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膝の上  【猫とおばさんシリーズ】

 わたしが膝に座ると、おばさんは時々こう聞いてくるの。

「お姉ちゃまはおばさんと初めて会った日のこと覚えてる?」

 わたしは猫ですから正直そんなには…。でもその時のことをよくおばさんが話してくれるから、そうだったかもねって、もはや記憶を刷り込まれちゃったわ。


 譲渡会ってところで、とにかくじろじろわたしのこと見てたのがおばさんだったの。相当下調べをしてわたしのことを「この子!」って決めて会場に来たそうで、他のケージには目もくれずわたしとわたしの赤ちゃんが入ってるケージの前から離れないのよ。あの頃からあの人は一途だったわ。保護主さんも「お姉ちゃま希望なんですね?」って笑ってたわよ。


「よかったら抱っこしてみますか?」


保護主さんがわたしをケージから取り出しておばさんの膝に乗せたんだけど

おばさんが言う、”覚えてる?”っていうのはその時のことみたい。 

手渡されたわたしはおばさんの膝の上でちんまり静かに座っていたらしくて、わたしのその重みと丸い背中を見てて、「こんなにじーっとして、怖いよね、ごめんね」って申し訳なく思ったそうよ。それと、今じゃ首輪も何でも嫌がるわたしが、その日は可愛くみえるように首にシュシュを巻かれてたそうでね。今でもそれを思い出すとおばさん切なくなるんですって。あの人の頭の中どうなってるんでしょうね 笑 

猫がこんなにも柔らかくてお餅みたいな生き物だって知ったのもあの時が初めてだったそうで。今でもたまにわたしのこと「クルミ餅ちゃん」て呼ぶことがあるんだけど……でもわたしクルミ餅って何なのか知らないんですけど?それも猫みたいに可愛いらしいものであってほしいわ。

 話は戻って、あの譲渡会の日。人見知りのわたしが初対面の知らないおばさんの膝の上でじーっとしていたなんて……会場の空気に我を失ってたんだろうとは思うけど、でもねわたしは今でもおばさんの膝の上が大好きだから、あの時も何か心地よく感じたのかもしれないわね。

 ともあれ。今日みたいにこうやってわたしを膝に乗せると、おばさんの頭には今でもあの日のことが蘇るんですって。あの時の猫が今こうして膝の上にいるなんて奇跡のようだって。「ありがとね、ありがとね」って額を撫でてくれるんですけど、そんなふうに言ってもらえるとくすぐったいのよね、わたし達もまあここで快適にさせてもらってるんだから。

ふふ、わたし達って言ったの、気づきました?
実はわたしにとって姪っ子ちゃんみたいな子もその譲渡会から一緒にこのおうちに来たんです。

またその話はおばさんか、その子からお話ししてもらいましょうね。

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今日も読んでいただいてありがとうございました。

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