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伝えたくないことが増えていく。関東農業視察を終えて

私は、ライターとして農業関係のウェブメディアや雑誌などに文字を書いている。農業のこと、農家のこと。農園を訪問すればするほど、農家に会えば会うほど伝えたくないことが増えていく。困ったものだ。

先日、久松農園の久松さんコーディネート&アテンドで、関東視察が開催された。その視察によって「伝えたくないことは伝えない」というライターあるまじき方針を決定づけた。

沼南ファーム|橋本さんの一年間密着ドキュメンタリーが見たい

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千葉県、柏市で110haの広さでお米を作っている沼南ファーム。悲しいかな、降雪による新幹線の遅れで視察には参加できなかった。しかし道中で、沼南ファームの橋本さんにお話を伺い稲作の奥深さを感じた。

大きな規模でお米を作るということは、もちろん収穫量とか売上、経営、政策なんかとも切り離すことはできない。でも、それ以上にたくさんの農地をさまざまな地域の人から預かっており、地域のさまざまな人たちとの対話や丁寧な対応を繰り返している。かなりきめ細かい。地域に根ざした大規模稲作農家のこの側面ってあまりフォーカスされていないのでは。

一年間(365日)、橋本さんに密着取材をしてドキュメンタリーを作ってほしい。誰か!!びっくりするくらい多岐にわたる仕事があって、度肝を抜かれるのだろう。

柴海農園|畑や集荷場を訪ねると曲が流れてくる

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千葉県印西市で8〜9haで有機・多品目栽培をする柴海農園。メンバーが増えていく中での葛藤などを経て、今のゆるやかな雰囲気の中にピリッとした何かが垣間見れる農園になった、のかな。

おやつに頂いたジャガイモの焼き芋が最高だった。焼き芋とは、ジャガイモのことである。

畑でも出荷場でもお話を聞いていると、頭の中に曲が流れてきた。PVも見えた。言葉にしてしまうことが野暮なように感じる、そんな農園。でも、「柴海農園をイメージしてできた曲です」と言って披露しても、その場所に行って同じ空気を味わったメンバーにしか伝わらない気がするし、メンバーにも伝わらないかもしれない(笑)

在来農場|レストランのお客さんに聞いてみたいこと

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千葉県佐倉市にある在来農場、We are the farmという在来農場が経営しているレストランが東京都内に6店舗ある。

「農家がレストランも経営している」というケースは、農場を見ながらごはんが食べられるなど、畑とお店に何かしらの連続性があるような気がする。在来農場は空間的(場所)にもちろん、コンセプト的にも農場とレストランがいい意味で不連続な気がしてとても興味深かった。”ポスト在来種”みたいなかっこよさに憧れる。

レストランだけ知っている人は、どのような農場をイメージしているのだろうか。気になる。レストランのお客さんに農園イメージの絵を描いてもらいたい感じ。

茅ヶ崎海辺の朝市・伊右衛門農園・のうえんこえる

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神奈川県茅ヶ崎市で、毎週土曜日の朝に一時間だけ開催されている茅ヶ崎海辺の朝市。そこに出店している伊右衛門農園、弟子ののうえんこえる。

海辺の朝市

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出店者が来る前から列をなすお客さんたち。アイドルの握手会のように列の長さを出店者である生産者同士が確認できる。長ければ「お客さんをがっかりさせたくないというプレッシャー」、長くなくても「仲間の生産者に会えるから楽しみだ」という声を聞いた。

推しのように若手農家を応援するお客さん、10年間毎週通っているお客さん。私には、10年間毎週顔を合わせている人はいない。

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今回の視察メンバーのホームである京都大原の朝市にも訪問させてもらったことがある。おもしろいと思ったのが空間の使い方。京都は生産者の間が近くて密接で、お店同士の境界線が曖昧、朝市としての一体感があった。京都の町家的。

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海辺の朝市は、これでもかというほどに店(軽トラを停車する位置)の間にスペースがある。同じ空間で野菜を販売しているが、別の店をはしごしている印象。

もともとの会場のスペースの違いもあるだろうが、空間の使い方の違いは文化の違いもあるような気がしておもしろかった。

伊右衛門農園

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伊右衛門農園の野菜(品種選び含め)はとにかく魅力的。朝市に来るお客さんたちは、マニアックな品種名を当たり前のように口にしていた。私はジャガイモの話しかついていけない。いかに自分が偏った品種知識しかないか痛感。

そして、茅ヶ崎の朝市や伊右衛門農園は私がもっとも伝えたくないし、伝えたところで伝わらないだろうと思っている農園のひとつ。(私の技術不足も否めない)

「興味があったら、海辺の朝市に行ってみて」ということしかできないし、それでいいと思う。

のうえんこえる

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のうえんこえるは、伊右衛門農園や近隣農家の血をしっかり受け継いでいる感じがした。慣行とか有機とかでなく、ものの見方や考え方みたいなところが。繋がって続いていくってこういうことなのか、と。

久松農園|変化適応力のあるお客さん

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今回コーディネート、アテンドをしていただいた茨城県土浦市の久松農園。道中のお話や視察ふりかえりなどで、久松農園のお客さんは変化することへの適応力がある人たちなのかもしれないと思った。薬剤耐性でもジャガイモシロシスト抵抗性品種の話でもなく、適応性の話。

農園の形も、送られてくる野菜セットも、決して固定されることなくドラスティックに流動的に変化し続けている。その変化をニヤニヤしながら楽しんでいる、楽しめる人が久松農園のお客さんで、次はどう変わるのかと楽しみにしている人もいるかもしれないと想像した。もっと言えば久松農園に関わる人たちは皆そうなのかもしれない。いつ頃からその雰囲気は醸成されたのだろうか。

視察メンバーもとにかくおもしろくて、道中いろいろな話を聞いた。これもまた伝えたくないこと。私にはジャーナリスト精神は皆無だと再確認した(笑)

伝えたくないことは伝える必要なし

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この視察を通じて、伝える側として以下のことは忘れずにいたいし、伝えたくないことは伝える必要ないと決心がついて、未練なく方向転換できそうだ。

ー伝えたくないことを惰性で伝えてはいないか
ー伝えたくないことも無理やり伝えていないか
ー自分も相手も本当に伝えたいことを伝えているか
ー伝える方法をいろいろ検討したか

おしまい!

※今回ご一緒した方々が登場します。独断と偏見まみれですが、ご興味ある方はぜひ


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