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【ヤングカンヌ国内選考 デジタル部門シルバー】アイデアマンじゃない人のためのファクト攻略法

当noteを読んでいただきありがとうございます。
PRAP JAPANというPR会社で働くプランナーの丸山といいます。

私は、相方とチームを組んで2023年秋開催のヤングカンヌ国内選考に参加。

デジタル部門でシルバーに選んでいただき、ヤングスパイクスへ出場することができました!


また、デジタル部門に加え、別のアイデアでインテグレーテッド部門の最終プレゼンテーションにも呼んでいただけました。

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企画の仕事を本格的にやり始めた25歳のとき、(遅まきながら)ヤングカンヌの存在を認知。

歴戦のクリエイターの方々の輝かしいアイデアや、素晴らしいレポートに心を打たれた私は、ヤングカンヌで海外への切符を勝ち取ることを30歳までの人生の一大目標としてきました。

しかし、他のコンペに比べて圧倒的な苦手意識があり、レベルも高く、毎年フラれ続ける羽目に…。

毎年プレゼンにも呼ばれず落胆、年齢的にもタイムリミットが迫る中、どうすれば勝てるかを自分なりに考えてきました。

そして最後の出場チャンスとなった2023年の選考、ようやく戦い方に光明が見え、2つの別のアイデアでスパイクス出場&最終プレゼンまで進むことができました…!

本noteでは、そんな僕らのチームが取った国内選考を突破するための戦術を、「アイデアマンじゃない人のためのファクト攻略法」というテーマで解説したいと思います。

これからヤングカンヌにチャレンジしようとしている方や、もう一段ジャンプしたい方にとって、少しでもヒントになれば幸いです。

※ACC公式Youtubeにて、動画版の解説も公開いただきました!


※「販促コンペ」「宣伝会議賞」「朝日広告賞」「Metro Ad Creative Award」のnoteも公開していますので、よければこちらもぜひ!




はじめに ー 英語もデザインもできない半端者が、どうやってペアを探したか


ヤングカンヌに参加する上での最初のハードルは、相方探しだと思います。

ここについては思い入れがあるので、少しだけお話しさせてください。

私は、組んでくれる方に巡り合うまでにとても苦労しました。

大手の広告代理店に勤める方は、近しい志を持つ方が集まる環境にいるので、比較的ペアを組みやすいかもしれません。

また英語・デザインも貴重なスキルなので、出来る方はペアを見つけやすいと思います。

あいにく私は広告代理店勤めではなく、ヤングカンヌに熱心な人間はむしろ特殊な職場環境にいました。

かつデザイナーでもない、英語も話せない。しかも当時は、コンペで何か賞を獲ったこともない…とツテ・需要・実績すべてゼロの人間だったので、ペア探しが大変なハードルとして立ち塞がりました。

そんな人間がどうすれば、熱量も力もある方にペアを組んでもらえるのか…私が選んだのは、スキルがないなら箔を付ければいいじゃないの精神。

他のコンペで賞を獲り、実力と実績を底上げしながら、贈賞式で出会った素敵な人にお願いするというマッチョな解決策でした。

具体的には、販促コンペ・メトロアド・宣伝会議賞・朝日広告賞に参加してきましたが、いずれも大目的にはヤングカンヌの相方探しがありました。

ゆえに、何としても賞を獲らねばならない、贈賞式に行かねばならないという気持ちで、どのコンペもかなり研究と物量を重ねていたと思います。

今になって振り返ると、コンペの先にも目標があることで「受賞は通過点」の意識が生まれ、結果自分の実力以上にモチベーションや数・質が引き上がっていたような気がします。

そして、販促コンペ、メトロアドで賞をいただけた際に知り合った、熱量・企画力・英語力を備えた素晴らしい人に声をかけ、ペアを組んでもらうことができました。

そんな風に、まず土俵に立つまでに長い道のりを経た私ですが、今は当時に比べ、ペアとマッチングできる環境がだいぶ広がってきていると感じます。

最近は、ACCが「ヤングコンペ相方マッチング」をテーマにしたイベントを開催しています。これ、めっちゃ5年前からやって欲しかった。

他にも多いのが、養成講座で出会った仲間とペアを組むパターン。

特に、ペアやグループを強制的に組ませてくれる講座は、私のようなコミュ障にとって大変ありがたかったです。

電通の阿部広太郎さんが主催されている、宣伝会議の「アートとコピー」コースは大変お世話になりました。

実はヤングカンヌの相方も、(期は違いますが)アートとコピーつながりです。

また、今参加している他の数多のコンペの相方も、ほぼ全員がこの講座でつながった方です。

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サラリーマンになってなお「日本代表になる」経験が勝ち獲れるチャンスは、この業界にしかない特別な魅力です。

しかも30歳までしかチャレンジできないので、挑戦しないのはすごくもったいないな…と、ペアがいない年からずっと思い続けていました。

なので、若いうちから同期やコミュニティですんなりペアを組めた方が超絶羨ましい!!!その環境と相方は特別なので、ぜひ大切にしてください。

逆に相方探しで悩んでいる方は、今は整備されつつあるマッチングの機会やSNSをフル活用して、勇気を出して声をかけたりDMしたりして、とにかく土俵に立つチャンスを作ってください。

相方探しで苦労した身として、心から応援します。


表現を捨て、ファクトで独自性を作る


この章からは、私たちがヤングカンヌで用いた戦術についての解説です。

スパイクス本戦も経た今、改めて国内予選が本戦と大きく違うかつ重要な点だと思うのは、とにかく参加者の組数が多いことです。

国内のハイレベルな若手ペアが100~150組くらい、同じテーマで企画を提出する環境では、意図せずアイデアが被りまくります。

そして、いかにアイデアが良くても被りは致命傷になります。

審査員の方の講評も経てより感じたのが、「日本代表」を選ぶ場において、企画が被ったチームはその時点で選ぶのが難しいということです。

良いアイデアでも、たまたま発想が被った…ということはあると思います。

が、運悪く被ったとしてもオリジナリティの評点は付けづらいし、かつ同じ切り口の複数チームから代表を選ぶのは、プレゼン1回で(部門によってはプレゼンも無しで)見極めるのが一気に難しくなるため、切らざるを得ない…という空気を感じました。

この中で勝ち抜けるためには、被らずに、高いアイデアジャンプで突き抜けることが最重要になってきます。

でもそれって他の参加者次第なところもあるし、狙うのはなかなか難しい…と思います。

僕らもここをどう安定して突破するか悩んで、ようやくラストイヤーに戦い方を見つけた感があります。

来年も出たかったのですが…皆さんに託すので、生かせそうだなと思ったらぜひ使ってください。

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結果的に、僕らはプランナー2人のチームになりました。

そこで、がっつりクリエイティブ畑の人やデザイナーを擁する競合と表現で戦うのは分が悪いと思い、かつお互い出自がPRだったため、【 ファクトで優位性を作る 】ことを念頭に戦い方を考えていきました。

この戦術を、実際に2024年度のアイデアと企画出しの流れを追いながらご紹介します。

この年のブリーフは、【 アートの世界のジェンダーギャップ 】でした。


そして、僕らが提出したのは以下の【 Bank”she” 】というアイデアです。
こちらのリンクより提出データのPDFをご覧いただけます

国際女性デーに、バンクシーのことを男性代名詞で報道している記事をハックし、全て女性代名詞に逆転させてハイパーリンクを付け、啓発サイトへ飛ばそう…というアイデアです。

この企画では、ひたすら被らない&ジャンプのあるユニークファクトを追求して以下のファクトの発見に至り、無事勝ち抜けることができました。

バンクシーは正体不明つまり性別も不明。
なのに、実はアジアの全国営メディアがバンクシーを「彼」や「He」に相当する、
男を指す代名詞で呼んでいる・・・というファクト。


このファクトに至るまでにどのように考えたのか?を例にとり、今回取った戦術を説明します。

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企画のアイデア出しでは、まずアイデアのスタート地点になる、心が動いた気付き…つまり「着眼点」をどこかに見つけて、それを育てていくことになると思います。

僕らの場合、「バンクシーって匿名画家なのに、みんな無意識に男だと思い込んでるんじゃないか」っていう発見を早い段階で相方が見つけてくれて、それいいね!となり育てていくことに決めました。

でも、この着眼点をアイデアに着地させるというのが、選択肢が無限にありすぎて難しいです。

例えばバンクシーの着眼点をデジタル部門の企画に昇華させるとして、シンプルに考えれば「google画像のバンクシーが全て女性に変わる日を作る」とか、「バンクシーを男女5:5で生成する画像生成AIを作る」などが真正面にはあると思います。

ただ、これらのアイデアは何かパンチに欠けるというか、「まぁそういうのよくあるよね」という既視感があります。

だからこそ、無限の選択肢の中からシンプルかつジャンプ力のあるアイデアを見定めるためのフックが必要になります。

また、着眼点はしっかり課題に紐づいているものほど、結局は被りがちにもなります。

現に「バンクシーは性別不詳なのに、みんな無意識的に男性だと思っている」という着眼点は、プリント部門ではそのまま提出したのですが、他のチームともめちゃくちゃ被っており全員まとめて落とされてしまいました。(被ってるの多すぎるので応募者に全作品公開する!という異例のケースでした…)

かといって、課題から距離のある変化球な着眼点から入ると、本来言いたかったことから遠のき、複雑な企画になりがちです。

つまり、
【 課題にしっかり紐づいた着眼点から出発して 】
【 ジャンプのある独自なアイデアに育てる 】

というハードルの高い工程が必要になります。

これをクリアするためには、良い着眼点だ!と思えるものを見つけた後、
それに甘んじずどれだけ粘って考え込めるか…が勝負を分けます。

…とはいえ、そんなこと分かってるよ!
粘ったところで、どうやったら良いアイデアが見つかるかが分からないんだよ!

という話だと思うので、なるべく再現性を高める方法として導いたのが、私たちの今回の戦い方となります。

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まず、過去の受賞作のデコンから、しっかり着眼点をジャンプのあるアイデアに育てている企画には必ず「戦略」「ファクト」「表現」の3要素のどこかで突き抜けた部分を作れていると考察していました。


この3要素と僕らが特定したのは、スライドの前段の構成や、サマリーとしてまとめる最初の章がこの要素を含むためです。

そして、コアアイデアまでのどこかの過程でジャンプさせることができれば、企画としておっ!と思えるものになる。

つまり、着眼点をそのままシンプルにアイデアにするのではなく、着眼点を戦略・ファクト・表現という係数のどこかでジャンプさせられれば、アイデアもジャンプしたものを生み出せる…と考えました。


そして、僕らは前述のことからファクトで戦おうということで、ここに絞って戦い方を考えていきました。

・ユニークファクトを探し当てる2つのコツ


そんな僕らが、被らない&ジャンプのあるユニークファクトを導く再現性を高めるための戦術としたポイントは、以下の2つです。


 ① 身近化連想


1つ目の「身近化連想」は、効率的に筋の良いファクトを見つけるための
発想の照準の定め方です。

ヤングライオンズで出される課題は定式化されており、ほぼほぼ決まって「関心の薄い社会問題を自分ゴト化させる」テーマです。

過去のお題の例


このときに探したいファクトの在り処は、割と明確だと考えています。

与件は
【 多くの人が日常で意識しない社会問題の啓発 】
なので、ターゲットは「自分には遠い・関係ない」と思っている現状があります。

そこで、この認識を打破する
【 日常で自然と親しむものの中にも、実はこの問題が潜んでいる 】
というファクトを見つけられれば、アイデアへの道筋ができます。

この方向に絞って探せば、筋の良いものが見つかります。

今回のバンクシーの話では、バンクシーが美術館やストリートアートといった枠を飛び越えて、人々が自然に見てるモノの中に出てくるのってどんなとき?どんな場所?と探っていって、その中からファクトを探しました。

例えば、
小説の中に出てくるバンクシー、漫画の中に出てくるバンクシー、映画の中に出てくるバンクシー…など。

考える中で、「メディアの報道の中に出てくるバンクシー」が良い線いってるのでは?と感じ、ここを掘っていきました。


 ② 仮説決め打ち思考


2つ目の「仮説決め打ち思考」は、実際にどのように面白いファクトを掘り当てるかの探り方についてです。

ポイントは、ファクトを探すときに、漫然とリサーチしていってその中で面白いものに巡り合おうとはしないこと。

「仮にこういうファクトがあったら面白いアイデアになる」というファクト仮説を着想し、それをピンポイントでリサーチすることです。


バンクシーの話では、色んな報道を漁りながら、何か面白いファクトないかな~という探し方はしない、ということです。

漫然としたリサーチで掴める、検索の目の前にあるファクトは、距離が近すぎて面白いことがあまりないです。

また、まだ皆がアクセスできる範囲の情報のため、被りを十分に避けられていません。

そこで、誰もが見つけないユニークなファクトを見つけるためには、まずファクトをブレストします。

その中で、「仮にこういう事実があったら面白いアイデアになるね」という仮説ファクトを見つけ、実際にあるかを決め打ちで検証する…という流れでリサーチを行うと、ユニークなファクトが再現性をもって見つけられるようになります。

今回のアイデアでは、先ほど報道×バンクシーという切り口から、「一般人だけでなく、マスメディアすらもバンクシーを男だと思っている」という事実が見つかったら面白いのではないか?という仮説ファクトを立てました。

そこからは決め打ちで検証しました。

今回はアジア圏の課題だったので、対象となるアジア圏の国営メディアの報道を調査。

すると、対象国全てでバンクシーを男性の代名詞、つまり日本語の「彼」や英語の「he」で報道しているニュースがあった、というファクトを発見しました。

こうして着眼点にアイデアジャンプをつけられる強いファクトが発見できた後は、シンプルにアイデアに昇華し企画が完成しました。

ファクトに強い人はこのようなアプローチを取っている方も多いと思うので、もしそうではなかった!という方がいらっしゃれば、意識していただけると良いのではないでしょうか。

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インテグレーテッド部門のアイデアとの差


ちなみに僕らは別の着眼点とファクトでもアイデアを作り、インテグレーテッド部門にも提出、最終のプレゼンテーションまで呼んでいただけました。

結果は受賞ならずですが、このステータスのアイデアは公開される機会もないので、受賞にギリギリ届かないアイデアの境界線を知っていただければということで、こちらも紹介したいと思います。

提出した企画は、以下の【 Cheaper Chups 】というアイデアです。
こちらのリンクより提出データのPDFをご覧いただけます


国際女性デーに、女性画家がデザインした限定チュッパチャプスを定価の1/10の値段で発売して話題化し、啓発のメッセージやサイトに誘導する施策…としました。

インテグレーテッド部門の最初の着眼点は、【 男性画家と女性画家は、同じだけ描いても10倍の収入差がある 】というポイントでした。

この情報は、オリエンシートに記載されていた参考リンクからリサーチしても行き当たるような、割と手前にあるものだったのですが、男女格差として分かりやすく、ギャップを価格差という形で見せられるため、アイデアに発展する期待が持てました。が、やっぱりこのままだとかなり被るだろうなとも同時に思いました。

そこで先ほどのファクト発想法で、この着眼点を活かせるファクトをリサーチしていき、
【 お菓子のロゴには、男性画家が手掛けたものがいくつもある 】
というファクトを発見しました。

代表的なものでいうと、例えばチュッパチャップスのロゴは、実はあのサルバドール・ダリが作っています。

他にも、プリングルス、ハリボー、ミルキーなども、男性アーティストが手掛けたものだと分かりました。

美術館や絵画に比べて、「お菓子」はグッと身近感が高まるので、このポイントで戦おう…ということで、デザインが男性画家作か・女性画家作かで、1値段が10倍違うチュッパチャップスというアイデアに仕上げた企画です。

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結果、デジタル部門の「Bankshe」はシルバー、一方インテグレーテッド部門の「Cheaper Chups」は最終プレゼンまでとなりました。


部門が違うので単純比較は難しいですが、受賞に至るアイデアとプレゼン止まりになるアイデアのギャップを知る上で、一つのサンプルとして活用いただければ幸いです。

ちなみに僕らの考察では、今振り返るとそもそもファクトのパワーでバンクシーの方が強いと感じつつ、ファクト以外の面でも減点があったのでは…と考えていました。

先述の3要素【 戦略・ファクト・表現 】でデコンすると、Bank”she”は以下のような構造で、ファクトに沿って戦略・表現もシンプルにまとまっているのではないかと思います。


一方、Cheaper Chupsは以下のような構造で、特に戦略の部分に穴があったのではと感じています。


「安い」をインサイトにパーセプション・ビヘイビアチェンジを促す戦略としましたが、これだと認知に寄っていて、本来伝えたいことがおざなりになっていないか?と感じました。

「女性画家が低賃金で絵を描かされていること」で、9割引でチュッパチャプスを食べられる…という体験構造だと、ややもすれば格差の存在がありがたいことと感じられてしまう可能性があります。

こうしたポイントから、話題化の期待感は審査員の方にも認めていただけたのですが、本来伝えたいメッセージへの着地が弱い…として落選したと考えています。

この例は、良いファクトを発見できたとしても、他の要素で方向性を間違えると惜しい企画になってしまう…というケースではないかと思います。

ファクトで勝負するなら、戦略・表現はファクトに沿う形でシンプルなものにする。他で変に味付けせずに、ファクトと心中する…という意識が大切だと感じました。

おわりに


以上、ヤングカンヌに挑み、スパイクス代表を勝ち取るまでに考えたことをお話ししました。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。

最後にお伝えしたいのは、実務や学業が忙しい中、何かを掴みたい、成し遂げたいという思いで、膨大な時間を割いてコンペにチャレンジする・・・そのあなたの行動自体が、何にも代えられないくらい尊いということです。

やっている最中は目の前のことに精一杯で分からないのですが、その熱をキャリアのどこかで持てたかどうかが、数年後に大きな差として現れることを、いま痛感しています。

どうか、その熱量と行動力を持てた自分を褒めてあげてください。
私も同志として、心から敬意を表します。

そんなあなたにとって、このnoteが少しでもお役に立てれば幸いです。

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