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【気まぐれ連載】映画でまーる vol.6|2024年1月号|雪国の魅力を味わいながら考える『北の果ての小さな村で』|文:アーヤ藍@石垣島

長野で育った私。冬でも内地に比べてとても温かいこの島の環境に救われている一方で、やはり雪も恋しくなります。皆さんもたまには雪景色、楽しみたくありませんか?今回紹介するのは雪国グリーンランドを舞台にした作品です。

チニツキラークというグリーンランド東部にある人口80人の小さい村に、デンマークの新米教師アンダースが小学校の教師として赴任します。言葉も習慣も生活環境も違う極寒の地で、最初は壁にぶつかりまくるものの、次第に村の人たちとの交流を深めていく……という王道ストーリーではあるのですが、その“道中”にいろんなユニークポイントが詰まっているんです。

一つは、グリーンランドとデンマークの複雑な関係性が描かれていること。グリーンランドは200年以上デンマークの植民地統治を受けていた歴史があります。1979年に内政自治権を得て以降、徐々に自治権限の範囲を広げていっていますが、現在もデンマークの「一地方」です。独立を求めている人も多いのだとか。

ただデンマークの方が進学や仕事等の選択肢も多いため、グリーンランドの人たちもデンマーク語を学ぶよう授業が設けられています。映画の主人公アンダースの役目もまさに、デンマーク語を村の子どもたちに教えること。村に派遣される前の面接で、アンダースが「僕もグリーンランド語を学ぼうと思う」と面接官に話すと「それはやめて。今の社会で生きていくには彼らはデンマーク語をしゃべれないと困るから」と答えが返ってきたりもします。

でも村の中には歴史的背景からデンマーク語を押し付けられることに抵抗感をもっている人も。デンマーク語を理解できるのに、アンダースに対してグリーンランド語でしか返答しないおばちゃんなども出てきます。言語とアイデンティティの問題は世界共通ですよね。

2つ目のユニークポイントは、「教育の正しさ」に対する価値観がゆさぶられるところ。ある日、クラスの中の一人の少年が、何の連絡もなく学校を一週間欠席します。アンダースが家を訪問して訳を聞くと、祖父と犬ぞりで狩りの旅に出ていたというのです。アンダースは学校に通って勉強することの大切さを訴えますが、祖母はこう答えます。「彼の夢は猟師になること。デンマーク流に教育しないで。人生に必要なことはすべて祖父が教える」。

あなたならどう考えるでしょう?昨今話題のSDGsにも「質の高い教育をみんなに」という目標がありますが、「質の高い教育」とは何でしょうか?
本作ではグリーンランドの昔ながらの叡智に詰まった暮らしぶりもいろいろ紹介されています。そうした知恵は学校での勉強に劣るものでしょうか?
”いい”教育を受けて、”いい”職業につく。それが”いいこと”とされていった結果、人間は自然から遠ざかり、環境問題をはじめとした様々な問題が起きているとも言えるのではないでしょうか。

ちなみにグリーンランドでは猟師で生計を立てる人はもうほとんどいないそうです。かつては誰もが猟師に憧れていたのに……。

アンダースはどう「答え」を出していくのか、本編で見てみてください。

そして、こうした「ドラマ」を包み込んでいるのがグリーンランドの壮大な自然です!広い雪原、雄大なフィヨルド、魔法のようなオーロラ、シロクマの親子やクジラの群れなど、画面を通じてグリーンランドの自然をたっぷり味わえます。

それもリアルな村で撮影しているからこそ。本作の監督は、ドキュメンタリー的な要素がつまったフィクション作品を得意とする人物。本作も大まかなストーリーは脚本で書かれているものの、主人公は本当にデンマークからこの村に派遣されて来た新米の先生。村人たちを演じているのも実際の村の人たちです。実際の犬ぞりで走るシーンやアザラシの伝統的な料理をつくるシーンなども見応えがありますよ!

雪国の魅力をたっぷり味わいながら、ちょっと世界の問題に想いを馳せる時間を過ごしませんか?

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映画『北の果ての小さな村で』
2019年 / 94分 /フランス

この記事を書いた人

ai ayah
ユナイテッドピープル(株)で環境問題や人権問題など、社会的メッセージ性の強い映画の配給・宣伝を約3年手掛ける。2018年春よりフリーで、ライター、イベント企画・運営、映画PR等を行う。

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