「誰が決めてんの?」って話。

改めて春学期を振り返ると、色々とネガティブなことや今後向き合っていかなければいけない課題が山のように浮かんでくるけれども、学んだことももちろんある。

「日本から来た」と言うと、「アメリカの飯って、日本と比べてどう?」とか、「日本食が恋しくならないの?」と、よく食について質問される機会が多かった。

そのような質問の中で、「日本人は、毎日寿司を食べているんだろ?」というものがあった。少なくとも自分の育った環境では、寿司を毎日食べるという習慣はなかったので、「基本寿司って安いもんじゃないから、毎日食べるようなもんじゃないよ。」と答えた。しかしながら、質問者に「日本では寿司=高級な食事」と思わせてしまうと、新幹線で寿司を運び、魔法みたいな蛇口からお湯を出し、タッチスクリーンでアイスクリームやリンゴジュースまで頼めてしまう楽園、我らが回転寿司が「寿司」として認識されなくなってしまう。「そんな勘違いをさせてしまってはいけない」という使命感に駆られ、すぐに「家族で週末の昼に行けるような、価格が安めに設定されている店もあるけどね」と答えた。

そんな心の揺らぎがありながらもその会話を終えたのだが、「自分が勝手に日本を代表しているような感じで喋っていいのだろうか」という違和感が残った。「寿司は毎日食べるもんじゃない」と言ったけれども、日本に住む人間の中で、寿司を毎日必ず食べる人がいるかもしれない。誰からも選出されていないのに、勝手に日本代表として話していることに気持ち悪さを感じた。ただ、「日本では…」とか、「日本人は…」という括り方の質問をされると、勝手に日の丸を背負わざるを得ないのである。

それが嫌で、「自分はこうするけど、日本人とはいえ一人一人違うから分からない」と答えたことも何度かあるが、明らかに「そういうことを聞いてるんじゃないのよ」という雰囲気になった。

もう一つの違和感として、「日本に対する理解ってそんなものなの?」というものがあった。先に書いたように、私の周りには寿司を毎日食べる人はいなかったし、私自身も寿司を毎日食べることはなかった。なので、何となく、「日本人は〇〇」というような括られ方が、居心地が悪かった。

そんなことを、別の学生に話してみると、「そもそも、「日本人は毎日寿司を食べるんだろ?」という質問自体がマイクロアグレッションだよ」という答えが返ってきた。無知なので、マイクロアグレッションという言葉の意味すら知らなかったのだが、

マイクロアグレッションは、別名「小さな(マイクロ)攻撃性(アグレッション)」。人と関わるとき、相手を差別したり、傷つけたりする意図はないのに、相手の心にちょっとした影をおとすような言動や行動をしてしまうことだ。「微細な攻撃」とも訳されるマイクロアグレッションがなぜ相手を傷つけるかというと、その言葉や行動には人種や文化背景、性別、障害、価値観など、自分と異なる人に対する無意識の偏見や無理解、差別心が含まれているからだ。

https://ideasforgood.jp/glossary/micro-aggression/

ということらしい。
まぁ、確かに「日本人は寿司を毎日食べるんだろ?」と聞いてきた人に意図的な攻撃性はなさそうだった。そして、自分の心にちょっとした影が落ちたので、マイクロアグレッションということになるのかもしれない。でも、そうなると、「日本でも、寿司は毎日食べるようなものではない」と答えた自分も、寿司を毎日たべている、日本のどこかにいるかもしれない誰かの心に影を落としているかもしれない。マイクロアグレッションがマイクロアグレッションを生む、悲しい世界だ。

また別の学生から、「学校の近くに美味しいポキ屋(ポキ:海鮮丼みたいな外見をした、実際はかなり海鮮丼とは異なるハワイ料理)があるから、日本食が恋しくなったら行ってみたら?」と言われたことがあった。どうやらポキを日本食だと勘違いしていたみたいだったので、「ポキは日本食っぽいけど、ハワイ料理らしいのよ」と言うと、「そうなのね。ごめん今のマイクロアグレッションだったかも」という返事。

この会話に関しては、自分は別に気分を害したわけではなく、単純にポキは日本食ではないということを伝えたかっただけだ。しかし、他に気になったことがある。

それは、「なぜ質問をした側が「マイクロ」アグレッションと決めつけられるのか?」ということ。もし仮に、自分が日本食というものにとてつもない誇りを持っていて、ポキを日本食だと思っている人がいたことに対して非常に傷ついたら、それはもはや「小さな攻撃性」ではない。意図的ではない攻撃性が相手にとって「小さい」レベルのものだっていうことは誰が決めているんだろうか?

「無意識の攻撃性」に意識的になることが出来て、「マイクロアグレッションだった」と反省しても、「相手の傷が小さくなかったらどうするんだ」という話になると、質問者としては袋小路だ。まぁ、気にしていなかったので別にいいんだけど。自分が質問者側に立つ場合は、かなり困る。

そんなことを考えていると、日本にいる時から、相手は意図的ではない(傷つくと思っていない)けど、かなり深い傷をつけられた言葉や会話が思い出されてムカついてきた。

ちなみに、「マイクロアグレッション」という言葉を教えてくれた人とも日本食の話になり、日本に行った時に食べた唐揚げの味が美味くて忘れられない、と言っていた。自分は、「唐揚げは、日本ではコンビニとかにも置いてあるほど、よく食べられているからね」と、どうにか「勝手日本代表」にならないような返答をした。

別れ際、「ところで、今日の夕飯は何?」と尋ねてきたので、「食堂で食べるからまだ分からない…」なんてゴニョゴニョ言っていると、「意外だね。日本人って毎日唐揚げ食べると思っていたから。」という「今までのマイクロアグレッションの話は何だったんだよ」と思わせるハイセンスなジョークを飛ばしてきた。しかも「ジョークだからね」という、傷つけないための保険付きで。

でも、受け取る側にとってもジョークだって、お前が決めていいの?まぁ、別に傷ついてないし、めちゃくちゃ笑って楽しく別れたからいいんだけど。

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