美装屋さん

彼の腕には大きなかぶれた跡があった、どうやら洗剤にやられたらしい。バケツに手を突っ込んで、雑巾をしぼる。笑った顔には、お世辞にも綺麗とはいえない、黄色い歯が覗いていた。

人が行き交ったあとの、階段を磨いた雑巾を絞る、うっすらと汚れたバケツの水。それが人生ってやつなのかもしれない、水の滴る雑巾をぼんやりと見る。業務用掃除機の音がいつまでも耳に響いて、痛いくらい頭の中で反響し続けていた。


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