点下だし、良しとします。

ただ、ここの受付のお姉さまが笑ってはいけない病気なのかと思うほど、真顔でした。終止真顔。たまに怒った顔をします。その2つのパターンしかないみたいです。

ルームカードをもらって部屋に入ります。かなりご立派で、こんなに贅沢していいものかと思うけど、いいでしょう、自分のお金だし。テレビでかいし、バスルームにはバスタオルも付いています。ネットも遅いけど、無線LANがなんとか拾ってくれます。

友達にメールを返信してる間に、ベランダで一服。「寒いな、外は」と思いながら、部屋に入ろうとすると開かきません。「開かない。オートロック。氷点下。誰もいない。ここは2階」頭の中をろくでもないワードがよぎります。人はその人の許容範囲を超えると絶句するらしいです。僕はしました。何も言えず、外を見てみます。誰も通らないし、僕の英語力では何を言っているか分からないはず。下を見ると、飛べない距離ではないが、飛びたくない距離。下にはカチンコチンの雪が待っています。
 
これは長引いても、いい結果にはならないだろうと思い、飛びかけるがやっぱり躊躇。でも、明日凍えている自分が頭に浮かんで来て、僕の背中を押してくれます。ダイブ。気付くと、カエルの様な格好になっていました。頭は重いらしく、かなり地面近くまで来てました。

痛いとか寒いとかは後回しにして、すぐにロビーでスペアのカードをもらいに行きます。ロビーのお姉さまの顔からは真顔は消えて、終止、般若を見ているようでした。

スペアカードをもらって、自分の部屋の鍵を開ける時に気付きました。部屋の中からも、違うロックをしたんだよな。でも、一応やってみます。当然、開かない。般若に開かないことを告げると「なぜ?誰か、中にいるの?」と言われ、「いや、ベランダ。閉まった。飛んだ。中から鍵しめた」実際は、もっとひどい英会話でした。それでも般若、いや般若さまは気付いたらしく、業者に電話してくれました。

30分ほど待っている間に、痛みと寒さがやってきます。「あんた今年は大殺界だから、ロクなことがないわよ」と、旅に行く前に母が言ってたことを思い出します。なるほど。生きるのが不安になってきました。その後、業者が来て、なんとか部屋にも入れました。部屋のテレビをつけると、トムクルーズがM:I:3の宣伝をしていました。僕も地味にやってたんだよ、今。

「なんか、今日は一日が長かったな」と、ベランダのドアが閉まらないように、気をつけてタバコを吸ってみます。右足が痛みだしました。

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