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Money - 100 yen bill travelogue -

「貨幣」ができるまでの半年間

2024年1月

すでにこの時にはINDEPENDENTトライアル に応募しようと決めていました。
応募要項出ていないのにもかかわらず、です。

何でINDEPENDENTなの?と思うかもしれませんが、もともと知り合いや先輩がSPR(札幌)予選や本選に出ていたので、とても馴染み深い企画でした。その後上京し、INDEPENDENTのセレクションツアー公演を見てより一層思いを強くしたわけです。

INDEPENDENTは東京大会がないので、私が出られる枠は出場者の活動地域を限定しない「トライアル」のみ。しかも大阪での上演です。正直めちゃくちゃにハードルは高いわけです。
でも「今出ずにいつ出るのだ」と心の中のクシャナ殿下が言いますし、お休みを取りやすい職場に転職したので今しかないのかもしれない!と思い、過去の応募要項を読み尽くしたり、トライアル出場経験者の有元さんにもいきなり電話してあれこれ尋ねたりしたものです(有元さんありがとうございました!)

この「トライアルありき」の姿勢と以下の順序で「貨幣」は選ばれました。
①出場するなら早めに稽古がしたい&しっかりとしたストーリーでやりたい!ということで文学小説を一人芝居にしようと決めていました。
②もともと「女生徒」に興味がありましたがトライアルでやるには長すぎますし、セリフのカットも難しい…15分でできる面白いやつ…を探して随分青空文庫にはお世話になりました。
③こうして最後に残ったのが「貨幣」「渡り鳥」「山崎富栄の日記」で、とにかく普遍的で見やすく筋立てのしっかりしたものという基準で「貨幣」となりました。
※太宰オタクかと思われそうですが全然そんなことはないです。「ヴィヨンの妻」も今年初めて読んだくらいですから。

2024年2月

演出・平井を呼び出しての稽古1回目。
読みを2回くらいやってから、立ち稽古した記憶。
とにかくこの時は、セリフがまだ馴染んでなくて苦労しました。

応募要項が出なくてソワソワする日々。
日程が「眠れぬ森の人々」に被ろうものなら1発OUTです。
にもかかわらず古戸森ちゃんにフライヤー作成オファーを出しました。
この後の彼女の多忙さを思うといいタイミングで依頼できました。

2024年3月

家の近所で稽古場を取ることに成功。これが後々「眠れぬ森の人々、稽古場取れない問題」をちょびっとだけ解決するのでした。

百円紙幣は昭和初期生まれという設定なので、レトロできっちりした衣装を買ったんですが、どうもしっくりこないし生地が硬くて動きづらく、ボツにしました。

なんか入学式のお母さんみたいです。

動きやすさとレトロさと何なら可愛さも欲しいよね…と欲張り全開でネットの海を彷徨っていて奇跡的に見つけたのがこの1着。

奇跡すぎませんか?見れば見るほど紙幣です。
イヤリング。
アデリアレトロのポップアップストアで
一目惚れして買いました。


3/19にようやく応募要項が発表され、二次審査と三次審査とINDEPENDENT:24が、「眠れぬ森の人々」やオファーをもらっている公演に被っていないことを確認し、「出られる!身体はやばいけど!」と思いながらエントリー準備を進めます。
「全部うまくいった場合」の今年のスケジュールは本当にやばいです。やばくなりたいね。

2024年4月

「眠れぬ森の人々」情報公開。
そして、葡萄チームで「燈籠」をやる麻彩さんとの合同稽古がスタート。これがまたいい効果を生み出していたように思います。「燈籠」も面白いので是非みてほしいです。
4月であらかた動きとキャラクター設定は固めました。
ただ、ノーカットで15分以内に収めるのは難しく、「眠れぬ森の人々」版はノーカットで、トライアル版は少しセリフをカットしようということになりました。
6/17以降でトライアル版に切り替えなくてはならないと思うと震えますね。

左から麻彩さん、隆也、一嶋

また、4月は古戸森ちゃんにフライヤー用の写真を撮ってもらいました。紙幣の肖像となる部分です。色んな角度で撮りました。

後に決定版となる写真
遊びで撮ったやつ
帰路、珈琲を吟味する一嶋

エントリー書類を書き、添付資料を作り、大阪へレターパックで送付。
応募動機欄みっちり書きすぎてて自分でも引きました。

4/30、台本を外して通し稽古に挑むなど。

2024年5月

トライアル書類審査が通りました。小躍りです。
劇場さんとの打ち合わせをし、出場が6/26に決まり、新幹線と宿を取りました。
東京駅から新幹線に乗るの、初めてです。こわいので改札の下見までしました。

トライアル出場情報が発表され、そして「貨幣」フライヤーの公開!
思ったよりも反響があってとても嬉しい限りです。7年前、yhsの大阪公演を見てくれたお客様も予約してくださいました。もちろん勝ちに行きたいのですが、大阪や近郊のお客様に久々に劇場でお会いしたいですし、初見の方には是非覚えてほしいなぁという思いが強いです。

5/25 檸檬チームの合同稽古・通し。
初めて隆也・麻彩さん以外のキャストにお披露目しましたがバッチバチに緊張しました。あんなに通してるのに!ここからは土台と骨の拡張作業です。
通しの動画を見返して、見返しすぎて訳が分からなくなりしょげげ…となりつつ、新たなプランを相談し、採用されました。

2024年6月

6月3日〜9日
怒涛のスタジオ稽古。
といっても今回はオムニバスなので、通算檸檬回通し3回、貨幣通し5回くらいでした。

6月8日
川久保晴さんの一人芝居単独公演を観ました。川久保さんも過去にINDEPENDETを勝ち上がった猛者なので勉強するぞ!と勇みましたが、登場だけで人を惹きつけるあの魅力・引力で本当にただただ圧倒されて劇場を出たらフラフラになりました。見られてよかったです!

下北沢のツタヤで太宰治の短編文庫本をパラパラめくっていたら「燈籠」と「貨幣」が一緒に収録されていて、嬉しくて思わず買ってしまいました。普段本を買わないのに!

6月11日
場当たり。舞台から見ると「客席近いじゃん!」と思いましたが、客席から舞台見ると「舞台遠いじゃん!」となる謎。その謎時空についていけず、場当たり(通し)ちょっとボロボロ。恥ずべきことですが自分に言い訳してしまい、自分にキレ散らかしました。

ズーン

6月12日
しっかり自宅でお湯に浸かり、心身柔らかくしてからゲネに臨みました。この日は「貨幣」のみゲネ写真を麻彩さんに撮ってもらい、残りの作品は自分で撮りました。葡萄に出演する成田さんにもたくさん撮っていただきました。

ゲネと初ステの間の休憩時間、緊張なのか何なのか、鍵をかけないままトイレに入り、手を洗って拭いているところで他のキャストさんがお入りになったので驚かせてしまいました(危ないしごめんなさい)。

初ステ
自分で言うのはあれですが、いい初日だったんじゃないかと思います……!!!!!!(イヤリングは落としましたが…)
感想ツイートで好評をいただき、本当に一嶋琉衣としてもこんなに評価をいただけるのは初めてだったので有頂天でした。しかし褒められて調子に乗るのもわかっていたので、隆也に「調子乗っちゃうどうしよう」と言ったら「次のステージ崩れたら(腕ブン!)だよ」と言われました(本当にラリアットとかゲンコツをするわけではないです…本当に!)

6月13日
葡萄初日。ゲネ写真デー。
カトレアの照明ビカビカする場面全然撮れなくてごめんなさい。
一緒に稽古してきた麻彩さんの静かな闘志を見ました。

『燈籠』の一場面。
ゲネ写真選別をする一嶋。
アルバムに登録された写真は、
檸檬397枚、葡萄535枚にのぼります


6月14日

2ステ目
初心を忘れずに開場前に隆也に「なんか一言くれ」と言ったら「常に予選の気持ちで!」と返答。開場前に通し稽古をしていたおかげか、予想していたような崩れは起きずドンキーラリアット回避しました。ただもう少しエネルギーは必要とのこと。

6月15日
張り切って小杉湯で茹でられましたが、薬草湯で煮られながら「いま身体柔らかくしても本番は夜なんだよな」と気づきました。
葡萄からの檸檬は意外と時間がなく、焦ってソワソワキリキリしてたら麻彩さんが仕事を代わってくれました。

3ステ目
開場前に通し。最大級の満席回は薬草パワーでねじ伏せました。とにかくエネルギー。パワー。(もうあまり覚えてないのです)

コアラを愛でる一嶋

6月16日
銭湯に行く時間を睡眠にあて、家でしっかりお風呂。

4ステ目(千秋楽)
「ヴィヨンの妻」を音読してから「貨幣」開場前通し。12:00回はお客様も眠いので、とにかくしっかりはっきり言葉を尽くしました。確かこの回だったと思いますが、目が合ったお客さんがうなずいてくれてとても嬉しかったです。

檸檬も葡萄も大盛況のうちに終演!
ご来場の皆様ありがとうございました!

打ち上げもとても楽しかった!予約したお店が「店構えがなんか食べログと違うぞ!」と不安になりましたがご飯めちゃくちゃ美味しかったです🍚🍖

「INDEPENDENT、勝っても負けても飲みに行きましょうね」と言ったら「いや、勝ちに行くんでしょ?」と返してくれる劇団員たちありがとう!

6月22日
INDEPENDENTトライアルに向けた調整稽古day。セリフのカットがあり、接続が不自然にならないようにある程度練ってきてはいたので稽古はすんなりと出来ました。
でもまあ無意識に、檸檬回が大好評だったゆえに自信と慢心が見えていたそうでそいつァーアカンよと、ぴしゃり。(ぶたれてません)

6月23日
この日の稽古は南参さんと越智さんが来てくれました。そんなの意識してしまうに決まっております。前半部分の通しでちゃんとリキみまして指摘されました。まあ前半はいつも緊張してしまうんですが…。でも二人とも楽しんでいただけたようです。精進!

6月25日
仕事を終え、入念な荷物チェックを行なってから出発!

吉祥寺GORILLAアクキーと缶バッジつけ、
劇団員たちを連れていきました。


新幹線、本当にワクワクしましたね。改札通るだけで感動です(電子チケットより切符の方が特別感ありますよね…!)
名古屋まではずっと景色を眺め、名古屋からは前述の太宰の短編集を読んでいましたが、3作目の半分くらいで着いてしまいました。意外と名古屋大阪間は近い。

新大阪で肉すいを食べ、一旦チェックインしてから宿の近くでたこ焼きを食べて、その日は解散。

浪花そばというお店で。次は千とせに行きたい。
いや美味かったわ…粉が美味い…


もう身体がガチガチだったのでシャワーでなく浴槽に浸かりました。エイトザタラソの入浴剤を持ってきて大正解。悪夢も見ずにゆるやかな眠りに落ちました。

6月26日
本番の朝。
7:00 起床、風呂
8:00 ストレッチ
9:00 朝ごはん
10:00 宿出発
10:15 道頓堀グリコ前(!?)

グリコポーズしないんかい

10:30-13:30 なんばグランド花月(!?)

何遊んでんだ!って思ったことでしょう。特に吉祥寺GORILLAのメンバーは朝から私たちの写真がLINEグループのアルバムに上げられていくのをどんな目で見ていたんでしょう。だってリハまで結構な時間があったんだもの。

特にこの日のNGKはミルクボーイと中川家が出てるっていう、個人的スペシャルな回でしたが他の芸人さんもめちゃくちゃ面白かったです。チケット代安く感じた…。
ミルクボーイはあの定番フォーマットをさらに進化させたバージョンでした。本当お疲れ様です、足を労わってほしい。最初の「ついに!'お金'をいただきましたー!」で何だかグッときたというか、ただの偶然なんだけど、そういう小さい偶然がとにかく嬉しかったです。
中川家はずっと可愛かったです。何あれもう何なの、可愛かったですとにかく。

お昼は自由軒に行って名物カレーを秒で食べ、

少し歩いて難波八坂神社へ戦勝祈願に。おみくじ引いたら一嶋は大吉、隆也は吉でした!LUCKY!

写真で見るよりも大きいですよ

ルンルンしながらいったん宿に戻ってリハの準備をしてから劇場に行きました。
劇場の階段のかっこいいこと!好きな青色です。

まず照明の確認(立ち位置の調整など)、音響の確認を経て、通しをするという爆速リハでした。これに備えてキッカケを最小限にしていたのもあってスムーズに終わりました。一番予想外だったのが劇場での声の響き方で、ZAPより響く響く!これは本番でお客さんが入っても同じように思いました。すごい劇場だ。

リハが終わった後、全チーム集合して諸々の説明を受け、舞台開放の時間。
この舞台開放が無かったらちょっと危なかったかも。この時間で立ち位置や角度をINDEPENDENT版に細かくアップデートできました。

開場中。
尋常じゃない緊張でした。
「めっちゃ大阪エンジョイ旅行」の写真なんかSNSにあげるんじゃなかった。
「勝ちに行くんでしょ?」と励ましてくれた劇団員の顔。
檸檬回のお客様の熱い感想。
川久保さんの単独公演すごかったな。
手が冷たい。舌が乾く。
勝てたとして何位?そもそも勝てるのか?
え、満席なの?まじで?
そういえば今週のしいたけ占い…「大願成就」って書いてあったな…
でもしいたけさんって毎週「山羊座さんは頑張ってますよ」だしな…
そんなグルグルいろいろ考えてしまい「今週の山羊座は強い…強い…」と
ぶつぶつ言っていたので隆也が引いてました。

そして上演順のくじ引き。正直檸檬回で慣れているからトップバッターがいいなあと思っていたらまさかのトリでした。

さて本番ですが…何を意識したとか、どうしたこうした言うのも野暮なのであまり書きませんが…
起き上がって目を開けた瞬間に「お客様がしっかり見ていてくれているな」と感じました。あの一体感は何なのでしょうね。とても心地よかったです

結果発表。
もう脳はオーバーヒートするくらい色々文字と音とがごった返してるのに、顔の血の気は引き、手は凍りつき、息してたのかさえ分かりません。
二位でした。二次審査二日目二位。こんな二づくしなことがあるんでしょうか。
嬉しさと信じられなさとで泣きました。ちょうど目の前に有元さんと二朗松田さんが座ってまして、有元さんの優しい目を見て余計泣きました。
恐らくトリだったことも得票効果があったのでしょう。くじを引いてくれたお客様、ありがとうございました!

さて、三次審査に進むことになり、喜んでばかりもいられません。三次の方がより熾烈な戦いになるからです。先ほど二次審査での支持率が開示されましたが…まじか…三次審査でどうしたら勝ち残ることができるのか!?
まずは一度体を休めて、ゆっくり考えていきたいと思います。

「貨幣」とは

モデルは乙百円券なのではと推測しています。聖徳太子のデビュー作です。


「眠れぬ森の人々」用に作品のあおり文を考えました。
「私は、七七八五一号の百円紙幣です。」
換えられ、手渡され、流されていく百円紙幣の、一世一代トラベローグ。

トラべローグ(travelogue)は「旅行記」という意味です。
しかし作中の彼女は旅行ではなく流浪と言ったほうが正しい、そんな人生を歩みます。人間の浅ましく愚かな姿もたくさん見てきた中で、ふと思い出す「生まれてきてよかった」という出来事。それをなぜ語るのか?残すのか?そんな思いを込めて、あえて「一世一代トラべローグ」なんて大仰な文を使いました。


彼女は居場所だけでなく自身の価値すらも知らぬ間に変わっていきます。
専門家ではない上に、理解はしていてもうまく説明ができないので、明治〜現在の「モノに対する価値」については下記のサイトをお読みいただけると分かりやすいかと思います。※歴史は大好きなのに政経は得意ではないのです…..。

「ヴィヨンの妻」を読んでいたらここにも現れました。
「百円」の価値の変わりようが示されています。

それから十日ほど経って、こんどは大谷さんがひとりで裏口からまいりまして、いきなり百円紙幣を一枚出して、いやその頃はまだ百円と言えば大金でした、いまの二、三千円にも、それ以上にも当る大金でした、それを無理矢理、私の手に握らせて、たのむ、と言って、気弱そうに笑うのです。

太宰治「ヴィヨンの妻」


「貨幣」は今こそ上演する意味がある作品だと思っています。
これは語ればまた長くなってしまうので、劇場で、彼女の口を借りて語りたいと思います。お待ちしています。

「貨幣」
原作:太宰治
演出:平井隆也(吉祥寺GORILLA)
出演:一嶋琉衣(吉祥寺GORILLA・yhs)
宣伝美術:古戸森陽乃(かるがも団地)

INDEPENDENT:24トライアル 公開三次審査

7/30(火)
19:30開演(19:00開場)
※予備日7/31(水)・8/1(木)

チケット
https://www.quartet-online.net/ticket/in24tr3

in→dependent theatre 1st
〒556-0005
大阪市浪速区日本橋3丁目3-19 インディペンデントシアター1st
OsakaMetro堺筋線 恵美須町駅 1A出口 右手(北)8分

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