モノたちの独り言

　無意識に違う誰かの立場になって『この人今どう思ってるのかなぁ？』とか『あの人は今どう感じたかなぁ』といったことを考えてしまうことが多い。ＴＶを見ていても、災害に遭った人、入賞を逃した人、やったことが無駄になった人、最近ではオリンピックの出場を辞退した人など。また逆にいい方についても、宝くじに当たった人やモテモテのイケメン 等々、色んな立場で色んな状況の人の立場になって、勝手にその人の気持ちになってしまっている。振り返るとこんなことは子供の頃からだった。

　しかし私の中で少し大変なことが起きている。最近は人の気持ちだけではなく守備範囲が人以外に及ぶのである。自分でもおかしいのだが、古い寺院を訪れた際に建物の土台となっている礎石や、人通りの少ない路地に置かれた自販機の中に長らくいるのであろう売れないジュース、池の水面でユラユラ揺れるゴミのビニール袋など。そんなものに感情はないのだが、何となくそいつらの立場になってしまうのだ。重たいだろうなぁ、臭いかなぁ、やめたいだろうなぁとか。少し私は変わったところがある人間なのかもしれないが、このこと以外ではいたってまじめで、信用できる人物である(笑)

　今回は数々のモノの気持ちになって、そいつが思っているだろうことを独り言として代弁してあげたい。きっとあまり実績はないであろう試みだろうけど。

《トイレットペーパーの独り言》
　『そもそも俺の家系は昔から立派な仕事しとんねん。俺の兄弟たちもみんな重要書類になってるねんで。すぐ下の弟もこないだ契約書になったて聞いたわ。やのになんで俺だけケツ拭かなあかんねん！？ その後水でジャーや。そらあんまりやと思わへんか？ 在庫の状態からいって明日あたり俺 出番やねん。まぁええ仕事はするつもりはつもりやねんけどな、・・・なんか釈然とせぇへんねんな』

《バーベキューの時のカボチャの独り言》
　『おいおい、お前ら忘れてへん？ 俺おるで？ どいつもこいつも肉しか食わへんやつらばっかりやな、俺を持ってきたんお前らやろ？ 網に乗せるだけやったら持ってくるなや！ 肉ばっかり大事にして！ ホラ、 俺もう食えるで！ 』
　『おい！ 肉が焼け過ぎんようにするために俺を下敷に使うな！俺の上に焼けた肉置くな！おい！コラ！』

《寿司のシャリの独り言》
　『あーあ、なんでよりによって上に乗るのが玉子なんやろ。どうせやったら俺、トロの下が良かったわ。まぁそれはムリでも せめてアワビかウニの軍艦ぐらいいかしてくれや、頼むわ。ほんでも最近はベルトに乗ってグルグル回されるけど、上が玉子やったらなかなか取ってもらわれへんから、カピカピになってばっかりやねんなぁ』

《力士の化粧まわしの独り言》
　『イヤ、嫌ちゃうんですよ。嫌やないんですけど私ね、一応西陣織なんですわ。西陣織いうたらホラ、高級品ですやんか？ ちゃいます？ 友達はカイらしい舞妓さんの帯とかやってる奴が多いのに、私ね、毛むくじゃらのデブの股の前にぶら下がっとるんですわ。イヤ、伝統やし嫌とはちゃうんですけどね、なんかねぇ・・・』

《スーパーで売ってる安いうどんの独り言》
　『気ィ付けてね。アタシすぐ出来上がるからね。ゆでる時間なんかほんの1分かそこらで食べられるからね。奥さん、もうええよ、もうそろそろ火ィ止めて、すくってよ！』『ホラ、アカンて。奥さん、今ラインとかやってる場合やないですよ！ 早よ早よ！ もうあかんて！』『奥さぁぁぁぁぁぁぁん！あかん！ 溶けるぅぅぅぅぅ！』
　『あーあ、ホラ言わんこっちゃない！ もうレロレロですやんか！ 離乳食ちゃいますよ奥さん！ 自分で言うてナンですけど、プチプチ切れてもう美味しないですよ？ 食べます？』

《超高級化粧クリームの独り言》
　『アタクシ、お高ぅございます。日本円で定価８万円也でございますのよ。おフランスはパリ サン＝トノレ のお店にも売られているような高級品なのを アータご存知？
　アラまぁその顔でアタクシをお使いになるの？ 冗談でしょ？ いくら成分が良くったって、その顔じゃ甲斐がないんじゃございません？ せめてもう少し若い時から使わないといけませんことよ。ま、しないよりはよろしいかとは思いますけどね。オーホホホホホ！』

　妄想は果てしなく、また１円にもならない。