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仮題

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心霊オカルトコメディ小説です。
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#幽霊

3:雨漏り

 ナビは見るからに古い団地の中でも、ひと際古ぼけた、他の棟とは築年数も違うと思われる4階建ての建物の前で目的地到着を告げた。
山を背にした立地の為か、晴れた日でも日当りは良くはないのだろう。階段までの通路も苔に覆われ足場が悪く、この雨では気をつけないと滑りそうに思われた。
 来客用の駐車スペースに車を止めると、遵は傘もささないまま、迷うことなく奥の階段入り口に歩いていく。結実は二人分のビニル傘を手

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2:交差点

 結実がエントランス出口に車をつけて間もなく、遵も助手席に乗りこみ、手慣れた手順でカーナビを操作し、暗記しているのか1時間弱ほど離れた場所の住所を入力した。そして行き先も、そこへ行く目的も、そこがどういう場所であるかも説明しないまま、眠そうな目を細めて、無言で前を向いている。

「…君は。私に君をどこに送らせるの」
 ゆっくりハンドルを切り、発車させながら尋ねる。細い路地を抜ける為に、何度か信号に

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