記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『劇的茶屋 謳う死神』 にコロサレル!

2020年、世の中は一変した。
ホテル・旅館や飲食店はもちろん、それはエンタメの世界でも。
ライブハウスや劇場に観客を収容する事ができない中で、一縷の望みになったのが“ライブ配信”や“VOD”だった。
今回はそんなライブ配信の中から【落語×ミュージカル×ライブ配信】という面白い試みをしている劇的茶屋の演目『謳う死神』について。


劇的茶屋について。

昔の人がそうしたように
美味しいものを食べながら面白いものを見る。
”おふたついっぺんに楽しめる”
​ちょっと欲張りなお茶屋さんです。
​日本で愛され続けてきた落語たちを
現代風に親しみやすく、
ミュージカル仕立てでお送りします。
​お茶やお菓子も、心を込めて選びました。
チケットと一緒に、
あなたのお家へお送りします。​
​食べて飲んで笑って、
皆さまと同じ時間を過ごしたい。
​それが劇的茶屋の想いです​。
ー劇的茶屋HPより

※これより先は落語の演目『死神』についてのネタバレを含みますので、ご注意ください。

落語の異端演目 『死神』 。

この古典落語の異端と言われる『死神』は現代落語の祖、初代三遊亭圓朝がグリム童話を元にしたイタリアのオペレッタ 『クリスピーノと死神』を翻案した噺である。
よって“死神”というあまり日本の古典には馴染みのない存在が出てくる。
(ちなみに日本の古典芸能で言うと近松門左衛門人形浄瑠璃に記述が残っているようです。)
それを戦後に六代目三遊亭圓生がより愉快にわかりやすくブラッシュアップして、現在の形を作り上げた。
現在最もポピュラーなサゲ(オチ)の形を作ったのもこの圓生。
この演目がもう一つ異色な所はこのサゲのバリエーションが豊富な所でもある。
上記の最もポピュラーなサゲは「死神が蝋燭の火が消えると言った瞬間に男が倒れる。」という演出。
その後十代目柳家小三治「成功するが喜んだ所でくしゃみをして自分で蝋燭の火を消してしまう。」というサゲで有名になり、
グッとラック!でお馴染みの立川志らくは「成功した事でもう一度人生を始められる今日があなたの誕生日だと死神に騙されて勢いで自分で火を消してしまう。」という独特なサゲを考案した。
ちなみに私が最も好きなサゲは七代目立川談志の全く救いのない最悪なパターン。弟子である志らくの『死神』の面白さに影響されて、作り上げた談志の『死神』。
機会があればぜひ聴いて頂きたい。


「劇的茶屋ver.の死神は一体どのようなサゲなのか?」に注目して鑑賞してみても面白いかもしれません。

謳う死神の未来。

劇的茶屋の『謳う死神』はオンラインとは思えないほどの魅力がある。
芝居・音楽・背景などの映像処理、そして脚本。
全てが絶妙なまでに調和して『死神』の世界に没入させてくれる。
個人の環境などにもよるだろうが、私が鑑賞した時は音が飛んだり、映像が乱れたりするようなストレスもほとんど感じなかった。

落語は一人の噺家で完結するとてもクローズドなエンタメである。
噺家は一人で何役も演じるだけではなく、体を叩いて効果音を出したり扇子を使って様々な小道具に見立てたりしなくてはならない。
だからこそ噺家の腕が試されるわけだが…
その落語の演目を複数の役者が演じて、音楽が流れ、シーンごとに背景が変わっていく。
世界がまるでグザヴィエ・ドラン『Mommy/マミー』のようにどんどん広がっていく感覚。
フランソワ・オゾン『婚約者の友人』のようにモノクロに色が付く感覚。
落語の世界観をここまでオープンな所に連れてきて、総合芸術として昇華した事に感嘆した。

幼い頃はCDや動画で名人の落語を観聴きしていた。
(名人の噺は例え音声だけでもすごいんですよ!)
でも初めて新宿末廣亭で生の噺家を観て聴いた時、鳥肌がたったのを今でも憶えている。
今まで自分が観聴きしていたモノは“落語”ではなくて“落語のCD”であり“落語の動画”でしかなかったとあの時に気づいた。
あの寄席に漂っているなんとも言えない空気感。
それが全てだった。

画像1



今の新型ウィルスが落ち着いて、もしも劇的茶屋の『謳う死神』を生で体験できる時が来たら…そんな実現するかどうかもわからない未来を夢見るのもいいかもしれない。

蝋燭の火が消えるまでは。


演劇にコロサレル!
ニシダ

頂いたサポートはこのnoteとは全く関係ないことに使わせて頂きます。でもエンタメのためになることに。