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手を重ねて

君の手が僕に触れる。
壊れ物を触るようにゆっくり優しく。

僕は君の手を握りかえさなかった。
ううん、握り返せなかった。

僕の手はいつだって、臆病者なんだ。


「もしかして、手繋ぐの嫌い?」

2人でご飯に行った帰り道。駅から君の家まで向かって歩いていた途中に君はそう言った。

「……バレた?」

「うん。だって絶対にそっちから手繋いでくれないし」

「ご、ごめん」

「まぁ苦手ならいいよ。そういう人多いもんね」

君はいつも理由を聞かない。遠回りに僕の気持ちを察して解ってくれる。
優しい人なんだ。ほんとうに。
でも今は好きだから理解で済むかもしれない。それがいつか我慢になってしまわないだろうか
。いつだって不安なのはぼくだけだろうか。

「……手、繋ごうか?」

恐る恐るそう言うと君は「別に無理しないで」と軽く笑う。

「無理してないよ」

君の小さな手を僕から握った。力を入れると簡単に折れてしまいそうなくらい、小さくて柔らかい手だった。

しばらく歩いていると君は何か言いたげに僕の顔を見た。そうして心を決めたのかのように僕に「ねぇ」と声をかける。

「……なんかさ、めっちゃ手震えてない……?」

あぁ、僕ってほんとうにカッコ悪い。

「あのね、今まで必死に隠してたけど俺さ、緊張しいなの。恥ずかしがり屋なの。だからいやだったの。……これで繋がない理由わかった?」

一気に早口でそういうと君は呆気にとられたような顔をしてからフフッと笑った。

「……緊張してくれてるんだ?」

「……当たり前だろ。……好きなんだから」

そういうと余計に手が震える。超かっこ悪くて超ダサくて、なんだか手汗までかいてきたような気がして……ほんとうにもう消えてしまいたいくらいだ。君の前では格好つけていたかったのに。

チラッと君の顔を覗き見る。引かれたかなと思っていたけれど君は嬉しそうに、愛しそうに繋いだ手を見ていた。

「……私も大好き」

そう言ってギュっと強く君は僕の手を握った。
もうだから……そんなこと言われたら余計に手が震えて仕方ないじゃん。だから嫌だったんだ。
でも何でだろう。
一度繋いでしまうと、解きたくなくて。
嬉しそうな君の笑顔を見てしまったら、また繋いでも良いのかなとか思ったり。

何度も歩いた道なのに、なんだか初めて通る道のように感じて。
君の家がずっともっと遠くにあればいいのにな。

恥ずかしいから絶対君には言わないけれど。
君もおんなじ気持ちだといいな。

心が合わさって重なるように僕は君の手を握り返した。

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