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季節の挨拶 南から北へ

そちらはまだ肌寒いのでしょうか、それとも意外と暑いのでしょうか。この時期は、その日の天候によって体感気温が大きく変わることと思います。まだフリースも手放せないでしょう。体調には気を付けてください。

僕は元気です。久しぶりに北緯35°まで降りてきて初夏を過ごしています。猛烈な湿気にうんざりしつつも、夜になれば空気全体が震えるような蛙の大合唱を聞き、夕立の様な通り雨や遠くに見える入道雲、そして時々やってくる雷を見るたびに「あぁ、これが故郷の初夏だったな」と思い返しています。今この瞬間も、夕暮れと共に遠くから雷鳴がやってきています。思わず窓際まで移動してきて、床に座り、扇風機を回しながらこの手紙を書いています。故郷の季節をゆっくりと眺めることは、まるで自分の想い出をなぞって確認していく作業のようです。きっと、すぐに来るであろう梅雨の終わりにかけて猛烈な雨がやってきて、それが終わると、誰かが切り替えたように夏本番がやってくるのでしょう。

僕は高校生の時から、梅雨明け直後に見える、北の空に並んだ入道雲が好きでした。きっと僕の勘違いでしょうけど、あれが去って行った梅雨前線なんだと昔から思っていました。たまたま見えた雲なのかも知れませんが、高校生の頃、グランドで部活の練習をしながら梅雨明けの空を眺めていたのです。そんな簡単に梅雨前線なんて見えるわけないと思うのですが、今年も6年ぶりに探してみようと思います。

僕の住む地域は、比較的古い場所だからか、文字通り、道の角角に神社や寺が建っています。大きな川の堤防には、治水を願ってなのか、小さな祠も至る所にあり、久しぶりに日本らしさを感じています。家に関しても、北の地ではあまり見かけない「雨どい」は瓦屋根の端という端をカバーしていますし、立派な石垣や垣根も街中で見かけます。どの家も洗濯物を庭やベランダで干していますが、それを見るたびに「本州の人はすぐに洗濯物を外に出したがる」と言われたことを思い出し、少し笑いそうになります。帰ってくるまでは、風景の一部として認識していませんでしたけど、故郷を離れ、久しぶりに帰ってくるとそれまで気にも留めていなかったものに気が付くみたいです。

今、これを書いている瞬間、そちらでは森の中でヒグマが寝ていることでしょう。オジロワシが子育てに勤しみ、もう少しすれば海で採れるマスの種類も変わってくる頃でしょうか。きっと明日の朝にはアオジが囀り、川原の葦にはノビタキが止まっていることでしょう(そういえば、アオジの囀りは僕が感動した事の一つです。本州の中部の人間にとってアオジは冬鳥で囀りは聞けませんから)。そちらの季節を恋しく思います。

こちらでは川原でオオヨシキリが鳴いています。久しぶりに聞くその囀りは、より一層に夏本番を思わせ暑苦しいくらいです。ツバメが忙しそうにヒナを育て、ヒヨドリとイカルが鳴き、水の張った田んぼには数えるのが嫌になるくらいサギ類が歩いています。先月まで、田んぼには空が映って綺麗でしたが、すっかり稲も大きくなって緑の田んぼになりました。もう少しで、水抜きの時期ですね。新しい梅で梅酒を漬けたり、鮎を食べたりして、こちらもこちらで、季節を感じています。

毎年やってくる梅雨が、こんなに懐かしむに足るものだとは知りませんでしたが、きっと来年位は飽きているでしょう。梅雨なんて別に楽しいものではないので。

何かに託けて、またフラッと遊びに行きたいとは思っていますが、いつになるやら、そんなモチベーションがいつ湧くのやらわかりません。とりあえず、また手紙を書きます。では、お元気で。